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 平成17年(2005):
 昨年の北朝鮮核開発疑惑,日本人拉致問題に加え,凶悪犯罪の増加等道義退廃の兆が増し,一方,記録破りの猛暑,立て続けの台風上陸等,人災,天災の多い年であった.さらにBSEの確認に続き,79年ぶりに発生した高病原性鳥インフルエンザの発生等の中で人と動物の共通感染症対策,食の安全・安心の確保,動物愛護福祉等,国民に強く求められる時代で獣医師の使命も重い.今年の重点事項として,[1]職域別部会制発足の件では,約1年に亘る慎重な審議の後,第61回総会において承認され,産業動物臨床部会,小動物臨床部会,畜産・家畜衛生部会,公衆衛生部会,学術部会,職域総合部会の6部会制によりさらなる円滑活力ある運営を図ってゆきたい,[2]動物衛生における危機管理については口蹄疫にはじまり,BSE,高病原性鳥インフルエンザ等の発生から家保,食肉衛生検査所,動物保護管理センターにおける業務内容の整備・充実の必要性を痛感し,さらに学識を一層向上することが目下急務であり,このことにより国民の食の安全・安心が確保されるものとの思いを強くし,関係者との理解,連繋を深めたい,[3]小動物医療対策の整備充実として,国民生活における家庭動物の飼育増加や動物愛護思想の普及定着に伴い,小動物医療をとり巻く環境変化しことに人と動物の共通感染症や動物医療技術の高度化,多様化に伴い国民が期待する医療の充実は急務であったが,昨年10月1日農林水産省衛生管理課に小動物獣医療班が発足し,永年の宿願が達成された.この機会に小動物医療に従事する者は互助融和の精神を堅持し,国民が期待する動物医療体制構築の責任を果す時である,[4]獣医学教育改善に向けての対応,特に国立大学については,昨年4月からの大学法人化への移行に伴い,当面各大学独自のいわゆる自助努力による改善への取り組みが行われている,本会としては,獣医学教育の真の整備については,従前から獣医学部体制への再編が不可欠とし,日本学術会議全国大学獣医学関係代表者会議等と連携し,文部科学省はじめ関係省庁,関係獣医学系大学への働きかけを進め,昨年7月とりまとめた文部科学省の「国立大学における獣医学教育に関する協議会」の報告において,ア.改善に向けての整備について平成13年の国立大学農学部長会議の決議による改善策を基本に最大限努力する,イ.臨床教育の重点支援として家畜病院等の施設・設備について国による改善支援を要すること,ウ.獣医学教育改善に向けての取組みの評価,またその結果を踏まえての検証等が提示され,日獣としても学部体制への整備の必要性を再確認し,関係機関とともにその実現に向け努力する(要は大学再編運動の錦の御旗はおろさない),[5]狂犬病予防に関して,本病は1957年以来約半世紀の間発生しなかったが最近中国の狂犬病による死者が年間1,000人を越え,また,根絶したと考えられていた韓国にも発生報告があり,世界保健機関(WHO)によると年間約5万人が狂犬病により死亡し,その内約3万人以上はアジア人といわれている.一方,米国ではアライグマ,コウモリに噛まれての発生や臓器移植に際しての感染報告もあり,さらに近年,空気感染するとの説もある.日本国内では予防注射率が厚生労働省の報告によると50%を割る現状にあり,農林水産省では,狂犬病侵入予防の万全を期すため狂犬病発生国からの幼齢犬輸入自粛を要請し,昨年4月以降,犬,ネコ等の検疫制度検討を進め,本年6月より新検疫制度に全面移行する等国家防疫的意義の強化が進められており,特に注射率向上に努めることが重要であると思われる.[6]動物愛護福祉対策について本年動愛法の見直しの時期であり,本会においては動物愛護福祉委員会において,一昨年から法整備に向け対応を検討し,特に所有者責任の徹底,都道府県等における動物愛護施策の取組み体制整備,動物取扱業に対する規制措置の整備等,実現に向けての要請活動を展開する,[7]学校飼育動物対策として,最近増加傾向にある少年犯罪の増加と凶悪化,さらに低年齢化の問題解決一助のため,動物との触れ合いを介して生命の尊さを体感させる方策を文部科学省に提言した.さらに「心の健康教育」推進のため教育委員会主導の下で地方獣医師会と連携した普遍的な活動に発展させるため学校嘱託獣医師制度の確立について,昨年9月7日谷津,北村両衆議院議員の紹介で河村文科大臣に要請活動を実施した.今後さらに本問題の具現化に努力する,[8]情報化社会において重要な情報の発信やホームページにおいて構成獣医師会員専用のサイトを開設し,情報の相互伝達体制を整備する,[9]公務員獣医師の待遇改善問題として,最近食の安全・安心の確保,人と動物の共通感染症対策,小動物医療対策,動物愛護,福祉問題,さらには自然保全,野生動物対策(キツネ,クマ,シカ,ヤマネコ等)を通じ,獣医師関係行政が国民生活に重要かつ密接となっている時代であるが,現実は都道府県における畜産主務課長,食品衛生主務課長ポストにおいて獣医師職員配置が後退している実情や6年制教育実現後も処遇の枠組が確立しない現状であり,加えて最近感染症発生時,現場で活動する獣医師職員の危険手当等十分とは申し難い点も見受けられる現状に対し,早急な環境作りが必要と思われる,[10]獣医師の福祉事業の一環としては,獣医師福祉共済事業を推進し,すでに多数の地方会も積極的に取組まれているが,いまだ加入率50%に満たない地方会も若干見受けられ,諸般の事情もあると思われるが加入率向上の努力を願いたい,等述べ挨拶とした.
