牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

 CJDは,英国(グレート・ブリテン)のBSEの発生農場のうち3酪農場および1肉牛農場において報告されている.各症例は,典型的な散発型CJDであり,BSEからの感染のメカニズムは認められなかった.また,EUにおける農夫の相対危険度の分析が試みられたが,フランス,ドイツおよびイタリアの農夫の相対危険度も英国の農夫の相対危険度と類似の値を示した.英国以外の国では国産牛での発生はまったくないかわずかである.仮に,農夫での散発的CJDの発生のリスクが大きいとすれば,そのリスクはBSE感染牛への暴露によるものとは考えられない.このことは,2人の農夫から分離された株のタイピングの結果により支持されている.すなわち,分離された株はBSEの病原体と異なっていた.英国の散発的CJDの患者の職業を分析した結果,職業に関するCJDの見かけ上のリスクには大きな変異があり,司教や職業運転手などBSEに関するリスクの大きくない職業において大きなリスクが認められている.反対に,と畜場の従業員,肉屋,獣医師などの牛やめん羊の中枢神経組織に暴露されやすい職種の人たちのリスクは小さい.
  CJDは,生涯菜食主義者にも認められ,英国での平均発生率も他のヨーロッパ諸国での発生率もほとんど同じである.海綿状脳症は,異種の動物より同種の動物へ感染する.BSEは実験的に非経口接種により,マウス,めん山羊,豚,マーモセットおよびミンクへ感染している.このような実験的な異種動物間の感染には通常大量の接種を必要とする.新しい宿主で継代を繰り返すことにより,潜伏期間は短くなる.実験によりBSEも同様の行動をとることが確認されている.BSE発症牛からの脳材料の経口的投与により海綿状脳症を起こした動物は,マウス,めん羊,山羊,牛およびミンクである.実験的にBSEを生じためん羊では,感染力は発症中の脳および脾臓に認められたが,他の臓器の感染力については調査されなかった.BSEの自然宿主は,1985年以降牛科の8種類と猫科の5種類にのぼる(付録1).疫学的な調査により,これらの発症例はいずれも飼料に起因することが裏付けされている.すなわち,牛科の動物の場合は,汚染された肉骨粉が原因となり,猫科の野生動物の場合は,汚染された中枢神経組織に起因している.飼い猫の感染の正確な原因は不明である.豚および鶏には経口ルートでは感染は成立していない.また,鶏およびハムスターは非経口的なルートでも感染していない.
3.投与量と潜伏期間
  海綿状脳症の潜伏期間は,感染物質の摂取量(投与量)に影響を受ける.すなわち,組織の重量(または体積)および単位重量(または体積)当たりの感染力に影響を受ける.量が多ければ多いほど,潜伏期間も短くなる.自然のBSE発症例では平均的な潜伏期間は60カ月例であり,3〜6歳齢で発症するものがほとんどであるが,発症年齢は最若20カ月齢から最高18歳齢までに及ぶ.高齢での発症は,高齢での汚染飼料への暴露に起因するとも考えられるが,潜伏期間は牛の生涯に及ぶ場合もあると考えられる.しかしながら,BSEに汚染された脳100gを経口的に投与した牛の最低潜伏期間は35カ月である.BSEは汚染脳1gを経口的に投与した牛でも発症するが,最低潜伏期間はもっと長くなる.汚染脳0.5gを投与されためん山羊も発症した.このように,牛,めん山羊では汚染脳を少量経口的に投与することにより発症することが確認されている.

[ 目次に戻る ]