参考:米国における1996年の狂犬病調査

 もう1つの長年にわたる狂犬病の保有宿主は,アラスカ州に生息するアカギツネ(Vulpes vulpes)とホッキョクギツネ(Alopex lagopus)である.この変異株による狂犬病は1950年代にアラスカ州から拡大し,カナダ北西部から米国ニューイングランド諸州隣接地域に及ぶカナダ全域のキツネに感染するに至った.狂犬病はアラスカ州ではキツネに関する常態的な問題であるが,カナダでは狂犬病キツネの症例報告は減少し,ニューイングランド諸州ではこの狂犬病変異株に感染したキツネの症例報告は断続的なものにとどまっている.カリフォルニア州,中北部諸州,および中南部諸州に生息するスカンク(Mephitis mephitisが主)の狂犬病の原因となっているのは3種の狂犬病ウイルス変異株である.
  アリゾナ州とテキサス州では,ハイイロギツネ(Urocyon cinereoargenteus)の常態的な感染源の中に2種の変異株が特定されている.テキサス州南部でのコヨーテ(Canis latrans)と犬にみられる狂犬病の同種動物間流行は,テキサス州とメキシコの国境における予防接種をしていない飼犬とコヨーテとの長年にわたる交接の結果である.
  数種の食虫コウモリにおける複数の独立した狂犬病変異株感染源が,陸生哺乳類における狂犬病に地域的な重なりをもたらしている.しかし,コウモリの地域性狂犬病に関して定めることのできる地理的境界は個々の種の既知の行動範囲の限界と重複するものであり,特に渡り行動を取る種については独自の変異株を体内に持つコウモリ種が米国内を広く移動することになる.その結果,米国の各地域で狂犬病は数種のコウモリにおいて地域的に流行している.コウモリから陸生哺乳類への狂犬病の伝播が散発的に起こることは知られているが,コウモリが陸生哺乳類の地域的狂犬病流行の源であるという証拠はない.遺伝子分析によると,コウモリと陸生哺乳類の狂犬病ウイルス配列の間には15〜20%の純相違がある.
  本報告の目的は獣医師と公衆衛生当局者に対して米国の狂犬病の現状を知らせることである.本報告は,狂犬病の地理的分布と,さまざまな種における狂犬病の報告症例の長期的パターンと短期的パターンを提供する.米国における動物の狂犬病の報告症例の長期トレンドは1955年以降の報告を検討してまとめたものである.短期トレンドでは報告症例の1996年と1995年との比較と,いくつかの種に関する季節パターンが測定されている.
  また,カナダとメキシコについて,1996年調査データの概要が紹介されている.両国と米国は地続きであり,頻繁に旅行が行われているからである.1997年に疾病管理予防センターに報告された狂犬病症例および関連活動の最新データも簡単に紹介されている.

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