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 3 運営組織及び各診療科の取り組み
 日本動物高度医療センターは,2007年6月1日に開業したが,運営組織は表1の通りである.

表1

 10月現在,9つの診療科で開業しており,今後順次専門診療科を増やしていく計画である.施設は,5階建ての延床面積3,795m2で,各階のフロアーガイドは下記の通りである.全ての手術室は陽圧構造(外部より手術室内の気圧を高くし,外の空気が入り込まない構造)で6部屋あるが,これだけの手術設備を要した施設は,国内外で初めての施設と認識している.また,屋上には発電設備を独自に備えており,停電時等でもJARMeC内部では手術や診療が止まらぬよう,リスク管理の設計がなされている.
 図1の施設を利用して,各診療科は各々下記の取り組みを開始している.
5F
図1 施設平面図
(52)応接室 (53)顧問・相談役室 (54)事務室 (55)副院長室 
(56)取締役室 (57)院長室 (58)役員会議室 (59)セミナールーム
(60)スタッフルーム
2F
図1 施設平面図
(25)モニタールーム (26)薬品庫 (27)カルテ庫
(28)オペミーティング室 (29)手術準備室 (30)〜(35)手術室
(36)ICU  (37)洗浄室
     
4F
図1 施設平面図
(46)ラウンジ (47)図書室 (48)研修医会議室 (49)研修医室
(50)ワークスペース・ロッカールーム (51)犬猫用入院室・犬猫用ICU
  1F
図1 施設平面図
(1)総合受付 (29待合 (39放射線治療室 (49PET-CT (59MRI
(6)内視鏡・超音波検査室 (7)X線室 (8)フラットパネル
(99臨床検査室 (10)処置室 (11)〜(16)診察室 (17)眼科診察室
(18)眼科暗室 (19)理学療法・腎臓透析室
(20)行動学・カウンセリングルーム (21)夜間診療 (22)事務室
(23)薬局 (24)守衛室
     
3F
図1 施設平面図
(38)ラウンジ (39)免疫部門 (40)遺伝子治療部門 (41)再生医療部門 (42)病理解剖室 (439病理検査室 (44)病理検査事務室 (45)研究開発室
   

 

