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(4)VTの業務 ア VT等の業務に係る法令上の規程 VTが行いうる業務については各州の法令に規定されており,その内容は州により異なるが,全米で共通している点は,「VTは,診断,予後判定,処方,手術の4つの業務を実施してはいけない.」とされている点である.また,州によっては,実施できない業務として前述の4業務のほかに狂犬病のワクチン接種を加えているところもある. 規程の内容は州により様々で,たとえば,獣医師の監督状況を,[1]直視(獣医師がVTの業務を実際に見ることができる状況),[2]直接(獣医師がVTと同じ施設内にいる状況),[3]間接(獣医師が施設から離れている状況)の3つに分類して,それぞれの状況においてVTが実施できる業務を具体的に規定している州もあれば,前述した4つの業務の禁止のみを原則として示しているのみの州もある. また,州によっては,資格を有しない獣医助手が獣医師又はVTの監督の下で実施できる具体的な業務についての規定,VT,獣医助手が緊急時に例外的に行うことができる具体的な業務に関する規定を設けている場合もある. なお,各州における法令のほとんどにおいて,VTの実施できる業務の対象となる動物に関する規定はないため,VTの業務は小動物においても,産業動物においても実施できると解される.ただし,ペンシルバニア州の法令においては,「大動物,小動物の両者に適用することを意図したものである.」と明記されており,また,ケンタッキー州の規則においては,VTが行うことができる業務から食用動物への成長促進目的の薬剤投与が除外される等,大動物診療における獣医療補助を視野に入れた規定がなされている場合もある.また,一部の州(ルイジアナ,バージニア等)では,馬歯科技術士(registered equine dentist)等と呼ばれ,獣医師と連携して馬の歯科的管理(ヤスリがけ等の咬合調整等)を行う職種を法令に基づいて認定している. VTが獣医師の監督下に行うことができるものとして,各州の法令で規定されている具体的な業務を表3に列記する. イ VT等の業務の実際 今回,カリフォルニア州において訪問した施設の実態は以下のとおりであった. (ア)シトラスハイツペットホスピタル 獣医師2名,VT3名,獣医助手2名が勤務する小動物診療施設であり,一般診療を行っている.本施設では,VTは,法令で禁止されている4つの業務(診断,予後判定,処方,手術)を除いてほとんどの業務を獣医師の直視,直接,間接の監督下に実施しているとのことであった. (イ)ルームスベイシン獣医クリニック 獣医師22名,VT30名で,救急医療及び一般医療を実施している. 小動物の診療に加えて,馬の診療も行っており,5名程度のVTが馬の診療補助に従事している. VTは,施設内で獣医師と連携を確保した上で,重要な仕事を任されている.たとえば,一般診療棟に隣接したCT施設は,通常はVTと獣医看護助手の2名で運営されており,麻酔導入から,CT撮影,覚醒まで,VTが行う(ただし,異常等が生じた場合には,すぐに外部の獣医師と連絡がとれる体制が整えられているとのこと.)とのことであった(図2).
(ウ)アーバービュー獣医クリニック 獣医師2名,VT3名が勤務する小動物診療施設であり,一般診療を行っている.本施設では,VTは,法令で禁止されている4つの業務(診断,予後判定,処方,手術)を除いてほとんどの業務を獣医師の直視,直接,間接の監督下に実施しているとのことであった.本クリニックに勤務するJim Murphy獣医師は,「VTに仕事を分担してもらうことで,獣医師は獣医師が行うべき仕事に費やす時間を得ることができる.現在,米国ではVTの需要は多く,VTの協力なしに診療施設を運営することは考えられない.日本でも,受診動物数が十分に確保できてさえいれば,米国のようなVT制度を導入する価値は十分あると思う.」との感想を述べた. (エ)バード&ペットクリニック,ローズビル 獣医師3名,VT4名ほかが勤務する小動物とエキゾチックの診療施設であり,一般診療を行っている.本施設では,VTは,法令で禁止されている4つの業務(診断,予後判定,処方,手術)を除いてほとんどの業務を獣医師の直視,直接,間接の監督下に実施しているとのことであった. 手術においては,実際に,VTと獣医看護助手が麻酔導入し,術野の準備等を済ませた後,獣医師が手術室に入室して手術を実施し,手術後の皮膚縫合はVTが行う様子(図3),また,VTが1人で麻酔下の歯科処置後,麻酔覚醒までの様子を観察する様子等,VTの業務実態を観察した.
(オ)カリフォルニア大学デイビス校獣医学教育病院 カリフォルニア大学デイビス校に付属する巨大な動物診療施設で,小動物用の施設と産業動物用の施設に分かれている. VTは,その仕事の内容に応じて様々な部署に配属されている,例えば,救急医療のセクションにおいては,多くの業務がVTの資格がないと不可能であるため,6人の獣医師とともに勤務しているのは8人のVTであり,獣医助手はいない.他のセクション,例えば,化学療法のセクション等には獣医助手も勤務している. 大動物の診療施設では,VTが獣医助手を監督しながら,子馬への輸液(静脈内投与)を実施する業務を観察した(図4).
ウ 米国の動物診療施設に対するアンケート結果 今回の調査にあたり,日本動物病院福祉協会(Japan Animal Hospital Association)を通じて,10カ所の動物診療施設にVTの業務についてアンケートを行った結果,VTの業務範囲はカリフォルニア州で訪問した動物診療施設で実施しているものに比して限定される傾向にあったが,回答のあったほとんどの施設において採血,投薬(経口,皮下・筋肉内・静脈内注射),手術助手,抜糸等はVTに実施させていた. (5)VTの処遇 VTの処遇については,Pett Hebert氏(ウエスタン キャリア カレッジ)によると,一般診療施設の勤務で時給15米ドル程度,専門的な診療を行う施設であれば専門的技能のある者(NAVTAの認定等を持つVT:901頁5の(1)を参照)は20米ドル程度とのことであった.勤務時間は,週40時間(法定)+超過勤務とのことなので,一般の施設において時給15米ドルで週45時間勤務したとして,週給が700米ドル程度,月給に換算すると約3,000米ドル(1ドル110円換算で,33万円)となる.資格のない獣医助手の場合は時給10ドル程度とのことで,現在の米国の動物医療においてはVTの需要は高く,就職は容易な状況である. ただし,米国においてもこの職種は新しい職種であるため,就業者は比較的若く,長年にわたって勤務し,地位と報酬がステップアップしていくような環境が整備されているとは言い難く,その点は日本と同様に人の医療分野の看護師に比べると差があるとのことであった. |