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論 説

獣医師の需給政策としての入学定員の存在
―獣医学教育の改善を推進する上で実効ある需給対策を―

大森伸男(日本獣医師会専務理事・神奈川県獣医師会会員)

大森先生写真1 は じ め に
 獣医師は医師と同様,需給政策上計画的な人材養成が必要な職域分野とされ,文部科学省の平成5年以降の高等教育の整備計画においては,「必要とされる整備が既に達成されているので,その拡充は予定しない.」とされている.このような人材需給に関する政策的配慮から,その養成に係る大学の学部・学科の新増設及び入学定員の増員は認可されてきておらず,定員抑制策の下で現在,獣医師については毎年,1,000人,医師については7,700人の新規免許取得者が輩出されている.
 医師の需給政策をみると,かつては昭和48年からの「1県1医科大学設置」が推進される等により医師数の増員が図られていたが,その後,将来の医師の過剰懸念から平成9年には医師数の抑制の閣議決定がなされ医学部定員抑制策に転換し今日に至っている.
 昨年7月,厚生労働省の医師の需給に関する検討会は,「現状の医学部定員抑制策の中にあっても平成34年には医師の需給が均衡し,マクロ的には必要な医師数が充足される.平成47年に医療施設の医師数は32万4,000人,人口10万人当たりでは285人と推計した上で,国全体で必要な医師数は供給される.」との報告を取りまとめた.報告においては,[1] 長期的には供給の伸びは需要の伸びを上回り,必要な医師数の供給がなされるとの結果であったが,同時に,[2] 地域別,診療科別(特に,小児科,産婦人科,麻酔科)の医師の偏在が現状において必ずしも是正の方向にあるとはいえない.このため,[3] 地域で必要な医師の調整を行うシステムの構築が急務であり,このための自治体,関係機関等による協議会の活用と病院間の連携体制の確保,持続的勤務が可能な環境の整備(看護師等のスタッフの充実と役割分担),さらに,地域において医師定着の施策(医学部入試における地域枠の設定,勤務地域指定条件付き奨学金の給付)を講じているにもかかわらず人口に比べ医学部定員が少ないため未だ医師が不足している県の大学医学部に対して実効性のある地域定着等の実施を前提とした定員の暫定的な調整を検討する必要があること等を内容とする報告書が取りまとめられた.このことにより,マスコミ報道にある通り,医師不足が深刻な10県の医学部の定員が条件付きで平成20年度からそれぞれ最大10人増やされることとなった.
 一方,獣医師養成については,医師養成とは全く異なる次元の長年の懸案として獣医学教育課程の修業年限が6年に延長されて以降においても遅々として進まない教育実施体制の質の改善を図らなければならないという医学教育においては到底考えられない基本的,かつ,深刻な課題がある.
 獣医師及び動物医療の果たすべき社会的役割を考えるとき,獣医師の需給対策として,また,高度専門職業人としての獣医師養成のための高等教育施策として国及び獣医学系大学が最優先で取り組むべき課題は何なのか,獣医師需給の現状と課題に即し大学入学定員の管理の必要性の観点も踏まえ私見を述べる.


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