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〈環境省自然環境局 冨岡 悟局長〉 本日は,日本獣医師会の第64回通常総会にお招きいただき,誠にありがとうございます. 環境省では,常日頃から獣医師会の皆様方には,動物の愛護,管理,希少な野生生物の保護,傷病鳥獣の救護,外来生物の管理など様々な分野において,国,地方自治体と連携いただきご協力いただいておりますことに厚くお礼を申し上げる次第です. さて,人と動物のかかわりが変化している社会環境の中で,ご来賓の挨拶にありましたように,動物との触れ合いといったものが非常に求められている時代となってきているものと考えられますが,近年外来生物法の制定,動物愛護管理法の改正など,動物に関する法律の制定,改正も相次いで行われています. まず,平成17年に改正された動物愛護管理法については,環境省では法律改正を踏まえて,動物愛護管理にかかる基本的な指針について検討を進め,昨年10月に決定したところです.この基本指針では10年間で自治体が引き取る犬,猫の数を半減させる,所有者を明示する措置の実施率を倍増させるといった具体的な目標を掲げているところです. こうした目標の達成に向けては,終生飼養の原則を広く国民に定着させるとともに,不妊去勢措置やマイクロチップの埋め込み等を広く推進していくことも必要です.このため,環境省においては普及啓発活動とともに,マイクロチップの情報を読み取る機器の配備,情報源,情報の共有化などを進めています. このほか動愛法においては,動物取扱業の届出制度から登録制度への変更などにかかる移行期間が今年5月末をもって終了し,また都道府県における動物愛護管理推進計画の策定作業が始まるなど,法に基づく取り組みが着実に進んでいるところです. 一方,もともとの生息地の環境が悪化し,このままでは絶滅の恐れがある野生動物,例えばトキ,ツシマヤマネコ等につきましては順次保護増殖計画を立てて飼育下繁殖を進めてきていますが,昨日,本日と報道されたように,今年度からは新たに沖縄のヤンバルクイナの飼育下繁殖を試験的に始めることとしています.また,生態系等に対する被害を防止する観点から,マングースやアライグマ等の外来生物について自治体とともに懸命に防除の努力を続け,さらには小笠原における野良猫対策等も進めているところですが,昨年の12月には蛙のツボカビ症が国内で初めて確認されるなど,野生動物の世界では一つの問題が解決しないうちに次から次へと新たな課題が発生するという状況が続いています. もとより動物の適正な飼養,管理に獣医師の皆様の協力は不可欠であり,今,縷々申し上げました取り組みにも,各地の獣医師の皆様方にご協力をいただいているところです.私どもにとって法の適正な執行や施策の推進を図る上で,皆様方の協力はこれからもますます増すものと考えています.環境省といたしましては,今後も動物に対する社会の要請を踏まえ,様々な関係団体との連携にもとに施策を推進していく所存ですが,とりわけ獣医師会の皆様方にご協力いただきますよう,よろしくお願い申し上げます. 最後になりますが,本日の総会が実り多きものとなり,日本獣医師会がますますご発展することを祈念いたしまして,お祝いの挨拶とさせていただきます.今後ともよろしくお願い申し上げます. 〈社団法人中央畜産会 中瀬信三相談役〉 ただいまご紹介を賜りました中央畜産会の中瀬です.本日は,社団法人日本獣医師会第64回総会にお招きいただき誠にありがとうございました.畜産関係諸団体を代表いたしまして一言ご挨拶を申し上げます. 日本獣医師会におかれましては,昭和23年の設立以降,全国各地で動物を扱う公益性の高い任務を担う獣医師の専門家集団として,幅広く活動を展開されますことを,心から敬意を表する次第です.また,本日の総会がこのように立派なかたちで開催されることを心からお慶び申し上げます. さる6月18日,我が中央畜産会においても52回の総会を開催いたしました.日本獣医師会の歴代の会長には,中央畜産会の常務理事を就任いただいておりまして,様々な意見交換,あるいは施策を検討いただきますが,私が着任してからは,杉山会長,五十嵐会長,現在の山根会長と,折に触れ非常に適切な助言,ご指導をいただいております.この場をお借りして,心からお礼を申し上げます. また,私事を披露して大変恐縮ですが,私はこのたびの総会において,副会長を退任し,後進に道を譲ることとなりました.10年と少しの間,皆様から懇切なご指導,ご支援,ご好意を賜りましたこと,心から厚くこの場をお借りしお礼申し上げる次第です.