参考:米国における1996年の狂犬病調査

考  察
  報告された狂犬病症例は狂犬病の流行や発生の大まかな指標にすぎず,すべての地域の家畜や野生動物のウイルス感染の程度を示すものではない.この報告で述べられているのは,州,自治領プエルトリコ,およびコロンビア特別区の保健当局が研究所で確認し,CDCに報告してきた狂犬病の症例だけである.調査対象にならなかった狂犬病感染動物も少なくなく,これらの動物は検査を受けていないことになる.試料の提出と検査の手法は州によって異なっており,監視の水準は「主に受動的」から「能動的」まで幅がある.狂犬病の検査を行った動物の数を報告しない州も少なくない.この報告を行っている州についても,さまざまな種について陽性反応の出た割合を計算する際,さまざまな要因からバイアスが生じる.バイアスを生じさせる補償要因を特定できる場合を別にして,こうした計算で得られた数値はその州内の狂犬病の傾向の大まかな指標としてのみ,また,提出と検査の手法に一時的な変更がなかった期間についてのみ,利用すべきである.したがって,大部分の種については一定の確実性で狂犬病の流行や発生を特定することはできない.
  1996年の野生動物狂犬病の報告症例数は1993年をピークに3年連続の前年比減少となった.とはいえ,アライグマの狂犬病の報告症例は1996年も引き続き米国の動物狂犬病の報告総数の多数(50%超)を占めている.オハイオ州は1980年代半〜末以降,非常に低水準の狂犬病動物数(20匹未満)を報告してきており,その多くはコウモリ(15匹未満)で陸生哺乳類はごくわずかであったが,1996年にはアライグマ変異株に感染した猫とアライグマの報告を行っている(オハイオ州が前回,この変異株に感染したアライグマの狂犬病症例(1件)を報告したのは1992年であった).該当する動物が発見された地域では能動的監視プログラムが実施されており,これによって新たな症例の早期発見が可能になり,対策実施に関する意思決定が可能になるはずである.1996年にはアライグマの狂犬病について地域的流行の伝播が18州とコロンビア特別区で発見されている.対象地域から1996年に報告された狂犬病症例は,アライグマでは米国全体の99.1%(3,564/3,595件),全動物(人を含む)では全体の74.3%(5,294/7,128件)を占めている.
  狂犬病の蔓延を防止あるいは抑制する目的で野生アライグマに予防接種する試みがいくつかの州で継続的に行われている.このような集団プログラムでは,アライグマが摂取する餌の中に入れる狂犬病ワクチン糖蛋白質組み換え型(V-RG)ウイルスワクチンが使用されるが,その効力についての評価が,マサチューセッツ州東部(ケープ・コッド),ニューヨーク州東部/北部,ニュージャージー州南部(ケープ・メイ),フロリダ州(パイネラス郡)およびごく最近ではヴァーモント州とオハイオ州(コロンビアナ郡,マホーニング郡およびトラムバル郡)で行われている.ワクチンの安全性,効力,生態学的影響および物理的な餌という諸条件を判断するために計画されたこれまでの試行的実験の成果は良好なものである.V-RGウイルスワクチンは1995年4月に条件付きで認可,1997年4月には全面的に認可された.各州へのワクチン配布は州や連邦が認可した狂犬病管理プログラムに制限されている.

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