 2月4日,五十嵐会長,辻副会長,大森専務理事が農林水産省中川 坦消費・安全局長に直接面談を求め,「動物医療提供体制の整備促進について」要請した.
中川局長から,日獣とのネットワーク構築の重要性は十分認識している.特に小動物医療対策については小動物医療班を設置し,専門家による検討のため,「小動物獣医療に関する検討会」を設けたと述べ,中川局長,栗本衛生管理課長から誠意ある見解が示された.本検討委員に日獣から中川秀樹,岡本有史,細井戸大成氏の3名が委嘱された.
 2月21日,地区獣医師会連合会長会議を開催し,議事として平成16年度地区大会,学会の開催,地区獣医師大会における決議要望事項の対応,職域別部会制の運営,獣医師・倫理規程集整備等を議題とし,五十嵐会長挨拶の中で,[1]新潟での三学会年次大会が盛会裡に終わったことへ感謝申し上げる,[2]各地区大会決議要望事項を整理し,農林水産省消費・安全局長及び厚生労働省健康局長に対し,要請運動を実施した,[3]農林水産省では,10月を目途に衛生管理課を畜水産安全管理課及び動物衛生課に再編する,[4]動物の愛護及び管理に関する法律の見直しについて検討する,[5]ペットフード工業会の調査で犬の飼育率が18.8%(1.246万頭),猫が15.1%(1.164万頭)で猫が初めて1,000万頭を越えた,等述べた.
 なお,平成16年地区獣医師大会決議要望事項を要約すると(A)日獣が主として対応する事項として,[1]家畜防疫対策,[2]食の安全確保対策,[3]人と動物の共通感染症対策に関する事項,[4]獣医学教育体制の整備・充実に関する事項,[5]地球環境保全対策に関する事項,[6]職域別部会に関する事項,(B)日本獣医師会及び地方獣医師会がともに対応する事項,[1]狂犬病予防対策に関する事項,[2]家畜保健衛生所の機能拡充・強化(動物保健衛生所と改称),[3]小動物医療関係対策に関する事項,[4]獣医師倫理の向上,[5]動物愛護対策(学校飼育動物対策を含む)の推進事項,[6]勤務獣医師の処遇改善に関する事項,[7]産業動物診療技術料に関する事項,[8]災害時の動物救護対策の検討,[9]獣医事関係の国際交流に関する事項(The World Veterinary Day協会の催事)等であり,なお関東地区獣医師会連合会・東京都獣医師会より「最近における小動物医療を巡る課題と対応」の提起があり,[1]小動物臨床の競争状況,[2]予防動物医療への過度の傾斜,[3]大型資本による診療施設の問題,[4]薬局・薬店等における動物医薬品販売,[5]広告・宣伝等の問題,等の貴重な意見が述べられた.
 3月23日,平成16年度第4回理事会開催.五十嵐会長より,[1]福岡,佐賀における地震被害者に対するお見舞い申し上げる,[2]食の安全・安心,人と動物の共通感染症,環境問題に関連し獣医師に対する社会の期待は大きい,[3]獣医師倫理規程集を会員に配布した,[4]生涯研修事業が6年目を迎えた,[5]平成17年度年次大会を日本獣医学会と連携し,茨城つくば市で開催することとしたので,地元茨城県獣の協力を仰ぎたい,[6]農水省に「小動物獣医療に関する検討会」が設置された,[7]1年半にわたり審議いただいた職域別部会の発足について,これまでの協力へのお礼等述べた.決議事項として17年度暫定予算編成の件等審議承認された.
