牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

 1995年英国で10歳代の若者2人に新型CJDが報告された.さらに1996年,死後解剖またはバイオプシーにより42歳未満の患者8人に認められた.これらのケースはいずれも,従来認められなかった症状をともなった.特に,8人の死後解剖の結果,海綿状の病変に囲まれた顕著なPrPのプラックが大脳および小脳に広範囲に分布していた.このような病巣は,他に調査した散発型CJDのいずれのケースでもみられなかった.若齢での発生(平均29歳,それでも新型CJDの最高年齢は50歳超),長い発症期間,CJDで典型的な脳波の不在,1994年以降の発生という事実から共通の原因が示唆された.神経病理病変の共通性から同一株の病原体が関与していることが示唆され,株型の調査が行われた.株型をマウスを用いて生物学的に同定した結果,BSEの自然感染を受けた牛から分離された株と同一であると考えられた.分子学的方法により,新型CJDの患者から分離した株はいずれもBSEの牛,FSEの猫およびBSEを接種されたマウスからの株と同一かきわめて類似していることが確認された.その後,フランスのリオンで新たな患者が確認され,また,1997年12月現在の英国での発生は23人となった.いずれのケースも,例外的,職業的または食事的なリスクを示すものではなかったが,8人についてはPrP遺伝子のコドン129のメチオニンがホモ接合体であった.英国でのケースはいずれもPrP遺伝子の突然変異はみられなかった.これらのCJDのケースとBSEのケースとの間に直接の関連はないが,その可能性はあり,説明としてもっとも考えられる.
  猫海綿状脳症
  猫海綿場脳症(FSE)は,1990年5月に飼養猫で初めて報告された.1997年12月までに英国で82件,ノルウェーの国産猫で1件,リヒテンシュタインで1件報告されている.これらのうち5件については,その臨床的および病理学的特徴が報告され,本病に関する総論も発表されている.SAFおよびPrPScの存在,患畜の脳組織の非経口的接種によるマウスへの感染の結果から,FSEは自然に発生するTSEの1つであることが確認されている.さらに,発生の時期(BSEの出現後間もないこと)およびマウスにおける生物学的な特徴の類似性から牛由来であることが示唆される.暴露は飼料を介していると推定される.英国におけるFSEの発生のピークは1994年の16件であった.その後減少し,1995年8件,1996年および1997年それぞれ6件であった.FSEは,捕獲した猫科の動物でも4頭に確認されている.感染源は,BSEに感染した動物の中枢神経系組織の摂取であると考えられる.しかしながら,この摂取は英国では中止され,その後暴露は生じていないと考えられる.いずれのケースも英国での汚染物質へ暴露されていたと推定されるが,チータはすでに感染した状態で輸出され,仕向国である豪州,フランスおよびアイルランドで発症したと考えられる.
  偶蹄類の海綿状脳症
  上記の疾病のほか,海綿状脳症の自然発生例は動物園またはサファリ・パークで飼養されていた偶蹄類の動物8種で認められている.これらの動物には,BSEを起こした濃厚飼料と同タイプの飼料が給与されていた.動物園動物での潜伏期間の方が短いことから,動物園動物の方が牛より感染に対する感受性が高いことが示唆される.ニャラおよび大クーズーの脳組織(フォルマリン固定したもの)を使った感染実験が行われ,猫の場合と同様,初代接種による生物学的特徴は,BSEの病原体をマウスに接種して生じる特徴と酷似しており,感染源が共通していることが示唆される.これら8種の偶蹄類動物は牛科(BOVIDAE)に属し,発生系統学的に鹿(CERVIDAE)より牛およびめん山羊(いずれもBOVIDAE)に近い.

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