また,私の退任にあたり小里貞利会長から,いましばらく会長を補佐するよう指示があり,しばらくの間相談役として,微力ながら力添えさせていただくこととなりました.皆様にもまたお世話になると思いますので,何卒よろしくお願い申し上げます. さて,先ほど縷々来賓の皆様からお話がありましたが,最近の情勢としては,宮崎,岡山で発生した高病原性鳥インフルエンザの侵入に対する迅速で確実な対応による成果に対し,心からの敬意を表する次第です. また,これと前後して4月には120年振りに豚コレラ清浄国の認定を受け,暗いニュースが続いている昨今の畜産の業界で,大変明るいニュースを提供いただいたことは,獣医師の皆様の格段のご努力とご指導があってのことと,深甚なる敬意を表する次第です. 最近の畜産全般を取り巻く状況については,まさに構造変化の渦中にあるといった感があり,最近の国際貿易交渉においては,常に農業問題が遡上にのぼっており,心配しているWTO交渉においては,先日ドイツで開催されたG4閣僚会議の決裂に至り,先行きの見通しは大変厳しいものと危惧されます. このように多国間貿易が円滑に進まないことから,今後は,2国間貿易の交渉というものに力点が置かれ,EPA,FTAといったものにシフトすることが予想され,2国間交渉の対処がこれから大きな課題となっていくものと思われます. さらに,このような問題に追い討ちをかけるように,米国におけるトウモロコシのバイオエタノール事業に端を発した飼料原料価格の高騰が,畜産経営に直接的な影響を与えるとともに,すでに一部の食料品の価格にも反映して,値上げがはじまっているという情勢です. このような飼料価格高騰対策として,政府は種々の試みをされていますが,その基礎となる対策というものは家畜そのものの生産性の飛躍的な向上ではないかと感じています.この生産性の向上が輸入畜産物に対抗することにもなり,また,安全・安心をいかに担保するかという課題にもつながります.消費者に対して安全で安心な畜産物を自信を持って安定的に供給するという我々に与えられた命題に応える道でもあると考えます. 我々の先代の山中貞則会長は,日本獣医師会の顧問も仰せつかっており大変名誉だと言っておりましたが,日頃から畜産の発展にとって衛生面と経営面からの指導,支援というものはまさに車の両輪であると,絶えず訓示を与えておられました.私はそのような遺訓を固く胸に留めながら,今後の我々の対応に誤りなきよう期していきたいと考えていますし,これからもそのような気持ちで,獣医師の皆様と畜産会が手を携えて事業を進めてまいりたいと思っています. このような提携関係について少し具体的に申し上げます.我々の畜産会活動と皆様の獣医部門の活動には,今二つの接点があるというように思っております.一つは,団体再編の結果として,皆様方大変ご苦労されたと思いますが,道府県の畜産会と衛生指導協会の統合が行われています.この政府の組織改変にあたり,従来畜産局にありました家畜衛生行政部門が,生産振興行政部門も含めてすべて,本日ここにご出席の町田局長の消費・安全局に移行しています.この情勢下に我々は団体ベースとは言いながら獣医と畜産の両部門が一体となって取り組み,畜産の振興に当たるということは,大変意義のあることではないかと思う次第です. しかしながら,中央における団体再編は遅れており,我々は大変危惧しておりましたが,このほど農水省の指導により,中央においても畜産会,衛指協,それから肉用牛振興基金協会,その他関係の団体があれば,その統合について抜本的な検討を行うよう指示がありました.私どもはその検討に積極的に参加すると共に,この成果に期待しているところです. もう一つの取り組みは,先ほどからお話にある産業獣医師の育成確保対策です.過日公表された農水省の「獣医師の需給に関する検討会報告書」によると,全国で活躍される産業動物臨床獣医師は約4,200名ということですが,国の畜産振興対策や政策目標値を勘案した場合,将来大幅に獣医師の数が不足すると予測されているようです.産業動物臨床獣医師の確保は,畜産会においては喫緊の課題です. その対策として,中央畜産会においては産業動物獣医師就学資金給付事業を実施しており,将来,大学の獣医科を卒業した後,地方公共団体や農協,その他団体,公益性のある団体に一定期間勤めるということを表明された学生には,在学中毎月10万円ずつ補助金を支給するという制度を設けています.この事業が,少しでも獣医師の不足を抑え,さらに増加に転じる一助となるよう期待する次第です. この問題については折に触れて,獣医師会,あるいは受け入れ先である農業共済協会等関係者とも,情報や意見の交換をしつつ,積極的に寄与したいと考えています. 