牛海綿状脳症(BSE)サポーティング・ドキュメント

2.牛におけるBSEの伝播経路
  垂直感染および水平感染のリスクを推定するため,1988年10月30日以降に生まれた牛を対象としたケース・コントロール・スタディ(患畜・対照畜群の調査)が実施された.この調査では,BABの原因となった伝播ルートとして,垂直伝播も水平播も確認されず,その結果,飼料が最も可能性が高い感染源と考えられた.
  垂直伝播に関する他の多数の調査には,すでに終了したものと実施中のものがある.その中には実験的な調査と疫学的な調査がある.BSEが確認された牛の胎盤を感受性マウスに給与したが,感染性は確認されなかった.胎盤,胎盤液,卵巣または子宮をマウスに接種しても感染性は確認されなかった.また,汚染胎盤に経口・経鼻的に暴露された牛でも発症はみられず,死後解剖においても異常は認められなかった.この調査で2歳齢で殺処分された牛6頭からの組織のマウスへのバイオアッセイも終了したが,いずれの組織からも感染性は確認されなかった.BSEが確認された発症牛からの受精卵を国際受精卵移植協会(IETA)の定める方法により洗浄し,感受性マウスに接種したが,感染性は確認されなかった.このような受精卵を移植した母牛も生まれた子牛も1997年12月現在異常は認められていないが,この実験は2001年まで続けられる.これらの受精卵から生産された牛の最高年齢は現在6歳である.
  BSEの確認された牛から生産された子牛に観察されたBSEの発生率は,飼料が唯一の感染源であるとした場合に期待される発生率と何ら変わらない.BSEの母牛からの子牛316頭と6歳以上でBSE未発症の母牛からの子牛316頭を7年間にわたり観察したコホート調査(暴露・非暴露群の調査)が垂直伝播の有無を調べるために実施された.この調査はすでに終了し,結果の総合的な分析が行われ,BSEの母牛からの子牛群と未発症母牛からの子牛群との間には統計的に有意なリスクの差があるとの報告がWilesmithらによりなされた.すなわち,9.7%の差がありBSE母牛からの子牛の相対危険度が3.2であったとされた.このBSE母牛からの子牛のリスクは,汚染飼料の給与禁止の実施より後に生まれるほど低下し,分娩が母牛の発症時期に近づけば近づくほど増加すると考えられた.リスクの差は,遺伝的なものによるのか,母子感染によるのか区別がつかないが,母子感染の存在を示す証拠はない.遺伝的な原因(すなわち,飼料への暴露の感受性がこの調査の対象となったいずれの牛でも遺伝的に高かったと考えられること)または本当の母子感染の組合せがコンピュータ・モデルに最も当てはまった.仮説的な母子感染のルートも確定していない.BSEの患畜の子牛の1%未満しかこのようなルートによる暴露を受けないことを考えると,伝播ルートを確定することは難しいと思われる.BSE感染牛からの胎仔または生殖器の組織はいずれも感染性を示していない.また,Wilesmithらの調査および実施中の調査では,BSEの肉用母牛からの子牛にBSEの発生は認められておらず,牛乳および直接接触による伝播はないことが示唆される.
  これらの調査の結論として,飼料への暴露がない場合に母子感染が低率に生じる可能性は排除できないが,仮に生じるとしてもその頻度はきわめて低いため,感染が持続したり,撲滅が妨げられたりすることはありえない.スクレイピーでの証拠に基づき母子感染にある程度依存すると思われる水平感染についても同様のことがいえる.仮に母子感染が生じるとしても,飼料を介しての病原体への牛の暴露を中止すれば,本病を維持するのに必要な接触率1:1を維持できないことから,本病の発生は消滅するであろう.

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