会長短信「春夏秋冬」
会長短信「春夏秋冬」はメールマガジン(メルマ日獣)に掲載しています
会長短信「春夏秋冬(48)」
「SFTS対応等による”One Health”の実践の強化に期待」
既に平成29年7月27日付けで私から地方獣医師会会長宛に通知いたしましたが、7月24日付けで厚生労働省健康局結核感染症課長から「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に係る注意喚起について」という通知を頂戴しました。この通知は、SFTSについて、発熱・衰弱等に加え血小板減少等の所見が見られた飼育ネコ及び飼育イヌの血液・糞便からSFTSウイルスが検出された事例と、体調不良のネコからの咬傷歴があるヒトがSFTSを発症し死亡した事例が確認されたことを受けて発出されたものです。
この通知の中では、次のような注意喚起等がなされています。
①患畜が上記のような症状とともに自力採餌困難等で入院を要するほど重症であり、かつ他の感染症が否定された場合には、SFTSウイルスの感染についても疑うこと。
②SFTSウイルスに感染した疑いのある患畜の取扱いにはPPE(Personal Protective Equipment :手袋・防護衣等)により接触感染予防措置をとり、汚物等を処理する際には次亜塩素酸ナトリウム含有消毒剤による処理やオートクレーブなどの加熱滅菌処理を行うこと。
③日常的な対策としては、飼育ネコ・イヌを介した感染はまれと考えられること、屋内飼育ネコについてはリスクがないことから、過剰に飼育者の不安をあおらないように配慮しつつ、飼育者に対するダニの駆除剤投与についての指導を徹底し、飼育者はネコ・イヌの健康状態の変化に注意し、体調不良の際には動物病院を受診することを勧奨すること。
なお、本件については、国立感染症研究所獣医科学部の森川 茂部長から種々の助言を頂戴しており、特に①のような症例に遭遇した場合には、森川部長又は山口大学共同獣医学部の前田 健教授に連絡をいただくとともに、動物のSFTSの実験室検査についてもこれらの機関において無料で実施していただけるとの申出を受けています。
現在、SFTSは、日本、中国及び韓国においてヒトでの流行が確認されています。日本では、平成24年秋に発症した50代の女性が原因不明で死亡しましたが、医師からの依頼を受けて、国立感染症研究所、山口大学及び東京農工大学の獣医師等が連携してウイルス分離・同定及び遺伝子解析を行い、平成25年1月にSFTSと診断されました。それ以降、毎年60名前後の患者が報告され、致命率は20%となっています。また、これまでは西日本において感染者が出ていますが、厚生労働省研究班の調査結果によると、北海道や東北、関東に生息するマダニからもSFTSウイルスが検出されており、病原体は全国的に分布していることが明らかとなっています。
本会は、平成25年11月に日本医師会と学術連携協定を締結して以降、平成26年10月に第1回日本医師会・日本獣医師会による連携シンポジウムを開催し、これまでに5回の連携シンポジウムを開催してきました。その中で、SFTSは医学と獣医学との密接な連携の成功事例として、第2回及び第3回の連携シンポジウムで演題として取り上げてきました。このSFTSについては、今回の飼育ネコ・イヌにおける感染と、ネコを介した人への感染事例を踏まえ、今月27日には兵庫県獣医師会で、9月3日には四国地区獣医師大会・学会で、9月13日からの日本獣医学会等で演題として取り上げられる予定です。
本会としても、本年11月には第6回連携シンポジウム「薬剤耐性(AMR)のワンヘルス・アプローチ(仮題)」、来年2月に大分県で開催される獣医学術学会年次大会では第7回連携シンポジウム「人と動物の共通感染症の“One Health”アプローチ(仮題)」を開催する予定です。人と動物の共通感染症が今後一層世界中で注目される中、55地方獣医師会が、先見の明を持って学術連携協定を締結し構築された地方医師会との連携体制の下で“One Health”の活動を実践され、獣医師の活躍を力強く支援しつつ社会に貢献されますよう期待しています。
平成29年8月22日 公益社団法人 日本獣医師会 会長 藏内勇夫
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