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解説・報告

 5 調査の概要
 (1)獣医療関係者の位置づけと資格
 米国における獣医療関係者は,主に,獣医師(Veterinarian),獣医師予備学生(Pre-veterinary Student),獣医看護士(Veterinary Technician:VT),獣医助手(Veterinary assistant又はpersonnel等)に分類される.
 VTは獣医師と同様に,各州の法令に基づき州獣医事委員会において資格認定を受け,獣医師の監督の下で,動物看護,診療の補助を行う.認定を受けたVTは,Registered VT,Licensed VT等,州により異なる呼称を持つが,ここでは「VT」という呼称を統一的に用いる.ほとんどの州においては,認定に当たり,VTの養成施設において米国獣医師会(American Veterinary Medical Association : AVMA)が認定した動物看護学の2年間の教育プログラムを修了することを義務づけている.
 VTの全国団体である米国獣医看護士全国協会(National Association of Veterinary Technicians in America : NAVTA)は,VTの中で,さらに歯科,麻酔科,救急医療等の専門技術を有する者の認定を行っている.
 (2)VTの教育制度
 AVMAでは,獣医師の各大学における教育プログラムを認定しているが,獣医学教育と同様に「VTの教育と活動に関する委員会」(Committee on Veterinary Technician Education and Activities:CVTEA)が145のVT養成のためのプログラム(Veterinary technology program:原則2年間)を認定しており,44州にある100の大学(カナダ1校を含む),短期大学で実施されている.
 CVTEAが策定したプログラム認定のための「考え方と方法」(Policy and Procedure)には,「獣医看護学系学生のための重要な推奨される技術」と題するリストが添付されている.たとえば,アラバマ州のVTに関する規則において「獣医師は,AVMAが“重要な技術のリスト”に挙げて教育されている技術の実施をVTに要求することができる.」と位置づけており,このリストにはVT教育の標準的な目標と思われる技術が示されていると評価される.表1にその項目のみ示す.
 認定された養成施設は,上記リストを参考にそれぞれの内容を履修するためのカリキュラムを策定し,それにそって教育を実施する.参考までに,今回調査したウエスタンキャリアカレッジのカリキュラムを表2に示す.
 以下に,今回調査したカリフォルニアの2つのVT養成施設について,その概況を述べる.
ア ウエスタンキャリアカレッジ
 獣医看護のほか,歯科衛生,医療・薬事関係の技術者等の教育を実施する私立の短期大学又は日本の専門学校に相当する施設で,高校卒業後に入学する.動物看護に関するプログラムは,AVMAの認定を得ている.
 1学年の総生徒数は約500名,うち,VTのコースは60名を占める.
 VTのコースは,午前,正午,午後の3つに分けられ(それぞれに,約20名が所属),それぞれ1日5〜8時間の間に各教科を履修する.
 本施設では,VTのプログラムを18カ月で履修できるが,これは,他の施設で2年かけて履修する内容を,夏休み等の休暇(3カ月)をとらずに履修するため,その分期間短縮されるからである.
 AVMAの認定校であるため,CVTEAが策定する「獣医看護学系学生のための重要な推奨される技術」の内容をもとに,カリキュラムを策定し,その内容を5つの期間に分けて,それぞれの期間の終了時に各教科の履修状況をチェックし,修了していない教科があれば,次の期間には進めないシステムになっている.
 本施設の入学者のうち,すべての課程を修了できるのは約半数である.脱落者のほとんどは,家庭に関する問題等個人的な事情を理由とするものであり,教科の未履修を理由に脱落する者は,脱落者の1割程度とのことである.修了した者は,特別な理由がない限り,100%がカリフォルニア州の実施する資格試験に合格し,VTの資格を得る.
 教員は,常勤の者が5名(うち1名は獣医師)に加えて,特殊な内容のものについては,外部講師を招聘して講義を実施するとのことであった.
イ コンサムネスリバーカレッジ
 米国では「コミュニティーカレッジ」と呼ばれる大学と短期大学の性格を併せ持つ施設で,運営のために州から補助金が支給されるため,完全な私立の短期大学であるWestern Career Collegeよりは学費が安価である.高校卒業後,1年間の予備教育(数学,生物学,化学,英語等)を受講した後,2年間のVTのコースに進学する.
 VTのコースは,午前・午後に教科が組まれており,2年間,4学期のコースを履修する.
 1学年の入学者数は36人,課程修了時には半数の20名程度になり,修了者は100%カリフォルニア州の実施する資格試験に合格し,VTの資格を得る.
 教員は,獣医師3名(うち常勤1名),VT3名(うち常勤1名)の6名であり,実習等については,カリフォルニア大学デイビス校獣医学部の連携・協力を得て実施されている(図1).


