公益社団法人日本獣医師会

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会長あいさつ

令和7年 新年のご挨拶

公益社団法人 日本獣医師会
会長 藏 内 勇 夫

令和7年の新春を迎え,地方獣医師会の皆様,会員構成獣医師の皆様,関係団体の皆様におかれましては,新たな気持ちで新しい年をお迎えのことと思います.本年も皆様方が健やかに素晴らしい一年を過ごされるようお祈りを申し上げますとともに,本会に対しましてなお一層のご指導とご支援を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.

新型コロナ感染症の発生は,まだ完全には終息していないものの,大勢の人々が正面から受け入れており必要な対応を行ったうえで,感染症と共存する社会になってきています.鮮烈な印象を残したパンデミックの当時の経験や記憶が確かなうちに,私たちは必要な対策の整理や次に備えた準備を怠ってはいけないと思います.
 このような中,日本獣医師会では令和4年4月から通常総会や理事会をはじめ各種の会議や行事も,対面で開催することになりました.しかしながら,昨年から会議等は対面開催だけでなく,Web開催のメリットを活かしながら対面開催とWebの併用やWebでの会議等の開催も増やしてきています.

すでにこの会誌等で報告していますが,昨年は私にとっても大きな出来事がありました.昨年2月,二年ごとに実施される世界獣医師会(WVA)の「次期会長」選挙に晴れて,日本人として初めて当選いたしました.このことは皆様のご支援の賜物であり改めて感謝申し上げます.当選者はWVAの役員となり,次期会長,会長,前会長としてそれぞれ2年間,合計6年間の任期を務めます.昨年4月16日に南アフリカで開催されたWVA総会で正式に次期会長に就任いたしました.
 また,昨年10月に韓国の大田市で開催された,第46回アジア獣医師会連合(FAVA)総会とそれに引き続いて開催された第23回FAVA大会に参加しました.そのFAVA総会で私のFAVA会長としての2年間の任期は終了し,後任は韓国のホ・ジュヒョン大韓獣医師会会長に引き継ぐこととなりました.新たにFAVA会長となったホ会長からは,大きく発展してきたワンへルスの取組を引き継ぎ,今後更に地域の人や動物,そして環境の健康に寄与していくため,メンバー全員の協力を願う旨の力強い所信表明がありました.私も新たに設けられた顧問のポストに就くことになりましたので,今後のFAVAのさらなる発展に協力していきます.

さて,昨年6月26日に開催された第81回通常総会及び理事会においては,長年にわたり日本獣医師会のために尽力していただいた境 政人専務理事が任期を1年残し退任されたため,後任の専務理事には伏見啓二,空席だった特任理事には石橋朋子さんが選任され,総会後の理事会で承認され就任しました.現在の残り任期(1年間)を務めていますが,執行部体制は一部代わったものの,日本獣医師会と日本獣医師連盟は,これまでどおり一心同体,車の両輪となって諸課題の解決に邁進してまいります.

昨年は新年早々の元旦に,石川県能登半島において震度7を記録する地震が発生しました.日本獣医師会では発災直後に危機管理室の関係者から構成される「令和6年能登半島地震緊急対策本部」設置して,石川県獣医師会が設置した「令和6年能登半島地震動物対策本部」等と連携しながら,被害状況の早期把握を行うとともに,早々に支援対策を打ち,支援金の募集を開始しました.6月28日には災害見舞金を支給し,支援金の募集も終了したところですが,7月1日には,「令和6年能登半島地震緊急対策本部」を開催して,同日付けで対策本部を解散するとともに,解散後の令和6年能登半島地震に係る日本獣医師会としての対応は,日本獣医師会危機管理室が担うこととなっています.
 災害は起きないに越したことはありませんし,被害にあわれた方々のことを考えると慎重な発言が必要ですが,有事の際には円滑かつ迅速に社会の要請に応えることができるよう日本獣医師会に設置された危機管理室の更なる充実は必要不可欠なものです.

世界保健機関(WHO)は,自然災害を感染症などの生物災害,台風などの気象災害,地震などの地質災害の三つに区分して,それぞれの災害に対する事前の備えを求めています.わが国は北海道から九州までの全国各地で,台風,集中豪雨,地震,火山の噴火等の気象・地質災害が発生しており,まさに自然災害の多発国と位置付けられています.今後,将来想定される直下型の大規模地震,大規模水害,新興・再興感染症の流行等発災時には危機管理室設置要綱に基づき,本会の会員構成獣医師並びに本会及び地方獣医師会の役職員の生命,身体等,さらに両会の業務,わが国の獣医療に係る被害の発生に対して速やかに対応することを念頭において準備を徹底していきます.
 また,VMATを災害専門の認定獣医師とすることを検討したうえで制度化し,VMAT構成員の養成・登録及び全国的な派遣体制の構築等の救護体制を整備し,緊急災害発生時における動物救護活動及び獣医療提供体制復旧の支援に備えていきたいと思います.