(1)循環器科
 循環器の内科疾患に対する各種検査(心電図・心音図,胸部X線,心エコー,心カテーテル検査等)の総合的評価により確定診断を行い,症例の病態に適した下記[1]〜[3]等の治療方針を決定する.
[1]弁膜症・心筋症・不整脈疾患等に起因した心不全に対する内科的治療
[2]各種カテーテル・インターベンション
コイル塞栓術(動脈管開存症等)
バルーン拡張術(大動脈・肺動脈狭窄症等)
[3]ホルター心電図検査による徐脈性不整脈診断とペースメーカー植込み術
 また,外科疾患については,外科的治療の適応を判断し,手術計画を決定する.体外循環下開心術をはじめ,各種非開心術等症例に応じて心拍動下でのより低侵襲な手術方法を検討し,実施している.
[1]先天性疾患
 動脈管開存症・大動脈狭窄症・肺動脈狭窄症・右室二腔症・心室
 中隔欠損症・心房中隔欠損症・心内膜床欠損症・ファロー四徴症・その他複合心奇形・右大動脈弓遺残症等
[2]後天性疾患
 僧帽弁閉鎖不全症,心臓腫瘍,血栓塞栓症等
(2)腫 瘍 科
 病理検査部門,放射線科との連携により,臨床医が的確な腫瘍診断,ステージ分類に基づいた治療計画を作成し,予後の指標を踏まえて症例ごとに治療方法を提案する.
 その後の治療ついては紹介医との連携,オーナーの意向を尊重し,治療結果の評価も含めて検討しながら進めて行く方針である.
[1]検査内容
・細胞診
・病理組織診断
・遺伝子診断
・FACSによる免疫力検査,リンパ腫由来細胞の確定診断
・PCRによる遺伝子診断
・免疫染色・ブロットによる腫瘍特異的蛋白活性の検出
・染色体異常の検出
 腫瘍外科部門では最新鋭の手術機器・麻酔設備・モニター等を導入しており,専門治療に特化した質の高い獣医療を提供する.外科手術に際しては麻酔科医と連携して患者動物のリスクに応じた麻酔計画を構築し,術後管理・疼痛管理に至るまできめの細かい管理を行う.
 また,術前の診断から適切なサージカルドーズを決定し,飼い主の皆様に対しては手術合併症・実施要件を明確にしたインフォームドコンセントを実施する.
 腫瘍内科部門では免疫療法と化学療法の二つのアプローチをとります.これらの治療は腫瘍の種類によってはそれぞれ単独で効果を発揮することもあれば,外科治療と平行して取り入れることによって,手術による治療効果を高め,動物のQOLを向上させる目的で行うこともある.
 免疫療法では患者動物自身の腫瘍細胞と樹状細胞(抗原提示細胞)を用いて行う能動免疫療法(DC療法)と患者動物のリンパ球を体外で培養・活性化して患者動物に投与する受動免疫療法(LAK療法)を中心に行っている.
 化学療法においては世界各国の獣医師たちの長年にわたる経験・エビデンスに基づいて構築された化学療法プロトコールを駆使するとともに,積極的に改良を行い,症例ごとの臨床ステージ,分子プロファイル,そして健康状態にあわせたテーラーメイドの治療を行っていく.また,新しい抗がん剤の使用法として,免疫抑制を起こさず,免疫療法の効果を増強する免疫化学療法の獣医領域におけるエビデンスの確立をめざしている.
図2 腫瘍外科部門での手術
図2 腫瘍外科部門での手術
(3)総合診療科
 当センターには将来的に16診療科ができる予定であるが,10月時点では9専門診療科で運営している.そこで,開院時の不足診療科を補うとともに,今後診療科が増加してからは,診療科間の連携を円滑にするために,専門診療科とは別に「総合診療科」を置くこととした.
 最近の医療トレンドでは,人医療の診療科が細分化しすぎて患者に分かりにくくなったため,厚生労働省は,医療機関が名乗ることができる診療科を,現在の38科から20科程度に再編する方針を固め,この方針の中で,かなりの診療科を廃止する一方,幅広い病気を診断する「総合科」を名乗ることを認める方向である.当センターの「総合診療科」も,このような医療の方向性を先取りし,2次診療施設である当センターに患者動物を紹介くださる獣医師の方々や診療をうける方々に受診しやすい環境を提供する役割を果たしてゆきたいと考えている.
 診療に際しては以下のような点に留意する.
[1]紹介してくださった病院,獣医師の診療,データ,意向を尊重する.
[2]待合室が混み合わないように,予約を調整する.
[3]丹念な問診を心掛けて情報を収集するとともにオーナーとの信頼関係を築く.
[4]五感を生かして身体検査を行い,異常を見落とさないようにする.
[5]検査は,オーナーの了解を得ながら,段階的に進める.
