牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

5頭のBSE牛の脳をプールした材料の感染力の定量が牛およびマウスを用いた比較バイオアッセイにより現在実施されている.この実験はいまだ終了していないが,現在までの暫定的な結果から,牛での感染力はマウスでの感染力より100〜1,000倍大きいことが示されている.すなわち,BSE汚染材料のマウスへのバイオアッセイは牛へのバイオアッセイに比べ感受性が低い.にもかかわらず,同一の5頭の牛からのプールした脾臓やリンパ節を使ったバイオアッセイでは,マウスへの感染力は検出されておらず,材料を接種した牛も接種後約60カ月たった今も発症していない.これは脳を接種した牛の最短潜伏期間の3倍に相当する.
  仮に,牛の脾臓またはリンパ節に感染性があるとすれば,感染力は脳の10万分の1であり,他の組織ではさらに低いと考えられる.
  プールした感染牛の脳材料を大量(100g)に4カ月齢の子牛に経口投与し実験的に感染させて病原性をみる実験が現在実施されている.この実験の目的は経口投与を行った後の感染性および病原性の出現の時期および部位を確認することである.6カ月齢で(投与2カ月後)と殺した子牛からの46種類の組織をバイオアッセイした結果,どの組織にも感染性は確認されなかった.しかしながら,10カ月齢,14カ月齢,18カ月齢および22カ月齢でと殺した子牛の回腸遠位部に感染性が認められた.小腸のこの部位には細網内皮系を含むパイエル氏斑が含まれ,めん羊のスクレイピーの自然感染においても最初に感染性が観察される組織である.最近のSEACの報告では,この病原性に関する実験では牛は接種35カ月後に初めて発症し,接種32カ月後およびそれ以降に感染性は中枢神経系,後根神経節(dorsal root)および三叉神経節(trigeminal ganglia)で検出された.さらに,臨床的な発症期には牛の骨髄にも感染性があるとする暫定的で解釈不可能な情報が発表されている.
  牛の体内でBSEの病原体が生物学的にどのように行動するかについての仮説は,スクレイピーに関する知識に基づくものであった.しかしながら,今までに得られた牛でのBSEの病原性に関する実験の結果,仮説は事実になりつつある.このような実験から,病原体が潜伏期間中存在する組織が限られているという点で,牛のBSEの病原性はめん羊のスクレイピーの病原性と異なることが示されている.特に,脾臓およびリンパ節は,感染性がないとみられる.一方,中枢神経系で感染性はめん羊のスクレイピーの場合と同様,臨床症状の出現直前に認められる.
  (4)牛組織からのゼラチンおよびコラーゲン 牛の皮および骨がゼラチンおよびコラーゲンの原料として使われる.BSEの自然感染牛からのこれらの組織は,マウスでのバイオアッセイの結果,感染性は認められていない.牛の皮から生産されたゼラチンおよびコラーゲンは安全であると考えられる.骨から生産されたゼラチンおよびコラーゲンに関しては,安全な原料を使うことがゼラチンの安全性を確保する上で最も重要である.安全な原料の使用が確保されれば,その原料から生産された製品はいかなる目的に使うこともできる.
  そうでない場合は,ゼラチンに関するリスクは,中枢神経系の組織が残留しているおそれがある頭蓋骨および脊髄(尾部脊髄を除く)を取り除き,次の基準により処理することにより減少させることができる.
  ―圧力洗浄(脱脂)および
  ―酸脱ミネラル化および
  ―酸処理または長時間アルカリ処理および
  ―濾過および
  ―最低4秒間以上の138℃以上での殺菌
  または,
  安全な原料の確保が不可能な場合は,牛の骨から感染力を少なくとも5 log10LD50/g低下させるその他の方法で製造された製品も安全であると考えられる.

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