会長あいさつ
令和6年 新年のご挨拶
会長 藏 内 勇 夫
令和6 年の新春を迎え,地方獣医師会の皆様,会員構成獣医師の皆様,関係団体の皆様におかれましては,ご清栄にて新年をお迎えのこととお慶び申し上げます.本年も皆様方がご健勝でご活躍されますことをお祈り申し上げますとともに,本会に対しましてなお一層のご指導,ご支援を賜りますようお願い申し上げます.
令和元年12 月に中国で発生が確認された新型コロナウイルス感染症は,パンデミックとして人類を恐怖に陥れ,国民の日常生活や経済活動に大打撃を与えました.しかし,本感染症も初発生からすでに4 年が経過し,その間における感染の進行と有効なワクチンの接種により,昨年5 月から季節性インフルエンザと同じ5 類感染症に移行し,言わば共存状態として一定の収束をみました.
このような新型コロナウイルス感染症の流行の落ち着きを踏まえ,書面開催やWeb 開催を余儀なくされてきた本会の通常総会をはじめ各種の会議や行事も,令和4 年4 月末に開催された全国獣医師会会長会議以降は,原則として通常の対面開催に復帰いたしました.
このようなポストコロナの新しい時代の幕開け時期の令和4 年11 月に,第21 回アジア獣医師会連合(FAVA)大会・第40 回日本獣医師会獣医学術学会年次大会(令和4 年度)が福岡市で開催され,さらにFAVA 大会に先立って開催されたFAVA 代表者会議において,私はFAVA 会長に就任いたしました.このような一連の取組の成功は,新型コロナの第8 波の流行が懸念される中にあっても全国から多数ご参加いただいた地方獣医師会や会員構成獣医師の皆様方の絶大なるご支援とご協力の賜物であり,改めて心より感謝申し上げます.
さて,令和5 年6 月27 日に開催された第80 回通常総会及び理事会において,私は引き続き6 期目の会長に就任させていただきました.また,同日に開催された日本獣医師連盟役員会においては,長年連盟の委員長をお務めいただいた北村直人先生が勇退され,後任の委員長に村中志朗日本獣医師会前副会長に就任いただきました.新たな執行部体制の下で,日本獣医師会と日本獣医師連盟が一心同体,車の両輪となって諸課題の解決に邁進する覚悟を新たにしました.
まず,ワンヘルスについては大きな進展がありました.本会は,平成22 年に活動指針として「動物と人の健康は一つ.そして,それは地球の願い.」を採択し,また,全国55 全ての地方獣医師会と共に医師会と学術協力推進協定を締結し,医師と獣医師による全国的なワンヘルスの実践体制を構築しました.さらに,政治的な動きとしても,令和5 年3 月13 日に与党に「ワンヘルス推進議員連盟」が設立されました.
ワンヘルスについては,国内ばかりでなく国際的にもその重要性が強調されています.令和5 年5 月に開催されたG7 広島サミットの首脳宣言においては,ワンヘルス・アプローチの適用による国際保健上の脅威への対処が表明されました.また,政府が6 月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」にもワンヘルス・アプローチが明記されました.これらは大きな成果であり,今後における政府の具体的な政策及び予算措置にも期待されるところです.
今後における動物由来の新興・再興人獣共通感染症や薬剤耐性菌問題などに対処していくためには,日本国内のみでなくアジアをはじめ世界中において同時に連携して有効な対策に取り組まなければなりません.昨年8 月1 日には「FAVA ワンヘルス福岡オフィス(FOF)」が設置されたことから,私はFAVA 会長としてFOFを新たな活動拠点とし,アジア地域の若手獣医師を日本の獣医学系大学等に招聘して1 年間の研修を行う「アジア地域臨床獣医師等総合研修事業」も活用しながら,ワンヘルスの実践活動を日本からアジア,そして世界に広げて参りたいと考えています.その過程においては,世界獣医師会(WVA),国際獣疫事務局(WOAH(OIE)),国連食糧農業機関(FAO),アジア獣医学教育協会(AAVS)等の国際機関とも連携しつつ,アジア・オセアニア地域の獣医技術の向上と獣医師活動の活性化に向けて尽力して参ります.
