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【別紙1】
日本獣医師会 平成19年度
第4回理事会において意見集約
獣医師及び動物医療政策に関する要請の考え方
 
1 基本的考え方
(1)今日,獣医師及び動物医療は,食の安全確保や共通感染症対策をはじめ,畜産業等の動物関連産業の振興,家庭動物の保健衛生の向上,更には,動物愛護福祉,自然環境保全等社会経済の発展,国民生活の安定に重要な役割を担っている.
(2)今後とも獣医師及び動物医療が社会的要請に的確に応えていくためには,多様な職域に就業する獣医師について需要の動向に即した適正配置とともに,動物医療提供の質の確保を図る必要があるが,現状において,特に次の3点の取り組み体制を整備することが急務と考える.
ア 獣医師養成の基盤となる獣医学系大学の獣医学教育課程について,学部体制への再編・統合を推進することにより,教員数の確保,教育カリキュラムの整備等を図り,高度専門職業人養成課程として抜本的改善を図ること.
イ 獣医師に対する需要の動向を踏まえた地域間,職域間の偏在の是正等獣医師の適正配置を推進するとともに,卒後臨床研修をはじめとする不断の診療技術向上対策を図ること等により社会需要に応え得る動物診療提供の質の確保を図ること.
ウ 動物診療技術の高度化・多様化の要請に対し,診療技術の質の確保と信頼性の確保を図るため,動物診療に係るパラメディカル専門職の資格制度を創設するとともに,現行の動物看護師については,パラメディカル専門職の基盤になるものとして技術・知識の高位平準化と職域環境の整備を図ること.
2 各政策課題と対応の方向等
(1)獣医学教育の整備・充実
ア 現状及び課題
(ア)獣医学教育年限が6年に延長され30年が経過するが,全国16の獣医学系大学の現状は,10国立大学法人のほとんどが,農学部等の特定学部の1学科(課程)に位置付けられたまま.1大学当たりの教育研究組織が極めて小規模にすぎ,施設・設備をはじめ教員数等すべての教育環境の不備が指摘されたまま今日に至る.
「獣医学教育の改善目標」(1大学学生定員60人について,教員72人以上,うち18人以上の教授による学部体制の整備)の到達には程遠い状況.
(イ)獣医学教育の国際基準(米国・EUの獣医学教育認定の基準)に適合する大学はなく,獣医師国家試験の出題範囲に対応した講座(研究室)数を大きく下回る大学も存在する.
(ウ)獣医学教育については,社会の要請に応え得る専門職業人養成課程として学部体制への整備を図ることが急務である.
イ 対応の方向
(ア)獣医学教育を学部体制に整備するため,次の措置を講じる必要がある.
  • 国立大学法人10大学の学科規模による獣医学教育課程については,スケール・メリットを最大限に活かし再編統合を進め,単独の獣医学部として整備する.再編統合の政策的支援のための奨励的助成措置
  • 公立・私立大学法人6大学については,入学定員に応じた十分な教員数の確保とそれに見合う施設,設備を有する獣医学部の単独規模への整備について私学助成の拡充等の財政措置
(イ)一方,獣医学教育の改善を社会的理解の下で進めていくため,獣医学教育分野に特化した第三者評価(外部評価)の仕組みを立ち上げ,外部評価の積極的推進について関係大学の取り組みを強化する必要があり,このための文部科学省による指導強化と支援が必要となる.
(2)獣医師の需給対策と入学定員
ア 現状と課題
(ア)獣医学系大学の入学定員
 獣医師は,医師,歯科医師と同様に需給政策上,計画的な人材養成が必要な職域分野とされ,獣医師養成に係る学部・学科の新増設及び入学定員の増員は許可されていない.入学定員抑制策の下で現在,毎年1,000名程度の新規獣医師が輩出されている.
(イ)獣医師の需給
  1. 獣医師の届出者総数は,36,000人(平成18年末).獣医師の職域は多様化しており,[1]公務員獣医師が25%,[2]診療獣医師が48%(うち24%が産業動物診療獣医師,76%が小動物診療獣医師),[3]会社,大学,研究所等勤務獣医師が14%,[4]獣医事に従事しない獣医師が12%となっている.
  2. 獣医師需給は,[1]動物診療需要がベースとなるが,診療対象の家畜及び犬・猫等の家庭動物の飼育動向,少子・高齢化の進展に伴う人口動態,更には,診療施設間の地域連携や診療補助者による診療効率化の進展等からみて,[2]全体需要(獣医師総数)は,現状程度(毎年1,000人)の新規獣医師の供給で今後とも充足する.
  3. 一方,毎年度の新規獣医師の小動物診療分野への継続的な就業割合の増加(新規獣医師の5〜6割)により,産業動物診療分野及び地方自治体の家畜衛生・公衆衛生部門においては,獣医師不足が顕著となる獣医師配置の職域偏在が顕在化している.
イ 対応の方向
(ア)獣医師需給対策
