牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

III BSEの性状

1.BSEの性状
  BSEとスクレイピーの間には多数の類似性といくつかの相異点がる.BSEは,潜伏期間,症状,発生年齢および進行状態の点でスクレイピーに似ている.病巣もスクレイピーその他の動物の海綿状脳症の病巣と酷似している.関連する異常として,脳の特定部位に光学顕微鏡で確認可能な特徴的な海綿状の変化が観察される.感染牛の脳を洗剤処理すると,電子顕微鏡で確認可能なスクレイピー関連繊維(SAF)が抽出される.これらの繊維は,宿主特異性のある蛋白質(PrP),すなわち,スクレイピーに感染しためん羊の脳から検出される繊維蛋白の相同物を含んでいる.BSEが牛と牛との間で直接伝播する疫学的な証拠はなく,接触感染性は低い.6カ月以内に同じ群で発生する例は少ない(3%未満).今までにBSEの発生が報告された農場の約35%では1件認められているのみで,約75%で5件以下の発生しか報告されていない.逆に,10件以上の発生が認められている農場は,1998年1月現在,16%である.
  英国の感染牛9頭およびスイスの感染牛2頭からの脳を実験室でマウスに脳内接種および腹腔内接種したところ,一部のマウスは海綿状脳症を生じた.これらの材料を,牛からマウスへ継代したところ同株のマウス間できわめてよく似た潜伏期間および病理学的特徴を示した.このことは,異なる時期に異なる地域から採取した材料に同一の病原体株が存在していたことを示している.マウスのような感受性動物でのバイオアッセイは,現在のところ,多数の材料の感染性の有無を検出・測定する唯一の実用的な方法である.BSEのマウスへの感染の結果は,1970年代のスクレイピーの自然感染めん羊からの感染例20例と1986年以降に採取したスクレイピーの自然感染めん羊からの感染例3例と異なっていた.これらの感染調査の結果は,前述のBSEの由来に関する2つの仮説と整合性がとれたものである.スクレイピーと同様,BSEのマウスへの感染は,汚染脳を給与することによっても成立する.BSEはまた,汚染脳を脳内接種および静脈内接種することによっても牛に感染した.また,汚染脳を経口投与することによっても牛に感染した.散発的クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の患者6人(BSEが生じる前の患者2人,BSE流行中の患者2人およびBSEの発生農場の農夫)の脳から分離した株は,BSEの株とは異なっていた.一方,新型CJDの患者3人から分離した株から,同株の病原体がBSEと新型CJDを起こすことが判明し,病原的な関連性が示唆される.
2.結   論
  以上より,次の結論が導かれる.
BSEは間違いなくTSEの一種であり,そのプロトタイプはスクレイピーであること,
BSEは,生物学的に単独の病原体株により生じること,
BSEを起こす病原体は,今までに分離されたスクレイピーの約20株のいずれとも異なること,すなわち,BSEを起こす病原体の株の生物学的タイプは,今までに分離されたスクレイピーの病原体の株の生物学的タイプと異なること,
BSEを起こす病原体は生物学的に,人の新型CJDの患者から分離された病原体と見分けがつかないと考えられること.

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