参考:米国における1996年の狂犬病調査
人間における狂犬病
1996年には狂犬病による4件の人間の死が報告された.このうち2件(フロリダ州とニューハンプシャー州)については,1995年の調査報告書中の「1996年の狂犬病の最新動向」で紹介されている.以下の症例は1995年報告書が印刷に回された後に明らかになったものである.
1996年10月15日,ケンタッキー州カムバーランド郡出身の42歳の女性が発病後2週間余で死亡した.9月28日に救急センターにおける初診時の診断は咽頭炎であった.10月10日に採取されて狂犬病検査用に民間研究所に送られた血清試料から狂犬病中和抗体の陽性反応が出た.その後,疾病管理予防センター(CDC)において,死後解剖で得られた硝子体基質と血清の中に抗体が検出され,狂犬病の診断が確認された.また,硝子体基質のPCR反応によって狂犬病ウイルスのRNAが検出された.
1996年12月19日,モンタナ州ミズーラ郡出身の49歳の男性が発病後約2週間で狂犬病によって死亡した.この男性は地域救急センターで副鼻腔炎と診断され,12月4日に入院していた.12月17日,臨床的に狂犬病が疑われ,狂犬病検査用に血液を採取した.12月18日,血清中に狂犬病抗体が検出され,12月19日,項部の生検材料と唾液中に狂犬病抗原が検出された.
どちらの症例においても,遺伝子分析によって,シルバーヘアーバット(Lasionycteris noctivagans)に関連する狂犬病ウイルス変異株が発見された.疫学的検査では,動物による咬傷歴もその他の感染機会も明らかにできなかった.これら2件の症例は過去20年間続いている,コウモリ変異株に関連し,かつ動物の咬傷に関わる感染歴が明瞭でない狂犬病による人間の死亡の傾向に沿ったものである.
カナダとメキシコにおける狂犬病
カナダからは,1996年の家畜と野生動物の狂犬病症例が研究所確認で293件,臨床診断で4件,あわせて297件報告された.これは1995年の報告症例469件から36.7%の減少である.この減少は大部分,キツネの狂犬病報告症例の減少によるものであった.キツネの報告症例は1995年の144件から1996年の82件へと43.1%減少し,1996年の動物狂犬病症例全体の27.6%(82/297件)を占めている.1996年の症例中の他のおもな動物は,スカンク(36.9%)(最大症例数動物になった),牛(12.1%),犬(5.1%)および猫(2.0%)である.1996年にはカナダからの人間の狂犬病症例の報告はなかった.
メキシコからは,1996年の家畜と野生動物の狂犬病症例が研究所確認で1,203件報告された.これは1995年の研究所確認症例1,798件から33.1%の減少である.犬の確認症例は1995年の1,387件から1996年には859件へと38.1%減少し,1996年の動物狂犬病確認症例全体の71.4%(859/1,203件)を占めている.1996年の症例中の他のおもな動物は,牛(224件),猫(49件),コウモリ(13件),山羊(3件),馬(3件),豚(2件),ロバ(1件)およびキタオポッサム(1件)である.人間の狂犬病確認症例は22件報告された.これは1995年の31件から29.0%の減少である.人間の狂犬病感染源になった動物としては,犬(14件),コウモリ(6件),猫(1件)および牛(1件)が報告されている. |