牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

V 病原体の特徴
  TSEの病原体の感染は免疫反応を誘起しないので,健康畜での感染を摘発する実際的な方法は現在存在しない.スクレイピーを起こす病原体は,熱,紫外線および電離照射ならびに化学物質による消毒への抵抗力がきわめて高い.
  BSEの病原体のような従来とは異なる病原体は,比較的不活化に抵抗力があることが知られている.BSEの病原体の不活化に関する調査は限られているが,スクレイピーの病原体の不活化に関する知識は一般的にBSEの病原体にも当てはまると考えるのは合理的である.
  BSEの病原体は,有効塩素を8,250ppm含む次亜塩素酸ソーダ溶液へ30分間暴露することにより不活化できる.したがって,有効塩素を20,000ppm含む溶液中に1時間浸す方法は現在でも有効である.しかしながら,ジクロロイソシアヌール酸ソーダを有効塩素で16,500ppm含む溶液は2時間暴露しても有効でない.スクレイピーに感染した脳の組織を10%のホルマリン溶液に長時間暴露しても不活化の効果はほとんどない.BSEに感染した脳の場合も同じである.また,スクレイピーでの実験では,あらかじめホルマリンまたはエタノールに暴露することにより熱安定性が大幅に増加することが示されている.BSEの病原体を1M水酸化ナトリウムに2時間暴露することにより,感染力はわずかに残存するとの結果が得られている.しかしながら,さらに高濃度のスクレイピーの病原体に同じ処理を行った場合は4ログ以上の感染力が残った.また,134〜138℃で18分間のポラス・ロード・オートクレーブ処理では,BSEの感染力はある程度残った.同様に134℃で1時間のオートクレーブ処理でも,スクレイピーの感染力は残った.これらのデータを総合すると,現在奨励されている134〜138℃で18分間のオートクレーブ処理の安全性には疑問がある.重力変位オートクレーブについては,132℃で1時間の処理がTSEの病原体を不活化処理として推奨されているが,この方法でもスクレイピーおよびBSEの病原体は部分的に生存することが現在ではわかっている.2Mの水酸化ナトリウム溶液に浸し121℃で30分間オートクレーブ処理することにより完全に死滅すると思われる.
  BSEまたはスクレイピーでスパイクした材料を使った化製処理に関するEU内での調査により,BSE感染性は,実験対象となった方法のうち2つの方法で生産された肉骨粉から検出されることが示された.しかしながら,スクレイピーでスパイクした材料を使った実験では,圧力下で蒸気処理する方法を除き,感染力はいずれの処理方法でも残存することが示された.これらのデータは,実験開始時の病原体の量が大きく異なることから,BSEとスクレイピーの病原体の熱不安定性の違いを証明するには不十分である.EUでは現在,反芻動物用の肉骨粉を製造する場合には原料は圧力下で133℃処理しなければならない.しかしながら,この方法も最悪の条件下では完全に有効でない可能性がある.有機溶媒による抽出は,肉骨粉中のBSEまたはスクレイピーの力価を大幅に低下させる可能性があることが示唆されている.しかしながら,最近の化製処理の調査では有機溶媒による抽出を行った後でもスクレイピーの感染性は低下しなかった.マウスで継代したBSEまたはスクレイピーの病原体を使った実験では4種類の有機溶媒を使う方法で処理しても感染力は1ログも低下しないことが示されている.しかしながら,これらの実験で示された感染力のある程度の低下は,BSEの発生に多数の要因が関与しているとすれば,重要であるとも考えられる.

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