今後における私たち獣医師の活動については,獣医師の社会的地位をさらに高めるとともに,ワンヘルスに象徴されるように,国内はもとより世界に向けた広範な視点で多方面の活動を推進していく必要があると考えます.そのためには,地方獣医師会や会員構成獣医師の皆様方をはじめ,国内の関係団体,行政機関及び教育機関,さらには国際獣疫事務局(WOAH(OIE)),世界保健機関(WHO)などの国際機関とも連携・協力し,獣医師をめぐるさまざまな課題に積極的に取り組んでいく必要があります.また,私たち獣医師は,この職業を通じて世界をより良くする能力を持っています.私はワンヘルスの概念が,この影響を生み出すためのプラットフォームを提供してくれると信じています.今こそ,世界中の獣医師が団結する時でもあります.引き続き皆様のご支援をお願いいたします.

ワンヘルスの推進については,昨年8月にフィリピンのマニラにおいて私が会長を務めていたアジア獣医師会連合(FAVA)がアジア大洋州医師会(CMAAO)とワンヘルス活動推進の覚書(MOU)を締結しました.すでに日本獣医師会は日本医師会,世界医師会と覚書を結んでいますので,ワンヘルスの推進について,日本からアジア,アジアから世界へと協力して進める土台は完全に固められました.更なる発展のためには,計画を立て,関係者の皆様が準備をし,ワンヘルスを通じて健康で持続可能な世界を築くという目標に向かって実行あるのみです.
 なお,政府が公表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」の中には,狂犬病予防法関連手続きのオンライン化等の人獣共通感染症対策の課題に対して,ワンヘルス・アプローチに基づき,国を挙げて取り組む旨が明記されました.さらに,日本獣医師会ではワンヘルスの理念を踏まえ,新型コロナ感染症をはじめ人獣共通感染症対策等に先進的に取り組んできました.引き続き,人獣共通感染症や薬剤耐性問題などに対処していくためには,日本国内だけでなくアジアをはじめ世界においても同時に連携して有効な対策に取り組んでいかなければなりません.
 薬剤耐性(AMR)対策の推進に関する対応については,政府が公表したAMR対策行動計画(2023-2027)に基づき,普及・啓発,モニタリング調査等への協力,特に小動物臨床現場における抗菌剤の適正使用・慎重使用のための具体的な方策を検討することとなっていましたが,農林水産省,厚生労働省等への協力は会議等に参加しただけにとどまり,具体的な対応については改めて検討し,実行に移していかなければなりません.
 すでにAMR対策に取り組まれている先生方もいらっしゃいますが,畜産分野での動向調査や監視は進んでいるものの,全体としてはまだ十分なものではなく,日本獣医師会においても,政府のアクションプランをサポートする視点で活動していません.また,獣医師会の先生方の協力を得ながら,具体的には小動物分野における抗菌薬使用量データの収集,診療獣医師とのつながりを活かした飼い主さんへの慎重使用を指導・教育していく必要があります.

販売用の犬・猫に対するマイクロチップ(MC)法定登録事業は,日本獣医師会が指定登録機関として取り組んでいますが,最大の問題であった手数料を昨年4月から値上げした結果,本事業による財政への圧迫は解消されました.しかしながら,販売犬猫のMCの装着・登録については具体的な項目について話し合いを進めて,要請し手続きを進めることにより相当程度の準備はできましたが,動物愛護管理法の一部改正等はまだ行われていません.この件についても,引き続き働きかけを行い,当会の会員をはじめ関係者の納得が得られるように進めていきます.
 関連して,地方自治体及び飼育者の利便性の向上のため,日本獣医師会の狂犬病予防法の犬登録手数料及び狂犬病ワクチン等管理システムを厚生労働省が進める狂犬病予防法関係手続のDX化の中に組み込んでいただくとともに,犬の登録促進,登録料の確実な徴収,予防注射接種率の維持・向上等,円滑な支援の推進を検討し,説明及び要請を行いました.
 昨年に引き続きお願いすることではありますが,地方獣医師会におかれましては,いかなる事態においても狂犬病予防注射事業を円滑に運用するため,狂犬病予防事業全体の市区町村からの一括受託を推進され,MC法定登録事業とともに一層円滑かつ効果的な運用体制の確立に向けて,本会とともにご尽力をお願いいたします.このような制度の抜本的な改善は,犬猫等の飼い主をはじめ国民全体の利益の向上に繋がるとともに,獣医師会組織の基盤強化にも大きく寄与することが期待されますので,皆様のご理解とご協力について重ねてお願いいたします.

