3 CAPP活動への施設スタッフの意識に対するアンケート調査による考察
本アンケート調査は,CAPP活動が導入されている高齢者入居施設において施設スタッフがCAPP活動についてどのように感じているのか,また,施設スタッフから見てCAPP活動は利用者にとってどのような効果や影響があると感じられているのか,そして,CAPP活動を導入することによって実際の介護(トイレ,離床,着替え,食事なとの介助)におけるスタッフの負担を軽減することが可能となっているのかを明らかにすることを目的としている.
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(1)方 法
現在,JAHAのCAPP活動(訪問型動物介在活動)が定期的に行われている高齢者施設(入居施設,デイケア施設等含む)合計138施設にアンケート用紙を郵送し,回答を求めた.アンケート用紙は各施設において複数の施設スタッフが回答可能となるように,各施設5枚送付した.合計229名の施設スタッフから回答があった.
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(2)結果・考察
ア 社 会 化
アンケートの質問項目[1]―「1.自分や他のスタッフとの会話が増えたと感じますか」に対しては,合わせて72%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答している.質問項目[1]―「2.ご家族との会話が増えたと感じますか」に対しては,合わせて44%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答している.そして,質問項目[1]―「3.利用者様同士の会話が増えたと感じますか」に対しては,合わせて56%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答している.このことから,CAPP活動導入前と導入後を比べると,およそ半数の施設スタッフが施設を利用している高齢者と家族や周りの高齢者仲間等,周りにいる人達との間で会話が増えていると感じていることが分かる.会話量の増加とは,人とのコミュニケーションが活発になっていることを示しており,社会化の効果があるということである.そして,72%の施設スタッフが自分との会話が増えていると回答していることから,CAPP活動の導入によって高齢者に社会化の効果がもたらされているということを,施設スタッフが自分自身の経験として実感していることが伺える.これは,動物が存在することによって人との会話が増えることが示された,このアンケート調査とあわせて行ったビデオ撮影による観察調査の結果と一致する.
しかし,会話量の変化について,特に変化を感じていない施設スタッフが約30%〜50%いることにも注目したい.その施設を利用している高齢者の特質(身体機能レベルや病気の有無等)によって会話によるコミュニケーションが可能であるかないかにも左右されると考えられるのではないだろうか.
イ 精神的効果
アンケートの質問項目[1]―「4.日常生活において笑顔が増えたと感じますか」に対しては,合わせて58%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答しているが,40%の施設スタッフは変化を感じないと回答している.また,質問項目[1]―「5.日常生活において,落ち着いた状態が増えたと感じますか」に対しては,合わせて36%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答しているが,それを上回る62%の施設スタッフが変化を感じないと回答している.また,質問項目[1]―「7.日頃攻撃的な行動が見られる人について,そのような行動が少なくなったと感じますか」に対しては,合わせて30%の施設スタッフがやや同意する〜強く同意すると回答しているが,その2倍以上の66%の施設スタッフが変化を感じないと回答している.
半数以上の施設スタッフが日常生活においても笑顔が増えていると感じていることは,動物が存在することによってCAPP活動に参加している高齢者に笑顔が見られる回数が増加することを示した,このアンケート調査とあわせて行ったビデオ撮影による観察調査の結果と一致しており,CAPP活動での動物とのふれあいの効果が日常生活においても継続しているのではないかとも考えられる.しかし,笑顔については40%の施設スタッフが,そして攻撃的な行動と落ち着きについては,それぞれ62%,66%と半数以上の施設スタッフが変化は見られないと感じていることから,CAPP活動のような訪問型の動物介在療法では,その時その場での精神的効果は見られるものの,それを日常生活にまで反映させるのは難しいということが伺える.
自由回答の中では,活動中は笑顔がとても多く見られ,普段は見せることのないような表情や落ち着いた状態を見せる高齢者もおり,もっと頻繁に活動が行われれば日常生活でもこのような様子が継続してみられるようになるのかもしれないという意見が多数あった(資料2).訪問型の動物介在活動であっても,より頻繁に高齢者を訪問し,参加される高齢者との間に親密な関係を築くことができたら,動物が高齢者におよぼす精神的効果は大きく深いものになる可能性があるのではないだろうか.今後の研究課題である.
ウ リハビリ効果・健康への効果
アンケートの質問項目[1]―8〜11では,それぞれ着替えの介助,食事の介助,離床の介助及びトイレの介助について,CAPP活動を導入する前と後では変化がみられると感じたかについて質問している.それぞれの介助についてCAPP活動を導入してから楽になったと回答した施設スタッフは約10%前後に留まり,約90%の施設スタッフが変化を感じないと回答している.
また,アンケートの質問項目[1]―12及び13では,高齢者の健康について,CAPP活動を導入する前と後では変化がみられると感じたかについて質問している.「年間を通じて風邪等の病気が減ったと感じますか」及び「薬の使用量は減ったと感じますか」の質問に対して,それぞれ約80%〜90%の施設スタッフが変化を感じないと回答している.
動物介在療法では,身体機能回復のリハビリにおいて「動物と遊びたい,さわりたい」という気持ちがリハビリへの動機付けとなり,動物が存在することによってリハビリ効果が高まるということが観察されている.また,ペットを飼っている高齢者は,そのペットの世話のために体を動かしたり部屋の温度調節に敏感になったりすることから,結果として自分の健康状態も良くなるということが観察されている.しかし,これらの効果を期待するには,継続した動物との関わりとそれに伴って育まれる動物との親密な関係,絆,そして動物がいることによって社会化が広がることが大きな意味を持つようである.
やはり上に述べた精神的効果と同様に,CAPP活動のような訪問型の動物介在活動では,動物との継続した関係が基礎となっている動物によって人にもたらされるリハビリ効果や健康への効果は期待できないようである.しかし,訪問回数を増やしたり,活動の内容に工夫したりすることによって,動物介在療法やペットとして動物と生活している場合より小さな効果であっても,リハビリ効果や健康への効果が現われてくる可能性もあるのではないだろうか.今後の課題である.
エ 積極性への効果
アンケートの質問項目[1]―「6.他の活動へも積極的に参加するようになったと感じますか」,「14.自発的な離床の機会が多くなったと感じますか」及び「15.自発的な活動の機会(歩く,リハビリ等)が多くなったと感じますか」の質問に対しては,約60%から80%近くの施設スタッフが変化を感じないと回答している.しかし,自由回答の中では,入居している高齢者がCAPP活動の日を楽しみにしている様子や,デイケアを利用している高齢者はCAPP活動の日を選んで参加している様子を書いている施設スタッフが多数いた.
このことから,CAPP活動のような訪問型の動物介在活動は一種のイベント/行事となっていることが伺える.月に1回の動物が遊びに来るイベントに対しては積極的になるが,このような積極性は日常生活の中にまで継続し,反映するものではないようである.CAPP活動を,その時その場限りのイベントで終わらせることなく,日常生活の中での楽しみに繋げていったり,施設の中での他の活動との繋がりを持たせたりするような工夫をすることによって,高齢者の生活全体に楽しみを増やすことができ,さまざまな場面において高齢者の積極性を引き出すことが可能となるのではないだろうか.施設と協力し合いながら,高齢者の生活全体を視野に入れた活動の展開は今後の課題である.
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