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特別寄稿

私の歩んだ日本獣医師会の24年と今後の期待(VII)

五十嵐幸男(日本獣医師会顧問・埼玉県獣医師会会員)

 平成16年(2004年):
 昨年末第2次小泉内閣が発足,改革の芽を育てて大きな木にしたいと述べておられる.会長新年の挨拶の中で重要事項として,[1]倫理の高揚と道義の堅持が組織として重要で小動物医療指針の普及定着に努め,今年「産業動物診療の指針」の検討を進める,[2]組織財政委員会(林委員長)の答申の趣旨を踏まえ,特に診療業務に従事する獣医師の日獣における全国横断的公益活動をさらに増進する方策として部会組織のあり方の検討を進めることとし,構成獣医師の連携と結束の強化を図る上で大変意義深いので,ご理解・ご協力により実現したい,[3]獣医師生涯教育の本格的実施と専門医制度の検討,[4]全国競馬・畜産振興会の特別振興資金・畜産振興事業として新しく発足した獣医師研修体制整備事業(平成15〜19年)及び人獣共通感染症に関する研修事業(平成15〜16年)対応,[5]厚生労働省に要望した人と動物の共通感染症対策については,平成15年10月16日,法改正により獣医師の責務が明示され,届出義務の拡大した,[6]日本獣医学会の学術集会との初めての相互乗り入れ,同時開催が青森県獣医師会と北里大学の努力により開催,続いて秋に北大と北海道獣医師会のご理解により同時開催予定となったこと,新春2月10日〜12日横浜市獣医師会の担当で「95世界獣医学大会(横浜)開催10周年記念」学会大会がパシフィコ横浜で開催されるので多数の参加を要請したい,[7]2003年5月23日法律第48号により食品安全基本法が制定され,7月1日内閣府に「食品安全委員会」が発足した.その活動開始早々の昨年10月6日茨城県の食肉処理場で解体された生後23カ月齢の雄牛に非定型的BSEが確認され,11月4日に広島県で解体された21カ月齢のホルスタイン種(去勢)が9例目となり,症例8例目と同様若牛で,24カ月齢未満の若齢牛の疾病確認は,わが国と畜場の全頭検査実施と検査精度の向上による成果で,今後感染経路等原因の究明,防疫措置の万全を期したい,[8]昨年11月13日,学校飼育動物委員会の発足(唐木委員長,中川副委員長)により,合理的,普遍性ある方向でさらなる学校飼育動物事業の前進を図る,[9]獣医学教育改善の早期実現,特に国家的見地から獣医学教育改善の必要性を訴える,[10]獣医福祉共催事業の平成15年度加入率が41%と低く,50%に到達するよう地方会へ加入促進の依頼,[11]外来種対策として外来種新法の制定を視野に動物愛護管理制度との整合性を図る等述べ,明朗積極的な会務の伸展に理解協力をお願いした.
 2月19日,学校飼育動物の鳥インフルエンザ対策緊急提言を全国の学校関係者に通達した.1月,山口県の養鶏場での発生に続き,2月,大分県でもチャボからの発生(本誌第57巻第4号)があり,学校,保育園,幼稚園の先生や保護者から相談等寄せられたのを機会に,過剰な恐怖心をもたぬよう教育関係者に対策を通達した.なお,京都府における動物感染症サーベイランス事業につき,祝前会長からの貴重なご紹介も寄せられた(本誌第57巻第3号).
 2月24日,第1回全国獣医師会会長会議を開催,五十嵐会長より,[1]2月20日に山中貞則顧問が急逝した旨報告し,哀悼の誠を捧げた.なお3月17日,自民党葬が行われた(畜産コンサルタントNo.472参照),[2]山口県での鳥インフルエンザ終息宣言直後に大分県で発生し,神奈川県では10例目のBSE感染牛が確認され,緊急を要する事態に獣医師の力量を発揮し,信頼を得る絶好の機会でもあり一丸となって公益に貢献したい,[3]学校飼育動物のインフルエンザ対策について緊急提言をし,報道関係機関へプレスリリースを実施した,[4]横浜で開催された学会年次大会の登録者数は1,865名(全体で2,500名を超え)と盛会裡に終了し,横浜獣医師会の努力に感謝したい,[5]部会制の導入について等述べ,千葉県桑島会長を座長に指命し以下の議事に入る.[1]要指示医薬品指示書様式の改訂,[2]岐阜県,長野県をエリアとするペット販売業者と獣医師が指示書の不適正発行により摘発された,[3]獣医師倫理対策,[4]部会制導入.なお,この件に関しては理事会の議論を踏まえ,原案を示し,地区獣医師会連合会,各地方会の要請により辻副会長,大森専務が全国へ伺い等して説明に努めてきたが,地方により温度差があり,導入促進論と慎重論に分かれ,意見集約に至っていない.今回も原案の基本的考え方を示し,意見を求めた.
