第一 改正の趣旨 |
本年3月から7月初旬にかけて,東アジアを中心に世界各国でまん延した重症急性呼吸器症候群をはじめとした海外における感染症の発生状況,国際交流の進展による人や物の移動の活発化及び迅速化,保健医療を取り巻く環境の変化に伴い,感染症対策の充実が要請されている.
今回の改正は,こうした状況を踏まえ,国内への病原体の侵入を防止するための検疫体制の強化,緊急時における国内感染症対策の強化,ウエストナイル熱やトリ型インフルエンザ等の動物由来感染症対策の強化等について定め,総合的な感染症予防対策の推進を図るものである. |
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第二 改正の概要 |
1.感染症法関係
(1)獣医師等の責務
イ. |
獣医師その他の獣医療関係者は,感染症の予防に関し国及び地方公共団体が講ずる施策に協力するとともに,その予防に寄与するよう努めなければならないものとしたこと.(感染症法第5条の2第1項関係) |
ロ. |
動物等取扱業者は,動物又はその死体が感染症を人に感染させることがないように,感染症の予防に関する知識及び技術の習得,動物又はその死体の適切な管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないものとしたこと.(感染症法第5条の2第2項関係) |
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(2)感染症類型の見直し
イ. |
一類感染症に「重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る.)」(以下単に「SARS」という.)及び「痘そう」を追加することとしたこと.
なお,SARSについては,患者は原則入院が必要であることや国内に病原体が侵入していないこと等から,一類感染症とすることとしたものであるが,病態や感染経路等が明らかになり,また,治療方法やワクチンの開発といった医療の進歩に伴い,類型の見直しが行われることがあり得るものであること.
また,SARSについては,改正法により指定感染症から一類感染症に位置付けが変更されることに伴い,無症状病原体保有者についても患者とみなして感染症法の規定が適用されることとなるが,現在得られている医学的知見では,無症状期における他者への感染力はないとされていることから,就業制限がかかる期間を「その病原体を保有しなくなるまでの期間又はその症状が消失するまでの期間」(感染症法施行規則第11条第2項第1号)としており,当該無症状病原体保有者に対しては,就業制限及び入院勧告の対象としないよう注意されたいこと.
併せて,SARSについての正確な知識の普及啓発に努めるとともに,万一,SARSの患者が発生した場合に当該患者が不当な差別や偏見にさらされることのないよう十分配慮されたいこと.
痘そうについては,現在は,自然界には存在しないとされているが,テロ目的での使用が危倶されていること,痘そうによる生物テロが発生した場合には,致死率がきわめて高く,人から人に強い感染力を有していること等極めて危険性が高いことから一類感染症とすることとしたものであること.(感染症法第6条第2項関係) |
ロ. |
感染症の類型区分を見直し,すでに知られている感染性の疾病であって,動物又はその死体,飲食物,衣類,寝具その他の物件を介して人に感染し,国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものを「四類感染症」とし,別表第1に掲げる30疾病を定めたこと.
また,すでに知られている感染症の疾病(四類感染症を除く.)であって,国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるものを「五類感染症」とし,別表第2に掲げる42疾病を定めたこと.(感染症法第6条第5項及び第6項,感染症法施行令第1条並びに感染症法施行規則第1条関係) |
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(3)基本指針及び予防計画
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厚生労働大臣の定める基本指針及び都道府県知事の定める予防計画について,緊急時における感染症の予防及びまん延の防止並びに医療の提供のための施策等に関する事項を定めることとしたこと.(感染症法第9条及び第10条関係)
なお,今回の改正を踏まえた基本指針の改正を行うこととしており,これについては,追って告示すること.また,各都道府県においては,予防計画について,基本指針の改正を踏まえた必要な見直しを行う必要があるものであること. |
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(4)医師の届出(全数把握)
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四類感染症の患者及び無症状病原体保有者について,医師はこれらの者を診断したときは,ただちに都道府県知事等(都道府県知事,保健所設置市長及び特別区の長をいう.以下同じ.)に届け出なければならないこと.(感染症法第12条第1項第1号関係)
また,別表第3に掲げる厚生労働省令で定める五類感染症の患者及び厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者について,医師はこれらの者を診断したときは,7日以内に届け出なければならないこと.(感染症法第12条第1項第2号並びに感染症法施行規則第4条第3項及び第4項関係) |
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(5)指定届出機関の届出(定点把握)
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開設者の同意を得て都道府県知事が指定した医療機関の管理者は,厚生労働省令で定める五類感染症の患者を診断したときは,都道府県知事等に届け出なければならないこととし,当該五類感染症及び指定届出機関の指定区分を別表第4のとおりとすること.(感染症法第14条及び感染症法施行規則第6条関係) |
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(6)獣医師の届出
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従前から届出の対象とされている一類感染症,二類感染症及び三類感染症に加え,四類感染症についても政令で定める感染症ごとに当該感染症を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物について,獣医師は,当該感染症にかかっていると診断したときは,ただちに都道府県知事等に届け出なければならないこと.
なお,SARSを一類感染症とすることに伴い,改めてSARSを感染症法第13条第1項に基づく獣医師の届出対象疾病とするとともに,イタチアナグマ,タヌキ及びハクビシンを届出対象動物とすることとしたこと.(感染症法第13条第1項) |
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(7)積極的疫学調査
ア. |
感染症法第15条の積極的疫学調査の対象者に,感染症を人に感染させるおそれがある動物並びにその死体の所有者及び管理者を明示することとしたこと.