 3月24日,全国獣医師会会長会議開催,埼玉県給エ三男会長が座長となり,[1]平成16年度の関係省庁に対する要請運動,三学会開催,倫理規程整備,生涯教育研修等審議し,大森専務理事より職域部会運営に関し詳細説明した.
 4月11日,日本大学生物資源学部動物医科学研究センター,家畜病院(増築)竣工祝賀会に五十嵐会長が出席.最近各私立大学附属病院の増改が進み,近代設備を整え,大学教育現場での小動物臨床教育の充実が図られている旨を実感した.
 今年度北海道大学喜田 宏教授が鳥インフルエンザ等に関する研究を評価され,学士院賞を受賞されたことも特筆すべき吉報である.
 平成17年以降,現行の動物の愛護及び管理に関する法律が抜本改正後5年を経過していることからその見直しについて,北村直人議員を委員長とする自由民主党動物愛護小委員会が精力的に検討され,[1]動物取扱業の適正化,[2]個体識別措置及び特定動物の飼育等の全国一律化,[3]動物を科学上の利用に供する場合の配慮,[4]動物由来感染症予防,[5]罰則,登録制等を議論した.なお,環境省に対し,動物愛護管理制度の整備・充実等に関する要請活動を3月7日に実施し,その内容は本誌第58巻第6号に掲載した.
 5月6日,小野寺自然環境局長あて「野生動物救護対策の一層の推進」について,5月16日,銭谷初等中等教育局長あてに,「学校飼育動物活動の推進」について各々要請し,さらに地方獣医師会長あてに「学校飼育動物活動の推進」について通知し,各県教育委員会等との連携協力関係の強化を依頼した.
 5月31日,第1回理事会を開催.第62回通常総会に付議する事項を中心に審議し,五十嵐会長より,[1]学校飼育動物活動が全国的に波及することを期待する,[2]動物愛護管理法改正について北村委員長より今国会で成立させたいとの連絡があった,[3]職域部会については着々と準備が進められている,[4]各位の指導,協力により3期6年もの間,会長職を務めることができた旨御礼を述べた.
 大森専務理事より日本動物保護管理協会の役員候補者とし太田光明,前田勇夫,柴内裕子,辻 弘一,森 裕司の5名を推薦したこと,さらに役員改選に関しては,役員選任管理委員長より会長候補者は2名となったが,副会長以下すべての役員は定数内の候補者推薦であった旨報告された.
 6月28日,明治記念館において第62回通常総会を開催.五十嵐会長より,[1]茨城県の高病原性鳥インフルエンザの発生に鑑み,人と動物の共通感染症に対する早期発見,早期対応の重要性,[2]北村議員の努力により農林水産省に小動物獣医療班が設置され,検討が開始された,[3]動物愛護法一部改正により飼い主の責任の明確化とともに人と動物の共存に期待する,[3]1年有余にわたり慎重に検討いただいた職域別部会制の発足に基づく今後の運営等を内容とする挨拶の後,谷津衆議院議員(獣医師問題議員連盟会長),北村議員(本会顧問),農林水産省,厚生労働省,環境省,日本獣医学会,中央畜産会等多数のご来賓からそれぞれ有益な祝辞をいただいた.議長に湊香川県獣会長,副議長に遠山茨城県獣会長が就任され,議事を進行.第1号議案より第5議案まで慎重に審議され,承認いただいた後,第6号議案,役員選任について岡本役員選任管理委員長より現在の出席会員55会員,総表決権数165である旨が説明され,会長選挙の投票に入り,議長より金川弘司候補が48票,山根義久候補が117票で,山根候補が当選した旨を報告した.
 なお,副会長に藏内勇夫(福岡県獣),中川秀樹(横浜市獣)両氏,専務理事に大森伸男氏が選任され,地区理事,職域理事,監事もそれぞれ選任され,新執行部が発足した.最後に五十嵐から今期をもって3期6年の任期を終り,退任するにあたり高齢加えるに浅学非才の身であったが金川,辻両副会長はじめ理事,会長,会員各位,職員一同のご指導,ご鞭撻により,大過なく過ごさせていただいたことは,終生忘れ得ないことであり,中国の古諺に「水を飲むとき井戸を掘った人の恩を忘れない」とあるが,この6年間にわたり厚いご支援をいただいたことを心から感謝申し上げる.またこれからも各位益々ご健在で日本獣医師会の発展にご努力を願いたい.新執行部は過去幾代にもわたって築いた日獣のよいところを継承し,さらにこの変革の時代に適応するよう各県会長のご意見も尊重し,和をもってご協力願いたい旨述べた.


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