 すでに賛成意見として,三重県岡部一見氏(本誌第57巻第2号)大分県麻生 哲会長(本誌第57巻第4号)の誌上発表もある.
 提示した原案の基本的考え方については機会毎に説明し,詳細は本誌第57巻第5号に掲載した.このことに関し大森専務理事の真摯継続的努力に敬意を表したい.
 3月29日,第5回理事会を開催.冒頭会長挨拶の中で,[1]山口県,大分県,京都府で発生した鳥インフルエンザについては,地域で家保職員の効率的対応と,地元獣医師会の積極的協力に感謝する.[2]鳥インフルエンザ発生に鑑み,発生農家への補償と患畜等の届出義務違反所有権に対する罰則の強化等家伝法の改正がある,[3]狂犬病等感染症について,幼齢犬の輸入禁止等検疫強化が図られた旨述べた.議案として平成16年度暫定予算案,諸規定の一部改正等異議なく承認された.
 なお,部会制導入に関し,当初,本会の委員会組織と別に,開業者部会の単独立ち上げとしたが各地方会からの意見を尊重し,他の職域を含めた部会組織に再編するため,6つの部会即ち産業動物臨床部会,小動物臨床部会,畜産・家畜衛生部会,公衆衛生部会,学術部会,職域総合部会の6部会制とし,部会活動経費については既存の予算の中で対応したい旨報告した,最後にBSE,鳥インフルエンザ等の緊急事態が多発し,農林水産省に小動物獣医療班が設置され,各官庁においても獣医専門職が配置される等獣医療に大きな期待を寄せられる時代を迎えている.特に永年に亘る宿願であった小動物獣医療班創設に特段のご努力を続けて下さった北村直人農林水産副大臣や農水省衛生栗本課長のご努力を忘れることができない.なお小動物医療班の内容について大石弘司氏の報告が本誌57巻第12号に詳細に記述してある.
 4月25日,本会顧問三塚 博先生がかねてより聖路加国際病院入院加療されていたが薬効かいなくご逝去された.先生は運輸,大蔵,外務大臣,自民党幹事長等数々の要職を歴任し,特に1985年中曽根内閣の運輸大臣として国鉄の分割民営化の政策に手腕を発揮した.これは偉大な業績であり改めて感謝と哀惜の念を捧げご冥福をお祈りしたい.行年76歳.
 5月25日,第1回理事会開催.五十嵐会長,突然の病気入院のため(5月11日入院,6月9日退院),金川副会長が議長となり会議進行された.要請活動として文部科学大臣に4月6日獣医学教育の整備・充実につき要請,河村大臣から連合大学設置以降整備の進展は見られず,中間取りまとめも難航しているが,要請の趣旨は十分理解したので財政事情を考慮しながら真剣に取り組みたいとの誠意ある回答を得た.次いで動物愛護及び管理に関する法律について,来年が施行5年目の見直し時期にあたるため環境省で「動物愛護管理のあり方検討会」を設置し,検討を行っているが,自民党環境部会でも北村議員を委員長とする委員会を設置し,日獣の「動物福祉愛護委員会」とも協議する一方,4月23日に藏内理事が参議院環境委員会の参考人として意見陳述をする等鋭意見直しについて意見具申している旨報告した.職域別部会組織導入の件も前回に引き続き細部を説明し,慎重に地方会,構成会員の合意を求めた,第61回通常総会付議事項としての提案を承認された.なお,岡本理事から日小獣理事会で再編整備案を説明した際反対はしないとの結論に至った旨報告があった.