なお,地方公共団体がカラス,蚊等の媒介動物に関して病原体の有無を確認する調査を行っているが,当該調査についても積極的疫学調査と解して差し支えないこと.(感染症法第15条第1項及び第3項関係) |
イ. |
厚生労働大臣は,感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは,当該職員に一類感染症,二類感染症,三類感染症,四類感染症若しくは五類感染症の患者,疑似症患者及び無症状病原体保有者,新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ,又は必要な調査をさせることができることとしたこと.(感染症法第15条第2項関係) |
ウ. |
都道府県知事等は,感染症法第15条第1項の規定を実施するため特に必要があると認めるときは,他の都道府県知事等又は厚生労働大臣に感染症の治療の方法の研究,感染症の病原体の検査その他の感染症に関する試験研究又は検査を行っている機関の職員の派遣その他同項の規定による質問又は必要な調査を実施するため必要な協力を求めることができることとしたこと.(感染症法第15条第6項関係) |
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(8)検疫所長との連携
ア. |
都道府県知事等は,検疫法第18条第3項の規定により検疫所長から健康状態に異状を生じた者に対し指示した事項等の通知を受けたときは,当該都道府県等(都道府県,保健所設置市及び特別区をいう.以下同じ.)の職員に,当該健康状態に異状を生じた者その他の関係者に質問させ,又は必要な調査をさせることができることとしたこと.(感染症法第15条の2第1項及び感染症法施行規則第9条の2関係) |
イ. |
都道府県知事等は,アにより実施された質問又は必要な調査の結果のうち,感染原因等,感染症のまん延の状況その他の事情を考慮して重要と認めるものについて厚生労働大臣に報告しなければならないこととしたこと.(感染症法第15条の2第2項及び感染症法施行規則第9条の3関係) |
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(9)都道府県等による消毒等の措置の実施
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都道府県知事等は,感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは,当該都道府県等の職員に感染症法第27条の感染症の病原体に汚染された場所の消毒,第28条のねずみ族,昆虫等の駆除及び第29条の物件に係る措置(以下「消毒等の措置」という.)を実施させることができることとするとともに,消毒等の措置が採れる対象疾病として四類感染症を追加することとしたこと.(感染症法第27条から第29条までの規定関係) |
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(10)質問及び調査
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感染症法第35条の質問及び調査の対象に,感染症を人に感染させるおそれがある動物がいる場所及びいた場所並びに感染症により死亡した動物の死体がある場所及びあった場所を明示することとしたこと.(感染症法第35条関係) |
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(11)新感染症に係る厚生労働大臣の指示
ア. |
厚生労働大臣は,新感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは,都道府県知事等に対し,新感染症について都道府県知事等が行う事務に関し必要な指示をすることができることとしたこと.(感染症法第51条の2第1項関係) |
イ. |
厚生労働大臣は,都道府県知事等に対して指示をしようとするときは,厚生科学審議会の意見を聴かなければならないこととしたこと.ただし,緊急を要する場合で,あらかじめ,厚生科学審議会の意見を聴くいとまがないときは,このかぎりでないこととし,その場合には,厚生労働大臣は,速やかに,その指示した措置について厚生科学審議会に報告しなければならないこととしたこと.(感染症法第51条の2第2項及び第3項関係) |
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(12)厚生労働大臣の指示
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厚生労働大臣は,感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは,都道府県知事等に対し,都道府県知事等が行う事務(新感染症に係る事務を除く.)に関し必要な指示をすることができることとしたこと.(感染症法第63条の2関係) |
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(13)指定動物の輸入禁止
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輸入禁止又は輸入検疫の対象として政令で定める動物(以下「指定動物」という.)について,これらの動物は国内に常在しないことも考えられることから,指定動物の範囲を感染症法第13条第1項の獣医師の届出対象となる動物のうち政令で定めるものから,感染症を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定めるものと改めることとしたこと.
また,SARSを一類感染症とすることに伴い,改めてSARSを人に感染させるおそれが高いものとしてイタチアナグマ,タヌキ及びハクピジンを改めて指定動物とし,すべての地域からの輸入を禁止することとしたこと.
なお,リッサウイルス感染症,ニパウイルス感染症等を人に感染させるおそれが高いものとしてコウモリを,ラッサ熱を人に感染させるおそれが高いものとしてヤワゲネズミ(英名:マストミス)を指定動物とし,すべての地域からの輸入を禁止することとしたこと.(感染症法第54条,感染症法施行令第7条及び新輸入禁止地域省令第1条関係) |
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(14)輸入届出
ア. |
制 度
動物(指定動物を除く.)のうち感染症を人に感染させるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの又は動物の死体のうち感染症を人に感染させるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの(以下「届出動物等」という.)を輸入しようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,当該届出動物等の種類,数量その他厚生労働省令で定める事項を記載した届出書を厚生労働大臣に提出しなければならないこととすること.この場合において,当該届出書には,輸出国における検査の結果,届出動物等ごとに厚生労働省令で定める感染症にかかっていない旨又はかかっている疑いがない旨その他厚生労働省令で定める事項を記載した輸出国の政府機関により発行された証明書又はその写しを添付しなければならないこととすること.(感染症法第56条の2関係) |
イ. |
施行期日
動物の輸入届出の制度については,改正法の公布の日(平成15年10月16日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしたこと. |
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(15)事務の区分
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感染症法第38条(第1項を除く.)の規定により都道府県が処理することとされている感染症指定医療機関に係る事務を地方自治法第2条第9項第1号に規定する第一号法定受託事務とすることとしたこと.(感染症法第65条の2関係) |
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(16)罰 則
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(8)のアの質問に対して答弁をせず,若しくは虚偽の答弁をし,又は調査を拒み,妨げ若しくは忌避した者についての罰則を設けるとともに,罰金の額について必要な引き上げを行うこととしたほか,指定動物の輸入禁止等に係る違反行為について,両罰規定を設けることとしたこと.(感染症法第67条から第70条までの規定関係) |
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