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論 説

2 獣医師需給の概況
 (1)需要の動向
 獣医師免許の取得者は,毎年の免許登録者数や平均寿命等から推定すると5万人弱程度が存在すると見込まれる.最近時点の獣医師届け出の総数,31,333人についてみると,その職域は,医師,歯科医師の9割以上が診療業務に従事しているのに比し,多様化しており,[1] 公務員獣医師が29%,[2] 個人・会社法人・農業団体開設の診療施設において診療業務に従事する獣医師(診療獣医師)が47%,[3] 会社・研究所等の法人に勤務し診療を主たる業務とはしない獣医師(診療業務非従事獣医師)が13%,[4] 獣医学の技術・知識を要しない職種に従事する等により獣医事に従事しない獣医師(獣医事非従事獣医師)12%の4区分に大別される.
 公務員獣医師9,062人のうち,都道府県家畜保健衛生所等の動物衛生検査指導機関勤務の農林水産獣医師が3,680人(12%),都道府県食肉衛生検査所,保健所等勤務の公衆衛生獣医師が4,802人(15%),また,診療獣医師14,625人のうち,産業動物診療獣医師は4,503人(31%),小動物診療獣医師は10,122人(69%)とされている.【資料1】
 獣医師の需要は,畜産業をはじめとする動物関連業の産業基盤の動向,食の安全確保・動物感染症の防疫に代表される国民生活や産業振興の施策推進に係る行政需要,更に,動物診療の提供体制に対する動物飼育者からの要請の動向に左右されるが,動物の飼育頭羽数の推移をみると,産業動物としての乳用牛,肉用牛,豚,鶏については,平成2年前後を境に一貫して減少傾向で推移する中で,犬,猫の小動物については,平成14年の一時停滞したが,この10年間で犬が37%,猫が62%増と大幅に増加している.これら動物の飼育頭羽数の動向を反映し,この間における[1] 農業総産出額に占める畜産の産出額が4%減少したのに対し,[2] 家庭動物関連業(ペットフード,ペット用品,生体販売,動物診療,動物理美容,ホテル,葬祭等のサービス業)の売上高は50%近く増加したとされており,獣医師の職域別の分布は,結果として,これらの動向を反映したものとして形成され多様な職域に獣医師が就業している.【資料2】
 なお,主要国における獣医師1人当たりの動物飼育頭数をみると,日本は諸外国に比べ,産業動物,小動物ともに極めて小さいのが現状である.【資料3】

  (2)供給の動向
 全国16の獣医学系大学の獣医学課程卒業者は,毎年,1,100人を超えない水準で,また,獣医師国家試験合格者は,1,000人前後の水準(国家試験合格率は80から85%)で安定的に推移しているが,大学の新規卒業者が毎年,ほぼ一定であるのは,前述のとおり,獣医師需給に関する政策配慮から大学の学部・学科の新増設の認可が行われていないことによるが,平成14年8月の「大学の質の確保に係る新たなシステムの構築について(中央教育審議会答申)において,大学,学部等の設置審査の抑制方針は基本的に撤廃するとされたものの,獣医師養成を含め特定分野の新増設等の認可の規制については人材需給の政策展開に密接に関連を有するものであるとし,設置認可制度の改善の観点のみからこれらの取り扱いを変更することは困難だとしている.
 以上を踏まえ文部科学省が定める「大学設置の際の入学定員取扱い等基準」においては,大学等の設置又は収容定員増の認可の審査に関しては,「医師,歯科医師,獣医師等については,その養成に係る大学等の設置又は収容定員増でないこと.」とされており,現在,16の獣医学系大学の獣医学課程の入学定員総数は930人となっている(ただし,私立大学を中心に入学者の割り増しが行われ,毎年度の入学者は,1,050人から1,100人の間で推移している.).
 一方,大学の新規卒業者の就業動向を平成16年度の新規卒業者の就業状況でみると,[1] 公務員獣医師が150人(14%),[2] 農業団体勤務の診療獣医師が55人(5%),[3] 動物診療施設の診療獣医師が542人(50%),[4] 製薬・乳業・飼料製造等の民間会社勤務の診療非従事獣医師が53人(20%)となっており,これを10年前と比較すると,動物診療施設の診療獣医師への就業が50%増と大幅に増加.増加の主体は小動物診療獣医師で52 %増加している.小動物診療獣医師志望者は平成8年度から新規卒業者の4割を超え,近年は5割水準にまで増加している状況にある.【資料4】

  (3)需給の現状
 獣医師の職域分布を10年前と比較すると,獣医師届出総数が9%増加した中で,[1] 診療獣医師と獣医事非従事獣医師が,それぞれ18%,13%と増加.[2] 診療獣医師については,産業動物診療獣医師が16%減少したが,小動物診療獣医師が45%増加と際だって増加し,このことにより,獣医師届出総数に占める診療獣医師の職域シェアーは,10年前の43%が47%に増加.内訳を見ると,[1] 小動物診療獣医師は24%が32%に増加する一方,[2] 産業動物診療獣医師は19%が14%に減少.また,公務員獣医師の職域シェアーは,33%が29%にやや減少している.
 このような中で,獣医事非従事獣医師が10年前に比し13%増加し,獣医師総数に占める割合は12%に,また,新規卒業者でみても,卒業時における就業未定者が他大学,国家試験受験準備を含め毎年,100人程度存在している.獣医師の需給は,一部地域,職域の偏在(特定都道府県における公務員獣医師の採用難,一部農業地域における産業動物診療獣医師の確保難)はあるとしても,概括するに獣医師の全体需給は,逼迫の状況には無いといえる.【資料1】
 一方,最近における小動物診療業務を志向する者は一貫して増加基調にあり,小動物診療分野における需給は緩和の兆しを示し地域によっては,過密・過剰感が生じてきているのが実情である.今後,都市部を中心に小動物診療獣医師の供給過剰の顕在化が懸念される.
 獣医師有資格者と獣医師届け出者とのギャップが現行の届け出者の6割に当たる2万人弱あると推定され,その多くが,高年齢者又は女性であるとしても人材活用等による職域偏在の是正の余地はある.獣医師については,獣医療法に基づく獣医療整備計画制度の下で動物医療の提供体制整備に向けて国及び都道府県による施策の推進が図られることとなっているが,この中で獣医師需給対策として特定職域の獣医師偏在の是正に向けての取り組みを求めたい.

資料1


資料2


資料3


資料4

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