参考:米国における1996年の狂犬病調査
家畜の狂犬病報告症例は9%近く減少している.野生動物の減少(9.6%)と同程度であり,狂犬病野生動物からの溢出感染の減少が影響しているようである.猫の狂犬病報告症例は7.6%減となってはいるが,症例数の水準は引き続き高く,猫への予防接種を義務付ける法令を制定,実施することで猫の予防接種水準を高める必要があることを示している.ペットへの予防接種はこの疾病に人間が感染するのを防ぐことになるものである.家畜の狂犬病に関する症例が1件発生しても,人間へのこの疾病の伝播を最大限防ぐために巨額の投資支出と公衆衛生対策費用が生じることになりかねない.狂犬病の地域的流行が起こっている地域では,同種動物間流行の地域での商品価値のある家畜や人間と常態的に接触する家畜についての予防接種も検討しなければならない.米国西部では引き続き狂犬病感染犬の報告が少ない.サウス/ノースダコタ州西部で報告された犬の狂犬病症例はわずか1件である.このような犬の狂犬病症例報告の低水準は,感染した野生動物からの溢出によるこの動物種の狂犬病発生を防止するという点で,公衆衛生のインフラと政策が効果的に働いている証拠となっている.
狂犬病に感染した人間から採取した試料の遺伝子分析によって,1996年の人間の狂犬病感染のうち2件が米国外での犬変異株によるものであることが判明している.また,別の2件は国内での狂犬病コウモリに関連する狂犬病変異株の感染によるものである.これは人間における狂犬病報告症例の最近の傾向に沿ったものである.
1996年に人間の狂犬病症例が4件報告されたことで,1980〜1996年までの米国での人間の狂犬病症例累計は32件となった.うち20人は米国内で感染したと考えられている.モノクローン抗体分析と遺伝子配列決定によって,この20人のうち17人はコウモリ狂犬病に関連する変異株に感染していたと判断された.人間がコウモリから狂犬病ウイルスに感染する可能性があるというのは,引き続き公衆衛生上の重要な関心事である.コウモリとの接触が増加する可能性のある行動をとる際には,事前に注意深く検討しなければならない.
疫学上,コウモリの狂犬病には,肉食獣によって保持される陸生動物狂犬病とは際立った違いがある.コウモリの狂犬病変異株の伝播に関するわれわれの理解は,肉食獣の狂犬病変異株伝播に関する知識に比べて,まだあまり深いものではない.経口ワクチン使用による陸生動物狂犬病の管理が欧州やカナダ南東部と同様,米国でも成功しているが,これはコウモリ狂犬病の地域的流行にも,その人間に対するリスクにも,なんら効果を発揮することはないだろう.
1997年の狂犬病の最新動向
1997年1月5日,モンタナ州ブレイン郡の65歳の住民が神経性疾患で死亡し,海綿状脳症(クロイツフェルト-ヤコブ病・CJD)が疑われた.この男性が発病したのは15〜16日ほど前で,発病時に幻視があったと考えられた.2月10日,固定組織の病理学的検査によって脳組織にネグリ小体が発見され,次いでCDCでの狂犬病判定のためのホルマリン固定脳組織の直接蛍光抗体染色法検査で陽性反応が確認された.
1997年1月18日,ワシントン州メイソン郡の64歳の住民が18〜20日ほど前に発病したと見られる神経性疾患で死亡した.持続的な背中の痛みに加えて左腕の脱力感と麻痺があった.CJD検査用に死後解剖で脳組織が採取され,2月下旬にネグリ小体が発見された.別の脳組織がCDCに送られ,2月28日に直接蛍光抗体染色法検査で狂犬病抗原の陽性反応が確認された.
どちらの症例でも,明瞭な動物の咬傷歴は記録されていない.患者から得られたウイルス試料の遺伝子分析によって,感染の原因としてそれぞれシルバーヘアーバット(L. noctivagans)と大型のホオヒゲコウモリ(Eptesicus
fuscus)に関連する狂犬病ウイルス変異株が検出された. |