新たな国家資格である愛玩動物看護師については,昨年2月に第2回国家試験があり4,666人が合格しました.第1回の合格者を合わせると2万2千人超の有資格者となります.今後の活躍を期待するとともに,獣医師との関係だけではなく社会にどう貢献していくかということも重要です.
 昨年3月に報告された「新たな国家資格としての愛玩動物看護師のあり方に関する検討報告書(中間とりまとめ)」(獣医事審議会免許部会・中央環境審議会動物愛護部会愛玩動物看護師小委員会(合同委員会))の中に,「令和5年4月に新たな国家資格者である愛玩動物看護師が愛玩動物診療現場で業務を開始し,これまで獣医師のみの獣医療現場が大きく変化していくこととなる」.また,この報告書には,チーム獣医療環境の構築が重要であると書かれており,そのチーム獣医療を考えた場合,獣医師だけでなく愛玩動物看護師の役割は欠かせないものになっていきます.そのうえで,高度な獣医療提供体制の構築と,高齢飼育者の支援や地域コミュニティーの再構築等で,「かかりつけ動物病院」による地域社会と連携した獣医療提供体制の確立等に努めていかなければなりません.
日本獣医師会が長年取り組んでいる課題として,獣医師の地域及び職域における偏在の解消と,その主な要因となっている公務員獣医師と産業動物獣医師の処遇改善があります.これまでの粘り強い要請活動で成果は出ていますが,今後は関係者が一丸となって地方獣医師会,関係団体,関係省庁とも連携しながら,関係者にとって有益な成果を出していかなければなりません.
 さらに,女性獣医師の就業継続及び復職への支援等,女性獣医師の活躍推進については,引き続き,女性獣医師活躍推進委員会における就業支援対策を検討し実施します.「女性獣医師が活躍する職場は,男性獣医師を含む全ての獣医師が活躍できる職場である.」という理念の下,勤務条件及び職場環境の向上のための取組みを強化します.あわせて,女性獣医師の加入を促進するための方策も検討していきます.

家畜伝染病である豚熱(CSF),アフリカ豚熱(ASF)等への対策については,引き続き発生動向を注視するとともに,特に高病原性鳥インフルエンザは,昨シーズンは大規模な発生ではありませんでしたが,今シーズン国内での初めての発生がこれまでで一番早いことから,全国における野鳥や家きんの鳥インフルエンザの発生状況も注意する必要があります.また家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されているランピースキン病が,昨年11月に国内で初めて発生した状況を踏まえ,必要に応じて本会に設置された豚熱等家畜伝染病対策検討委員会において,本会や地方獣医師会における防疫対応等の支援等について検討を行い,その結果を踏まえ速やかに体制の構築,要請活動等の必要な措置を講じつつ,家畜保健衛生所等の行政機関にも協力していくことは獣医師としての役割でもあります.
 あわせて,これから誕生していく「農場管理認定獣医師」を家畜伝染病予防法の飼養衛生管理基準で定められた農場ごとの担当獣医師に位置付け,養豚農場における豚熱ワクチン接種の方策を含め,農場の飼養衛生,経営管理等全般を管理する体制を普及し,その構築に努めていくことも必要です.

獣医学教育の改善・充実については,日本獣医師会では,国際水準の獣医学教育の提供を目標に掲げ,文部科学省や獣医学系大学と連携して支援活動を実施してきました.診療参加型臨床実習及び体験型家畜衛生・公衆衛生実習の実施体制を確保するため,全国の獣医系大学と連携・協力の下で「獣医学実践教育推進協議会」を通じて,農業共済団体の協力も得ながら,わが国の獣医学教育の改善・充実の取組みを実施しています.

