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 4 今後,日本獣医師会へ期待すること
 私は偉大なる実績を残して,勇退された故杉山文男会長の後任として第56回通常総会において第10代会長を拝命し,前任者の築いた栄光,輝く業績を後退させることのないよう執行部の協力を賜りながら,日本獣医師会が社会の信頼を受け敬仰される組織に発展させたいとの思いを固め,特に杉山会長時代国際交流に重点を置き,アジアで最初のWVA大会を成功させた偉大な業績を発展させるとともに先ず内部の充実に心を向けた.今後も引き続き以下についての対応に期待する.[1]就任当時小動物医療が拡充発展する中で社会環境の変化,動物愛護思想の普及により動物医療に対する関心も一層高まり,診療過誤,過剰診療等に関し週刊紙・テレビ等のマスコミによる獣医師・獣医師会批判記事等が頻繁に目にするようになった.日獣としてはマスコミに正しい理解を得る努力の必要性を感じ,インフォームド・コンセントを徹底させ,かねて全国調査を進めた診療料金の実態を公表することとし,平成11年9月14日記者会見を行うと共に関係会員獣医師に対し,「獣医師の誓い―95年宣言」及び「動物医療の基本姿勢」並びに「インフォームド・コンセント」の励行を周知徹底し,合わせて各地方会に動物医療相談窓口を設定するよう依頼した(本誌第52巻第11号).今後とも小動物診療には,人における健康保険制度がなく,自由診療料金制であることにも理解を求めつつ,社会的要求に応えるべく対応いただきたい.
 [2]団体組織の中で重要なことは徳義と和を大切にすることであり,昨今の世相にみるようにカネボウ粉飾決算の公認会計士,西村弁護士(国会議員)の秘書による非弁活動,姉歯建築士による構造設計疑惑,ソウル大学黄禹錫教授のES細胞論文捏造,防犯施設所の管制談合疑惑等,専門家よる道義頽廃事例が頻発し,心の痛む事件が続く.
 日獣においてはかねてより,プロフェッショナルとしての自覚を大切と考え,平成7年6月27日第52回通常総会で採択された「獣医師の誓い―95年宣言」に続き平成11年度上記のとおり「インフォームド・コンセント徹底」宣言を公表し,動物臨床の行動規範として平成14年12月12日小動物医療指針(16年11月12日一部改正),平成16年11月12日産業動物医療の指針を獣医師道委員会の審議を経て,それぞれ公表したが,熟読玩味の上,その遵守,実践に努めていただきたい.[3]社会に信頼される獣医療を提供するためには卒後臨床研修が重要であり,かねてより学術担当理事竹内 啓氏を中心に検討を進め,卒後研修・生涯教育体制を整備し,平成12年度から獣医師生涯研修事業を開始し,平成15年度には認定システムの導入により,事業参加者に対しポイント制に基づき修了証,認定証を交付した.
 今後さらに専門医制度のあり様を獣医専門医制検討委員会(佐々木伸雄委員長)において検討しているところであり,今後一層のご理解ご協力のほどをお願い申し上げる.[4]平成10年4月,学校飼育動物対策の推進の呼びかけを文部省に提言して以来,子供達へ動物の触れ合いを通じ生命の尊さを体験させる事業が全国的に拡大し,日獣内に学校飼育動物委員会(唐木英明委員長・中川
美穂子副委員長)を発足するとともに,平成16年9月7日河村文部科学大臣,谷津義男,北村直人両衆議院議員に「こころの健康教育」推進ののための学校飼育動物対策の整備充実を要請し,河村大臣から学校飼育動物対策は教育上大変意義ある活動であり,地域の先進事例を勉強したい旨の回答があり,一方,先進的に活動を行っている群馬県獣医師会では同県の小寺弘之知事に認められ,獣医師会員である桑原保光氏が県教育委員に任命されている.その後,平成17年5月16日文部科学省銭谷局長に学校飼育動物活動の推進について要請した.また,谷津獣医師問題議員連盟会長も全国普遍的に発展させ学校嘱託獣医師制度を確立したいとの熱意を示しておられる.この機会各地方獣医師会においてもそれぞれの実状を考慮しながら,積極的対応を進めていただきたい.[5]救急獣医療提供体制の一環として名古屋市獣医師会は平成16年5月15日より「夜間動物緊急診療所」を開設し,大阪市においてもネオ・ベッツ動物病院グループがVRセンター,夜間センターを設置させる等,このように各地域における緊急対応の診療施設の設置は,10年後のわが国動物医療の一つの方向性示すものと思われる.
 一方,日本獣医畜産大学多川政弘教授は「動物医療センターの役割と将来構想(本誌第57巻第4号)」の中で日本の動物医療の中で,伴侶動物については人の医療なみの高度診療技術の提供が求められ,近代装備による高度医療の提供が目下の急務であり,大学・民間を問わず組織的に高度医療の実現が望まれると述べられる一方,土井口修氏の論述(本誌第58巻第9号)からも地域社会においてもホームドクター的対応と高度医療対応の二極化の傾向がうかがわれる.地域における動物医療体制は中核病院と個人的診療施設とに二極化し,さらに両者は機能的に能力を発揮し,社会のニーズに応える動物医療体制作りの必要性を感じている.まさに知慧ある者は知慧を出し,財ある者財を出し,力ある者力を出し,動物医療体制進展のための総力を結集する時代とも考える.[6]山根会長が新年挨拶に述べられたように獣医学教育の整備・充実については国立大学の独立法人化に伴い大学側は自助努力により,それぞれの生き残りを重視し,獣医学部への再編が後退している感がある.しかしながら常に再編運動の旗手として情熱を傾注し,継続的努力を進めていただいた唐木英明氏が「獣医学教育改革運動の反省と今後」(本誌第58巻第2号)の中で述べられているように,学部再編の旗を降ろすべきではない.現在幸いにして獣医系大学進学を希望する若者が増加し,私立大学は,15〜20倍という高い競争率である.このような若者の夢を後押しするためにも教育現場の充実が急がれる.[7]一年余りに亘り慎重に,論議を重ね,第61回通常総会において承認された職域別部会制も各部会において常設・個別委員会の委員委嘱を終え,それぞれ活動を開始したところであるが,まさに21世紀にふさわしい組織活動を展開していただきたい.会員各位も組織からの受益を考える前に組織に何を協力するかを考え,強固な意識で組織の発展に努めていただきたい.

  最後に平成17年9月18日帝国ホテルにおいて私と山根会長の祝賀会を323名の発起人により催していただき,谷津,森,山際代議士や北村前代議士をはじめ,全国から約600余名の参加を賜り,特別感謝状を拝し,さらに11月24日埼玉県獣医師会主催の「感謝を捧げる会」をさいたま市清水園において開催していただき,上田埼玉県知事,富岡熊谷市長,大野,小島衆議院議員,増田前議員をはじめ関東地区獣医師会長等312名の参加者の前で高橋会長より特別感謝状を拝受した.このように2回にわたり盛大且つ心温まる会を開催していただいたことは,生涯忘れることのできない人生の1ページとなったことを心から感謝申し上げる次第である.その後,全国の先輩・同僚・後輩からいただいたご挨拶と激励,健康へのご忠言等々多くの人の温情に感謝し,感激する日々を過ごしている.以上,ご報告と御礼を述べ拙文の記述を終りとさせていただきたい.多謝.


† 連絡責任者: 五十嵐幸男
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