このようにわれわれ獣医師が,ワンヘルス活動によって人獣共通感染症の感染源・感染経路・宿主にわたる隙間のない防疫対応において中心的な役割を担うことは,国民の理解を得て,獣医師の地位向上と処遇改善,更には若手獣医師のワンヘルス活動への参加による獣医師会組織の強化にも繋がるものと期待しています.
一方,本会や地方獣医師会の長年の努力の成果として,動物愛護管理法の改正による販売用の犬・猫へのマイクロチップ(MC)の装着・登録の義務化が令和4 年6 月に施行されました.しかし,法制化は実現したものの,その仕組は私たちが事前に環境省と共に想定していた姿とは全く異なるものとなりました.すなわち,本会が26 年もの長きにわたり構築してきたAIPO とは別に「環境大臣登録」が義務化され二重運用を余儀なくされており,また,狂犬病予防法の特例措置は現場の実態に合わず市区町村における犬の登録事務等が大混乱している状況にあります.このため,一昨年7 月から環境省のご提案による円卓会議をこれまでに12 回開催してきましたが,昨年11 月時点において同省や厚生労働省からは具体的な改善策は提示されない状況が続いています.
このような事情を踏まえ,動物愛護管理法は議員立法であるため,与野党の関係議員連盟及び所属の国会議員等に対して,「環境大臣登録」からAIPO の仕組を活用した「民間の認定登録機関の登録」への移行による一元化,MC 法定登録と狂犬病予防法に基づく犬の登録の一体的運用を実現するための狂犬病予防事務の市区町村からの一括委受託等について,遅くとも令和6 年の通常国会における動物愛護管理法の改正による実現を強く要請しています.
地方獣医師会におかれては,新型コロナ禍のような事態においても狂犬病予防注射事業を円滑に運用するため,狂犬病予防事業全体の市区町村からの一括受託を推進され,両登録事業の一層円滑かつ効果的な運用体制の確立に向け本会と共にご尽力をお願いいたします.このような法制度の抜本的な改善は,犬猫等の飼い主をはじめ国民全体の利益向上に繋がるとともに,獣医師会組織の基盤強化にも大きく寄与することが期待されますので,皆様のご理解とご協力について重ねてお願いいたします.
もう一つの新たな法制度として,愛玩動物看護師法が令和4 年5 月1 日に施行されました.すでに,本会の酒井健夫顧問が機構長を務めておられる一般財団法人 動物看護師統一認定機構により,愛玩動物看護師指定講習会及び愛玩動物看護師国家試験予備試験が実施され,昨年2 月19 日には第1 回愛玩動物看護師国家試験が実施されました.幸いに国家試験の合格率は88.9%と高く,昨年4 月からは待望の国家資格者として18,000 人余りの愛玩動物看護師が誕生しました.愛玩動物看護師は,獣医師の指示の下に診療補助業務が実施可能となり,獣医師との役割分担と連携の下で,高度かつ多様なチーム獣医療提供体制の構築が期待されます.その具体例として,日常の健康管理や早期受診など総合的な獣医療を提供する「かかりつけ動物病院」と,専門的かつ高度な獣医療を提供する「二次診療施設」との連携体制の構築について,本会内に設置された認定・専門獣医師協議会による専門獣医師制度の確立に取り組んでいます.また,愛玩動物看護師による訪問看護を活用した高齢飼育者の支援や地域コミュニティーの再構築,動物介在教育・医療の推進等,地域社会と連携した犬猫等の飼育協力体制の確立にも貢献できるものと期待しています.
同様に本会が長年取り組んでいる課題として,獣医師の地域及び職域における偏在の解消と,その主な要因となっている公務員獣医師及び産業動物獣医師の処遇改善があります.これらの職域の給与水準については相互に影響しているため,同時に改善に取り組む必要があります.これまでの全国知事会,都道府県議会議長会,総務省等への粘り強い要請活動の成果として,近年は多くの地方自治体で初任給調整手当を獲得し,また,福岡県や徳島県では医療職給料表に替えて特定獣医師職給料表の制定といった成功事例もあります.今後は,初任給調整手当に替えて恒久的な獣医師職手当や,獣医師独自の給料表の制定を全国で実現していく必要があります.また,農業共済組合の家畜診療所に勤務する獣医師についても,保険診療以外の収入源の多元化を図ったうえで,給与水準の大幅な改善を目指して参ります.さらに,将来は獣医師の過半数を占めることになる女性獣医師の就業支援対策では,女性獣医師応援ポータルサイトを開設しての就業・復職支援等のための情報提供,雇用者等の理解醸成のためのシンポジウムの開催,獣医学生向けのセミナーの開催,就業支援研修等を実施しており,引き続き有効な対策を推進して参ります.