また,獣医師の卒後教育を一層充実させるため,日本獣医師会の中に設置され農林水産大臣の指定を受けた「認定・専門獣医師協議会」が,評価・認定した研修プログラムの受講者であり,認定試験の合格者に付与する資格または名称について,当該認定獣医師の資格等の広告を法的に可能とする準備を進めており,本年1月の試験の合格者がその第1号となります.このような獣医学的知識及び技術の研鑽の場の提供は,若手獣医師にとっても魅力ある生涯を通じての学びの機会になるものと考えています.
 なお,「認定・専門獣医師協議会」は,認定・専門獣医師の認定分野の設定,専門性認定団体の認定要件の評価・認証,認定・専門獣医師の登録・管理・公表に係る事業を実施しており,その進捗状況等を説明します.
 認証業務を行う「認定・専門獣医師協議会」は,昨年7月24日に農林水産省(農林水産大臣)から認定要件確認機関としての指定を受けました.今後,認証に当たっては,専門性認定要件を満たした団体から「認定・専門獣医師協議会」に評価申請があった場合に,改めて評価し認証していくこととなります.現在,認定・専門獣医師認定団体は7団体15資格であり,今後,認証された認定・専門獣医師は,「認定・専門獣医師協議会」に登録され,氏名と資格名が外部に公表されます.
 一方,農場管理認定獣医師については,「農場管理認定獣医師」研修プログラムを受講しており,5年間以上の農場管理獣医師に係る業務経験を有するなど資格認定基準を満たす獣医師が認定試験を受けられるように,スケジュールに沿って急いで準備しています.本会では,鋭意情報発信を行い,問い合わせ対応をしてまいりますので,よろしくお願いいたします.

さらに,獣医学術に関する国際交流の推進のため,WVA次期会長である私が主体となって,WVA及びFAVA等の関係国際機関の活動に積極的に参加する必要があります.特に,2026年4月の世界獣医師会東京大会の成功に向け,万全な準備を進めてまいります.
 一方,日本中央競馬会及び公益財団法人 全国競馬・畜産振興会の助成を受けて行っているアジア地域臨床獣医師等総合研修・ネットワーク事業については,アジア地域の家畜衛生対策の向上に努めることによりわが国への越境性感染症の侵入防止を図るとともに,アジア地域各国の獣医師会及び研修修了獣医師との交流と連携を一層推進することにより,大きな成果が期待できます.
 これらの国際交流活動を通じて,本会が国際貢献に努めることにより,わが国はもとより,アジア,世界の獣医師の地位向上を図ることができると考えています.これらの活動等についても,積極的に参加いただける方が必要であり,皆様のご理解とご協力をお願いいたします.

もう一つ重要なことは,地方獣医師会の組織率向上を図るため,特に,新規若手獣医師等に対する有用かつ魅力ある獣医師活動を提供するなど,引き続き日本獣医師会の中に設置している総務委員会において,獣医師会組織の強化方策について検討を行い適宜実施することとします.あわせて,現在取り組んでいる事務・事業の経費削減・事業の見直しについても,総務委員会の下に置かれている組織財政小委員会を中心として,職域別部会委員会,獣医学術学会年次大会,動物感謝デーなどの効率的な運営のほか,各種事業の見直しを行い,必要に応じてスクラップ・アンド・ビルド,事務局体制の効率化,健全な財政運営の検討を行うこととし,できるところから速やかに実施していかなければなりません.

日本獣医師会は,獣医師人材の育成を図ることにより,動物に関する保健衛生の向上,動物の福祉及び愛護の増進並びに自然環境の保全に寄与し,もって人と動物が共存する豊かで健全な社会の形成に貢献することを目的としています.この目的を達成するためには,55の地方会のご協力がなければできないものであり,日本獣医師会事務局は,日ごろから活動内容等を情報としてお伝えするとともに,また地方会の皆様は何を求めているのか,あらゆるツールを使い情報交換・意見交換等を行うことに努めます.

以上,地方獣医師会及び会員構成獣医師会の皆様,また日本獣医師連盟をはじめ関係団体の皆様のご理解とご協力をいただき,本会会長として多様かつ重要な課題に積極的に取り組むため,本会の組織,事業及び財務の見直しと改善を含め,本会が強靭かつ柔軟に,これまでと違う激動の社会に立ち向かいながら一層発展することができるよう,引き続き努力してまいります.本年も通常総会,全国獣医師会会長会議,理事会,職域別部会委員会,特別委員会等で積極的で有意義な議論を重ね,その総意に基づき新たな決意で積極・果敢に挑戦してまいります.皆様におかれましては,一層のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げまして,新年のご挨拶とさせていただきます.

日本獣医師会とは