 獣医師確保については,獣医療法に基づく「獣医療基本計画制度」の下で,国が基本方針を定め,国及び都道府県が各般の施策の計画的推進を図ることとされている.獣医師の職域偏在の是正については,計画制度において次の施策を推進するとともに,獣医師不足は不足職域の処遇の問題にあるとの認識の下,受け手サイドにおいて処遇の改善を図る必要がある.
a 「獣医療基本計画制度」における需給対策の推進
  • 獣医師法に基づく卒後臨床研修制度の実効確保を通じた職域環境の整備(獣医学系大学及び不足職域の受け入れ機関の間の獣医師紹介・受け入れネットワークシステムの導入)
  • 産業動物診療獣医師修学資金給付制度の拡充・整備(給付月額上限の引き上げと公衆衛生公務員獣医師就業の給付対象への条件緩和)
  • 獣医学系大学において自治体または農業団体からの要請を受けての特定職域・地域就業優先入学枠の導入
b 獣医師処遇の改善
  • 産業動物診療獣医師処遇の象徴的存在とされる「雇い上げ獣医師手当(政府予算単価:1人1日12,850円)」の引き上げ(参考:医師調査謝金(政府予算単価:1人1日17,900円))
  • 獣医師職員不足自治体における獣医師職員の専門職としての処遇の確保(獣医師専門職に対する医療職俸給表(−)の適用,給料調整額の確保によるベースアップ)
  • 産業動物診療の基盤となる家畜共済制度運営の改善(家畜共済制度の充実による加入の促進,家畜共済診療点数表について診療の実情に即した技術料水準の設定)
(イ)大学の入学定員枠
  1. 獣医師については,毎年1,000人程度の新規獣医師により全体需給は充足しており,今後とも入学定員抑制策を堅持する必要がある.獣医師不足に対処する上で重要なのは,大学教育水準の質の確保を図る中で,特に不足職域関連分野(動物臨床,家畜衛生・公衆衛生等の応用獣医学分野)の教育体制を整備することにある.
  2. 職業選択の自由が保証されている中で,入学定員の増加が不足職域の充足に繋がる保証はない.入学定員の緩和は,獣医師養成の基盤となる獣医学教育改善に逆行するばかりか,その瓦解につながりかねない.
(3)動物診療におけるパラメディカル専門職資格の導入によるチーム医療体制の確保
ア 現状と課題
(ア)動物医療技術が高度化する中で診療技術の質の確保と信頼性の確保を図るためには,一人獣医師のみによる対応には限度があり,獣医師との役割分担の下で一定範囲の動物診療技術の提供を担うパラメディカル専門職の資格(免許)制度の創設が求められる.
(イ)現状において,動物医療に係る国家資格は獣医師のみ(家畜人工授精師は知事免許制),パラメディカル専門職の免許制度は無い.一方,人の医療においては医師,歯科医師を含め臨床検査技師,診療放射線技師,看護師等20職種が国家資格として制度化されている(関係する任務・身分法は15法令).
(ウ)一方,現在,小動物診療施設の多く(9割程度)においては,動物看護士(師)
 (以下「AHT」)と称する者が,獣医師法に抵触しない範囲において,[1]獣医師の診療の補助や検査業務のほか,[2]入院動物の飼育管理,診療施設の窓口業務,動物のトリミング等の理美容業務に従事しているが,職域環境([1]動物診療における位置づけ,[2]技術の確保等の人材養成,[3]処遇対策)が未整備であり,社会的認知が得られていない.
イ 対応の方向
(ア)動物診療技術に対する動物飼育者からの高度化・多様化等の多様なニーズに応えるとともに,動物医療の質の確保を通じ信頼の確保を図るため獣医師と動物診療従事者としての専門技術職とのチーム医療体制を整備することが必要.
(イ)このため,[1]獣医師法により獣医師の業務独占とされる診療行為のうち,獣医師の指示の下で行う一定の範囲の行為(動物診療に係る臨床検査,放射線照射,理学療法,高度医療機器操作,獣医師の診断・治療の介助等)や保健衛生指導等を業として行う者について,[2]国が動物の診療及び診療に係る専門技術・知識の就業の程度を試験し,動物診療に係るパラメディカル専門職の免許を与える資格制度を創設する.
(ウ)一方,現行のAHTについては,[1]次により業務範囲の明確化を図るとともに,[2]業務範囲に即応した資格認定と人材養成体制の整備を図ることにより,パラメディカル専門職の基盤となるものとして技術の高位平準化と職域環境の整備を図る.
  1. 動物行動学を基礎とした傷病動物の介護及び機能回復訓練並びに患者動物の飼育者に対する保健衛生指導による診療効果の確保・向上
  2. 動物診療に伴う動物の臨床検査及び獣医師の診療の補助(いずれも非診療行為の範囲)
  3. 飼育者に対する動物飼育管理指導による飼育者とのコミュニケーションの確保
  4. 動物診療施設の庶務及び会計経理事務

 

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