世界保健機関(WHO)は,自然災害を感染症などの生物災害,台風などの気象災害,地震などの地質災害の三つに区分し,それぞれの災害に対する事前の備えを求めています.新型コロナウイルス感染症は,その生物災害として世界中をパンデミックに陥れました.わが国は北海道から九州までの全国各地で,台風,集中豪雨,地震,火山の噴火等の気象・地質災害が発生しており,まさに自然災害の多発国と位置付けられます.本会としては,このような大規模災害への対応・支援として,診療費助成などの被災動物救護活動や被災地の獣医療提供体制の早期復旧に向けた支援及び支援金の募集に取り組んでいます.また,熊本地震の際に設立した九州災害時動物救援センターの活用,地方獣医師会の災害対応についての地域活動ガイドラインや本会の災害対応マニュアルの改定,認定・専門獣医師制度を活用した獣医療支援チーム(VMAT)の育成などの災害対策を推進しています.さらに,地方獣医師会や都道府県等と密接に連携しつつ一層組織的に活動するため,昨年11 月には本会内に新たに「日本獣医師会危機管理室」を設置して迅速な支援活動に努めることとしています.
平成30 年9 月に岐阜県で26 年ぶりに発生した豚熱(CSF)については,遺憾ながら昨年8 月には九州の佐賀県でも飼養豚で発生が確認され,北海道を除く46 都府県において飼養豚にワクチン接種が実施され,野生イノシシに対しては経口ワクチンの散布が行われています.農林水産省は九州各県においても予防的にワクチン接種を行うことを決定し,家畜防疫員及び知事認定獣医師の指示の下に飼養衛生管理者にもワクチン接種を認めることにしました.本会は,飼養衛生管理基準で全ての畜産農場に配置が義務付けられた担当獣医師を「農場管理獣医師」として育成し,当該獣医師がワクチン接種をはじめ農場全体の衛生管理・経営管理を一元的に担う体制の構築を目指しています.私たち獣医師は,重要な家畜伝染病の未然防止,発生時の迅速な防疫対応について,適切に役割を果たしていかなければなりません.このようなわが国の畜産が直面する大きな課題に対しては,産業動物及び家畜衛生の関係者にとどまらず,全ての職域の獣医師が情報を共有し,それぞれの立場で迅速な収束に向けて全力で取り組む必要があります.
獣医学教育の改善・充実への取組につきましては,本会は,国際水準の獣医学教育の提供を目標に掲げ,文部科学省や獣医学系大学と連携して支援活動を実施してきました.診療参加型臨床実習及び体験型家畜衛生・公衆衛生実習の実施体制の確保については,全国の獣医学系大学との連携・協力の下で「獣医学実践教育推進協議会」を設置して,わが国獣医学教育の改善・充実のための取組を強化しています.
また,獣医師の卒後教育を一層充実させるため,認定・専門獣医師協議会が評価・認定した研修プログラムの受講による専門獣医師の資格または名称の付与と,当該専門獣医師の資格等の広告を法的に可能とする獣医療法施行規則の改正省令の令和6 年4 月施行に向け,鋭意準備を進めています.このような獣医学的知識及び技術の研鑽の場の提供は,若手獣医師にとっても魅力ある学びの機会になるものと期待しています.
以上,地方獣医師会及び会員構成獣医師の皆様,また日本獣医師連盟をはじめ関係団体の皆様のご理解とご支援を頂き,本会会長として多様かつ重要な課題に積極的に取り組むため,本会の組織,事業及び財務の見直しと改革を含め,本会が強靭かつ柔軟に激動の社会に立ち向かいながら一層発展することができるよう,引き続き努力して参ります.今後も新型コロナウイルス感染症や季節性インフルエンザの再流行の懸念はありますが,本年も通常総会,全国獣医師会会長会議,理事会,職域別部会委員会,特別委員会等で積極的に議論を重ね,その総意に基づき新たな決意で果敢に挑戦して参ります.一層のご理解とご支援を賜りますようにお願い申し上げ,新年のご挨拶とさせていただきます.