表1 獣医看護学生のための重要な技術のリスト

表2 VT養成コースカリキュラム(ウエスタンキャリアカレッジ)



図1 細菌学実習風景
グラム染色の実施と細菌の観察(コンサムネスリバーカレッジ)


 (3)VTの資格認定制度
ア 認定の主体と条件
 前述したように,VTの資格認定は,獣医師の資格認定と同様に各州の法令に基づき,獣医事委員会が主体となって行われるが,その方法は州により異なる.
 認定資格は他の州では無効であるため,職場が州を越えて移動すると,移動先の州で新規に認定を受けなければならず,また,VTが実施できる業務も州ごとに多少の差があるため,獣医療関係者,動物飼育者に混乱をもたらすことが関係者間で問題視されてきた(獣医師の資格についても同様の問題点が指摘されている.).
 このような状況を改善するため,各州における獣医師及びVTの認定制度及び管理業務を平準化することを目的として,米国州獣医事委員会協会(AAVSB:American Association of Veterinary State Board)が設置され,各州の獣医事委員会間の調整,認定のための全国試験の実施と各州への成績の通知,継続教育プログラムの認定,VTに関する中央データベースの維持管理等を行っている.
 AAVSBの活動の結果,現在ではほとんどの州において,AVMAが認定した原則2年間のプログラムを修了し,全国試験を受験して一定の成績を得ることが認定の条件とされている.
イ 認 定 試 験
 多くの州では,認定の前提条件として全国試験(the National Veterinary Technician Examination : VTNE)をパスすることが要求されている.VTNEの成績はAAVSBに登録され,AAVSBはVTNE受験者の成績を各州の獣医事委員会事務局(State Board office)に通知している.
 VTNEはVTの認定を行う各州獣医事委員会が必要とする内容についての試験を実施し,VTが実際に獣医療を補助するために必要とされるレベルの知識と技術を獲得していることを保証することによって,消費者(動物飼育者)を保護するという趣旨のものである.
 また,VTNEは,VTの専門家としての能力(補助者として獣医療を行うための資質)を評価し,雇用者がVTを評価するための一般的な基準を提供して,VTの専門性を確立するものでもある.各州がこの試験を認定の条件として採用することにより,VTの認定資格の州ごとの互換性を高めることも目的としている.VTNEはAAVSBとthe Professional Examination Service(PES)との連携によって作製された200問の多肢選択式試験である.
 また,VTNEの実施に関しては,「獣医看護士に関する試験の全国委員会(the National Association of Veterinary Technician Testing Committee:VTTC)」が,米国獣医看護士協会(the National Association of Veterinary Technicians in America:NAVTA),獣医看護士教育者協会(Association of Veterinary Technician Educators:AVTE),カナダ動物衛生技術士協会(Canadian Association of Animal Health Technologists and Technicians:CAAHTT)のほか,AVMAのCVTEAとAAVSBから選任された獣医師,病院に勤めるVT,大学関係者を含む14名から組織される.VTCCは毎年VTNEの実績と評価を行う.VTTCはPESから送られたガイドラインに従って,VTNEの内容がVTの就業分野の最近の動静を反映しているかを評価する.
 各州獣医事委員会では,VTNEの結果を要求した上で,さらに独自の試験を行ってVTを認定するが,その方法は様々であり,州の獣医事に関する法令等についての筆記試験のみを実施する場合もあれば,口頭試問,筆記試験,臨床実技試験等を実施することもある.
 また,今回調査したカリフォルニア州のように,VTNEを採用せず,州独自に同様の試験を州獣医事委員会が実施している地域もある.
 試験に合格したVTは,各州の規程により登録獣医看護士(Registered Veterinary Technician),認定獣医看護士(Licensed Veterinary Technician),または認証獣医看護士(Certified Veterinary Technician)等様々な呼称が授与される.
ウ 更 新 制 度
 ほとんどの州においては,獣医師と同様に,法令に基づいてVT資格に更新制度を設けている.更新の期間は1年から3年と様々であるが,多くの州において更新の条件として継続教育の受講実績を求めている.



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