[6]他診療科との連携をとり,診断,治療にあたる.また,必要があれば迅速に専門診療科の対応を要請する.
[7]診断・治療が難しい症例については,当センターの150名を超える強力なアドバイザー陣にアドバイスを求める.
[8]診察結果,治療方針,予後等について,オーナーにわかりやすく説明し,同意を得る.
[9]初診時には診察結果報告書,入院時や再診時には経過報告書を担当医から紹介獣医師にFAXで送り,疑問点等については診療科専用のメールアドレスへ連絡いただき,対応する.
[10]当センターの2次診療施設としての役割がすめば,紹介してくださったホームドクターにお返しし,連携しながら経過を見てゆく.
 現在,専門診療科がある循環器疾患,腫瘍,皮膚科疾患,眼科疾患以外の疾患として以下のような疾患について対応しており,その他の疾患について総合診療科で対応していく.
[1]脳神経系疾患
 8月から新たに脳神経科が立ち上がるが,当面,外科的治療も含めて,放射線科,麻酔科,総合診療科が連携して脳疾患,脊髄疾患,末梢神経疾患に対応する.
[2]血液疾患
 赤血球,白血球の異常,止血異常,免疫介在性疾患等
[3]消化器疾患
 口腔・咽頭・食道疾患,胃疾患,腸疾患等
[4]肝臓・胆道・膵外分泌疾患
 門脈体循環シャントと等の先天性疾患,猫の肝リピドーシス,肝炎,特性肝線維症,胆道系疾患等
[5]泌尿器疾患
 腎不全,尿石症,尿路感染症,排尿障害等
[6]内分泌疾患
 視床下部・下垂体疾患,甲状腺疾患,膵臓内分泌疾患,副腎疾患等
[7]感 染 症
 全身性感染症等
[8]整形外科疾患
 骨疾患,関節疾患
[9]遺伝性疾患
 遺伝子型検査が確立している疾患の診断
 原因遺伝子変異がまだ不明で遺伝性が疑われる疾患の診断,研究
(4)皮 膚 科
 皮膚科診療では,細胞疹,病理組織学的検査,アレルギー検査等のさまざまな検査を行って的確に診断を行い,エビデンスに基づいた治療を行っていく.
[1]検査内容
・皮膚掻爬,皮膚スタンプ検査
・被毛鏡検
・ウッド灯検査
・真菌・細菌培養同定
・抗生物質感受性試験
・細胞診,病理組織学的検査
・アレルゲン特異的血清IgE抗体検査
・皮膚アレルギー検査(皮内反応)
・遺伝子診断(MDRI遺伝子変異等)
・その他特殊な検査(蛍光抗体法,電子顕微鏡検査等)
 また,特に下記の疾患に力を入れていく
 「アトピー性皮膚炎」:重症の患者動物に対して,皮内反応により原因となる抗原(アレルゲン)を特定し,アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)を行う.効果は症例の約70%に認められると言われている.また免疫療法以外にシクロスポリンや IFNγ 等,なるべく副作用の少ない薬を用いて治療を行い,疾患のコントロールと動物のQOLの改善を目指す.
 「皮膚腫瘍」:特に悪性腫瘍に関して,腫瘍科,放射線科と連携をとりながら適切な診断,ステージ分類を行い,免疫療法,化学療法,外科手術,放射線治療等患者動物に合わせた治療を行う.
 「脱毛症」:各種ホルモン検査,病理組織学的検査等を行い,脱毛の原因を究明し適切な治療を行う.
 「皮膚潰瘍」:難治性皮膚潰瘍や放射線治療による皮膚損傷において,外用療法,被覆材を用いた内科的治療の他に,外科系診療科と連携して外科的治療を行う.
 「膿疱症,水疱症」:天疱瘡等の自己免疫性疾患や先天性表皮水疱症等の遺伝性皮膚疾患の診断に,大学と連携しながら蛍光抗体法,免疫ブロット法,電子顕微鏡検査,遺伝子検査等を実施し,疾患の診断法の確立をめざす.またそれらの診断を踏まえて適切な治療を提供し,疾患のコントロール,QOLの向上に努める.
(5)眼   科
[1]診   断
 精密な検査に基づく正確な診断を行うために,世界最先端の検査機器を導入し検査を行う.
「検査内容」
 ・各種涙液膜の機能検査
 ・前眼部スリットランプ検査
 ・眼圧検査,眼底検査
 ・超音波隅角検査
 ・蛍光眼底造影検査
 ・網膜電図検査
 ・角膜厚測定
 ・眼軸長測定
[2]治   療
 精密な検査は診断の精度をあげ,正しい治療の方向へと導くが,さらには,数値に基づく客観的な治療効果の判定を可能にする.初診,そして再診時,変化を続ける症状に応じた計画を立て,オーナーの方と一緒に治療を進める方針で取り組む.

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