以上,産業動物臨床獣医師の問題を申し上げましたが,冒頭に山根会長からもお話があったように,畜産問題,獣医事問題というものはやはり感性にかかわることを忘れてはならないと思います.中小家畜動物臨床獣医師と産業動物臨床獣医師は,手段の差こそあれ人間の幸せ,生きがいなどに貢献するという目的は同じであると思います.また医薬品の開発,動物の愛護,福祉,野生動物の保護,アニマルセラピーの普及,人間のクオリティ・オブ・ライフの向上など,今後ますます獣医衛生関係者の方々に求められる社会的なニーズは高まり,広範な活動も求められると思います. これまで皆様の協会が培ってこられた実績を糧に,ますますのご発展を心からお祈りしまして,ご挨拶とさせていただきます.今日は誠におめでとうございました. 〈社団法人日本獣医学会 佐々木伸雄理事長〉 ただいまご紹介いただきました佐々木です.私は日本獣医師会会員ですので,このような会にお招きいただきましたことを誠に名誉であると思っています.第64回総会ということで一言ご挨拶を申し上げたいと思います. 我々の学会は,約4,000名で構成され,研究を主として役割を果たさせていただいている団体です.実際には単純に研究だけではなく,この4月から教育問題を常設委員会のような組織を設置して検討を開始し,年1回,シンポジウムを開催することといたしました. この問題に取り組むに至った経緯は,来賓の皆様方からも様々なご指摘をいただいたように,獣医学は非常に広い分野でありながら,産業動物臨床獣医師,公衆衛生獣医師が不足しており,さらに現在,この分野に携わっている方々が非常に大きな活躍をされているにもかかわらず,必ずしもこれに見合った評価されていない等について,我々は大学人としては非常に大きな危機感を常々感じていました. これについては,教育充実のため大学再編を掲げ,20年来努力してきたものの,残念ながら実らず,さらに大学の法人化に伴い,教育の充実は各大学の自助努力に任せられることとなり,特に地方の国立大学は非常に危機感を抱いている現状です.確かに数人,数十人単位で教員の配備はされましたが,今我々に要求されている全分野を教育できる状況になく,産業動物獣医学の教育水準を確保している大学は,全国で数校のみで,多くの大学は十分な教育ができていない現状です. この解決策として,私は自助努力による資金源の確保は,動物病院の収入に求めこととなると考えていました.ところがその動物病院の予算体系は非常に悪く,全収入の6割位の予算を受けるにとどまるため,教員,あるいはサポートスタッフを増やすことはできません. このように現状の30〜40名程度の教員で,課せられたすべての分野を教育することは不可能な状況であり,今後,獣医師会の政治的な対応による改善も必要であると考えています. その一方で,小動物獣医療に関する要求は非常に高まっておりますが,我々の病院では,高齢者が動物と来院することが非常に多い状況です.先ほど子供の動物の触れ合いという話が出ましたが,一人暮らしで一日に誰とも会話をすることもないような生活に対し,身近に動物がいることにより,生活に張りが生まれ,元気に生きる糧を得ることとなります.そして,保険財政とか年金財政の破綻を防ぐ最大の方法は高齢者が元気になることであり,その一つの方法が動物を飼うとことではないかと,個人的に感じています. このような背景もあり,小動物の高度獣医療を求める世間の声は非常に大きくなっており,現在の大学は,それに応えるためだけに一生懸命努力をしていますが,まだ対応しきれていないという状況であろうと思います.その意味では産業動物獣医学,あるいは公衆衛生分野に対する教育はまだまだ不足していると考えられます. そして,このような状況となった最大の要因は,世間の援助を得られなかったことにあると思われます.当時は,様々な意見があり,様々な交渉をしたものの,世間の援助,協力というものが,再編整備等,教育充実を進めるために不足していたと思えてなりません. このたび獣医師会が中心になり,ワールド・ベテリナリー・デーを開催することは,非常に重要なことで,最近の動物等愛護の問題,あるいは様々な家庭動物の問題がしばしばマスコミに取り上げられるような,追い風の状況にあるので,マスコミ等に広報して,獣医師の活動を社会に周知していただきたい.そして,社会の応援を得て,今後,獣医学の教育の改善を推進してまいりたいと思います.同じ獣医師であり,我々も努力いたしますが,皆様方にも是非ともご協力いただきたいと思いますので,この場を借りてお願い申し上げます. 以上,ご挨拶とさせていただきます.どうもありがとうございました. |