解説・報告

V.監視・検査体制の整備
1.登録検査機関を活用した検査体制の整備
 わが国では供給熱量ベースで60%を輸入に依存しており,輸入食品については,輸入件数が増加し,輸入される食品の種類も多種多様になっている一方,国産食品の製造,加工,流通形態もより複雑になっていることから,命令検査の弾力的な運用を可能とするとともに,民間企業の検査機関も活用して,監視・検査体制の整備を図ることとした.
 
(1)命令検査の対象食品等の政令指定の廃止
 検査に合格しなければ販売・輸入等を認めない命令検査制度の対象食品等について,従来,対象食品の範囲を政令で定めていたが,法違反の蓋然性に応じて機動的に運用が可能となるよう政令要件を廃止した.
(2)登録検査機関制度の導入
 現在,指定検査機関は63機関,82施設が指定されているが,平成14年度に法第15条に基づく命令検査を実際に受注した施設は37施設にとどまっている.輸入時の命令検査や自主検査の受注機関について,今後の検査ニーズの増大に対応するため,検査機関制度を見直し,従来の厚生労働大臣による指定制度を登録制度に改めるとともに,公益法人要件を見直し,一定の検査能力を有すれば,公益法人でない公正・中立性を備える民間法人も検査機関として登録できることとした.具体的には,公正中立要件として,法人が食品等事業者自身である場合,食品等事業者が親会社である場合,役員の過半数を食品等事業関係者が占める場合などは登録を受けられないとした.また,技術要件としては必要な検査設備の整備や検査員の技能水準確保等のほか適正な業務管理を義務付けた.また,検査機関制度の改正に伴い検査機関数の増が見込まれることから,チェックシステムを確保する必要があるため,5年ごとの更新制を導入することとした.
(3)行政検査の登録検査機関への委託
 近年の食品安全問題については,遺伝子組換え食品問題,BSE問題,残留農薬問題など要求される検査技術が高度化,多様化しており,都道府県においてもすべての検査ニーズに技術的に応えることが困難となってきている.また,輸入時検査を行う検疫所も含め,行政機関における大幅な検査担当者の増員が今後とも期待できない状況にあることから,行政検査を登録機関へ委託することを可能とすることとした.平成15年度には,検疫所等が収去し自ら試験を行ういわゆるモニタリング検査の分析試験業務について,一部を登録検査機関に委託することとしている.
2.監視指導指針及び監視指導計画の策定・公表
 食品の安全問題への国民の関心の高まりとともに,さまざまな食品の危険情報がクローズアップされてメディアを通じて流れている.しかし,実際に国や都道府県が行う食品検査の結果の多くには問題がなく,検疫所や保健所で日常的に行われる監視指導などの食品安全行政の内容は安全情報としては正確には国民に理解されていない.このような食品安全行政への国民の理解の推進を図るとともに,国が示した統一的な考え方に基づき,都道府県が地域の事情に応じた監視指導を行うことが可能となるよう,厚生労働大臣が食品衛生監視指導の基本方針や重点等を示した指針を定め,毎年度,都道府県は地域の事情に応じた監視指導計画を策定することとした.さらに国は輸入時検査の実施等に関する計画を示した輸入食品監視指導計画を策定することとした.
 また,と畜場法及び食鳥検査法においては,都道府県等食品衛生監視指導計画に基づく検査及び指導において,と畜検査員,食鳥検査員は都道府県等食品衛生監視指導計画を踏まえ,食肉等の食中毒菌汚染防止などの衛生管理等のため,必要な検査及び指導等を行う旨も規定することとした.
 国及び都道府県はこれらの指針,計画の策定に当たっては,国民,住民の意見を聴くこととし,計画の実施状況について公表しなければならいこととした.
 なお,都道府県の食品衛生監視指導について,従来政令により施設の類型ごとに年間の立ち入り検査の回数を定める仕組みとしていたが,本制度の導入に伴い,これを廃止することとした.
3.厚生労働大臣による輸入業者に対する営業禁停止処分規定の創設
 営業者に対する営業禁停止処分については,現在,都道府県知事のみ行うこととされているが,食品輸入に際しての悪質な違反事例の増加を踏まえ,輸入業者の食品安全管理体制の改善を確実に実施させるため,厚生労働大臣が輸入業の禁停止処分を実施することができることとした.
 
VI.営業者による食品の安全確保への取組の推進
1.総合衛生管理製造過程承認制度の見直し
 平成7年改正において,国際的にも最も有効とされる食品衛生の自主管理システムであるHACCP手法の普及を図るため,任意の承認制度として,総合衛生管理製造過程承認制度を導入し,現在乳,乳製品,食肉製品等500施設以上が承認を受けているが,承認を受けていながら重大な食中毒事件を引き起こした事例が発生していることから,営業者による一定期間毎の自律的な改善を促すため,承認制度を見直し,更新制を導入することとした.
 更新期間は,3年以上の政令で定める期間としているが,当面は3年間とする予定である.
2.食品衛生管理者の責務の追加等
 食肉製品製造,添加物製造など特に衛生上の考慮を必要とする食品等の製造・加工施設においては,食品衛生管理者の設置を義務付け,現在,4千名以上が食品衛生管理者となっているが,近年の事故事例において,自主管理,法令遵守が十分に行われていない場合がみられることから,食品衛生管理者は,営業者による法令遵守等について,必要な意見を述べ,営業者は,当該意見を尊重しなければならないこととした.
 あわせて,現在,食品衛生管理者の設置が不要とされている総合衛生管理製造過程の承認を受けた施設についても,これらの責務を有する者を明確にするため,食品衛生管理者を置かなければならないこととした.
3.と畜場等における衛生管理の充実
 と畜場の衛生管理に関する基準等の遵守のため,現在厚生労働省令により規定されている衛生管理責任者及び作業衛生責任者(以下「衛生管理責任者等」)の設置を法律に規定することとし,衛生管理責任者等に食鳥処理衛生管理者と同様の一定の資格要件を付与するとともに,食品衛生法と同様,と畜場の設置者等による法令遵守等について,必要な意見を述べ,と畜場の設置者等は当該意見を尊重しなければならないこととした.
 なお,衛生管理責任者及び作業衛生責任者の資格要件については,必要な経過措置を設け,現に従事している又はしていた者であって,平成9年4月1日以降3年以上従事経験のある者は施行後3年間管理者として認めることとしている.
 
VII.大規模・広域な食中毒等の発生時の厚生労働大臣による関与
 食中毒は年間2千件から3千件,患者数で2万人から3万人が報告されているが,平成8年の堺市学童集団下痢症,平成12年の雪印乳業食中毒事件など食品流通の広域化,製造施設の集約化・高度化に伴い,食中毒も広域化,大規模化する傾向がある.このため,都道府県の食中毒への対処に際し,健康危機管理の観点から厚生労働大臣が,飲食に起因する危害の発生・拡大を防止するため緊急を要するときは,都道府県知事に対して,必要な調査等を行うよう指示できることとするとともに,都道府県知事は,こうした指示を踏まえた調査等を行ったときは,厚生労働大臣に対して報告しなければならないこととした.
 食中毒発生時の厚生労働省の都道府県に対する関与については,従来から地方自治法の認める範囲で行ってきているが,地方分権の進展の中で,健康危機管理の観点からの国の関与を明確化する目的で設けた.
 また,従来は「食中毒処理要領」において,運用で対応してきた都道府県知事の一定数以上食中毒患者発生時等の厚生労働大臣への報告などについても法律に明記することとした.