 最後に辻副会長より会長入院欠席という異例の理事会であったが,難題に対し理事各位の実直な意見を拝聴し,非常に円滑に議事を終えることに厚く御礼を申し上げると述べた.
 6月24日明治記念館において第61回通常総会開催.五十嵐会長より食の安全確保,共通感染症対応等を背景として,種々の重要案件がある中で獣医師,獣医師会が社会の期待に応えていくためには,小異を捨てて大同について全国の獣医師会が一致団結して社会に貢献していかなければならない旨挨拶し,来賓として北村獣医師問題議員連盟副幹事長より江藤隆美先生がご勇退し,谷津義男先生(前農林水産大臣)が会長に,幹事長に上杉先生が就任され,事務局長が北村先生という体制で努力する旨の挨拶が述べられた.続いて農水省中川局長,厚生労働省遠藤部長,環境省小野寺局長,中央畜産会中瀬副会長,日本獣医学会佐々木理事長の順でそれぞれの立場から祝辞が述べられた.このように私は就任以来友好団体等と一層の連絡強調を期待し,総会ご出席のご案内を申しあげ日獣側からも関係団体の総会に出席する努力を続けた.
 議長は穴見熊本県獣会長,副議長は市田神戸市獣会長が指名され,議事に入り,審議事項及び議決事項何れも円満裡に承認されて無事終了した.一般収入合計243,268,586円の決算額となる.
 平成16年度第2回理事会を6月24日開催.会長より前回理事会は体調を崩し,欠席させていただいたが,[1]懸案の職域別部会組織(部会制)導入については本日第61回通常総会に提出議案として承認いただき感謝する.[2]先日中央畜産会び桧垣会長代行より,食の安全等に係る昨今の諸問題に獣医師会の堅実な対応に感謝する旨の言葉をいただいたがさらに公益法人として国民の要請に応えるためにも,部会制という新たな組織構築により,学識の向上と積極的な事業推進に努めていきたいと述べた.なお,部会制については理事会,会長会議の席上毎回大森専務理事より詳細に説明し,会誌にも要旨経過等報告し理解を深める努力を続けた.
 7月15日,全国獣医師会事務担当者の会議を開催,今回特に部会制の導入について総会で承認されたこと,10月より宿願でもあった農林水産省に「小動物獣医療班」が創設され,小動物に対する保健衛生の向上,あるいは効果的,効率的施策が進められる時代を迎え,小動物医療に従事する獣医師の活躍が期待されること,厚生労働省における食の安全・安心等の公衆衛生の向上,共通感染症,予防への対策推進のため,尽力する時である旨,会長および大森専務理事より伝えた.
 9月4日,朝日新聞に大森専務理事提言「狂犬病:犬の登録と予防注射の徹底」を発表した,即ち厚生労働省の発表によると国内の狂犬病予防注射率が5割を下回る水準となり,毎年犬による咬傷事故が6千件に及ぶ現状であり,国際交流も増加する中で狂犬病が進入するとパニックを引きおこしかねないので飼い犬の登録と予防注射の実施が社会防衛の重要措置であり,飼い主義務であることを訴える内容である.さらに本誌第57巻第11号で小沢義博氏(OIE名誉顧問)の「動物衛生緊急対応組織の必要性」の貴重な警告が述べられた.近年大腸菌Oh157やサルモネラ,口蹄疫,BSE,高病原性鳥インフルエンザなど次々と日本に侵入し,さらにSARS,ウエストナイル熱,ニパウイルス病,狂犬病など日本の周辺諸国では新興,再興病が順番待ちをしている状況にあり,緊急対応班の設立を必要とすることや疫学専門家養成が急務であることを提言された.また,10月13日に狂犬病予防法で犬猫の輸出入時におけるマイクロチップの装着,狂犬病不活性化予防液の接種及び血液中の狂犬病抗体価の測定のための採血等に診療獣医師の協力を求められていることを地方獣医師会に通知し周知徹底をお願いした.
 9月29日,海南省政府が開催した中国人民共和国創立55周年式典が海南島の首都・海口市で挙行され,その席上,海南省発展に貢献した外国人数人の表彰式で,
五十嵐と金川副会長に記念メダルと純金製の感謝楯が贈呈された.
 五十嵐は日中農林水産交流協会長を務めていたが海南省に牛を中心とした「茂源牧場」創設指導をし,金川副会長はおもに胚移植技術の導入に尽力し,家畜の人工授精,胚移植,飼養管理技術等が実って,現在150頭規模の中国黄牛(肉用種)が主体となり発展している.なお人工授精の指導に金田博士も参加した.
 一方,青木 修博士(東京都獣医師会会員・日本装蹄師会研究部長)は2004年度の国際ウマ専門獣医師の殿堂にアジアから初めて栄誉ある殿堂入りをはたされた.これは青木博士の国内外における装蹄教育に果した偉大なる貢献が評価された結果である.この様な吉報に反し,7月12日永年にわたり日獣の学術教育・研究担当理事として活躍いただいた竹内 啓先生の急逝の報があり,千載の痛恨事であった.先生は真摯に三学会の発展,生涯教育の重要性を述べ,先覚として努力を続け,1995年WVA(横浜),WSAVA大会の組織委員長として活躍されたこと生涯忘れることが出来ない.当然のことながら先生に学術奨励賞功労賞を授与させていただいた.なお,ご逝去後奥様の手により竹内先生と愛犬の思い出を綴った書「リタイア犬グレイシャス」も発刊された.
 12月4日,千葉県獣医師会では千葉農業共済連研修所の改修を終え会館設立となり,披露式を五十嵐会長はじめ関獣連各会長も出席のもと盛大に挙行された.
 12月8日,第3回理事会開催,冒頭,北村議員から朝日前事務局長を議員秘書に迎えたことの報告と議員連盟幹事長として積極的に諸問題に取り組みたい旨挨拶された後,五十嵐会長より,[1]新潟県中越地震に際し各県獣医師会より義援金等の協力を感謝し,新潟県獣医師会が地震被害の中で年次大会開催のため努力しており,各地方会より一人でも多く参加し,地元会員,県民を励ます機会としてほしいこと,[2]一年余りわたり慎重に審議を続けた職域部会制も総会の審議を経て17年度より発足するに至ったことを感謝する,[3]農林水産省衛生管理課に小動物獣医療班発足し,本会としても密なる連繋をとり国民の要請に的確に応えたい,[4]獣医学系大学の教育体制の整備・充実については,各大学法人化により学内の充実,強化に努めており,一見足踏み状態のように見えるが,本会としては目標である学部設立の旗を下ろすことなく推進したいので地方獣医師会の協力を依頼したい,[5]学校飼育動物については,年少者の犯罪増加等,心の情操についての重要性からも普及・啓発を進め,先刻谷津・北村衆議院議員のご紹介により新任の文部科学大臣に要請活動を行った,[6]「動物の愛護及び管理に関する法律」は見直しの時期であり,所管の環境省,自民党等でも検討しており,環境部会には本会からも出席意見具申している.なお,今回迄に要請運動として,[1]心の健康教育推進のための学校動物飼育対策の整備充実についての9月7日付け河村文部科大臣あて,[2]政治連盟として議員連盟会長江藤氏勇退後谷津会長,北村幹事長,福島副幹事長あて実施した旨大森専務理事より報告した.続いて「産業動物医療の指針制定の件」,「小動物獣医療班発足(10月1日)」の件や,中越地震被災動物救護対策等を述べた.議案として,[1]職域別部会運営規定制定の件,[2]朝日事務局長退職に伴い,大森専務理事に同職兼務等提案され,異議なく承認された.
 10月25日〜27日,FAVA大会が韓国獣医師会主催によりソウル市で開催.日本より五十嵐会長,金川,辻両副会長が出席し,代表者会議席上,金川副会長より獣医学教育,BSE,鳥インフルエンザの発生状況と防疫対策等報告し,過去10年間にわたり実施した「国際獣医師育成研修事業」も平成14年度で終了した旨報告した.この事業に対しフィリピン獣医師会,バングラディッシュ獣医師会から日獣に対し,感謝楯が贈呈され,御礼が述べられた.第13回FAVA大会に外国人参加は26カ国200人で,うち日本から35名参加と少なかったことに残念との表明もあった.なお大会第2日目にソウル大学の黄禹錫教授による「胚性幹細胞による人クローンの可能性について」の記念講演があった(現在論文捏造疑惑で問題となっている).黄氏は獣医学者で北大留学の経歴もある.

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