3.動物病院の現状
 
 次に,動物病院の現状をおもに総務庁(現総務省)『サービス業基本調査報告』データを用いてみていく.この調査は,従業者規模30人以上の事業所は全数調査,30人未満の事業所は標本調査として,1989年から5年ごとに行われている.動物病院は,サービス業の中において,産業小分類で「獣医業」として区分されている.産業中分類においては,「専門サービス業(他に分類されないもの)」の中に含まれ,同じ区分の他産業は法律事務所,税理士事務所,土木建築サービス業や学習塾などの個人教授所等がある.
1)事業所数
   まず,事業所数を表2でみていくと,この『サービス業基本調査報告』では,「獣医業」は1999年には全国で7,631事業所という結果であった.内訳は,個人事業所5,442,株式会社234,有限会社1,897,会社以外の法人58である.1989年調査では総数5,635事業所,1994年調査は6,801事業所で,10年間で約2,000事業所増加,1.35倍となっている.農林水産省『家畜衛生統計』による1999年の個人診療施設数は9,272であり,数値に開きがあるが,これは調査方法,定義が異なるためであると思われる.内訳では,1989〜1999年の10年間で法人,特に会社組織の事業所数が増加していることが特徴としてあげられる.
 また,1999年の事業所数のうち,他の事業からの転換,あるいは支所としての開設や移転などではなく,創業・創設された獣医業は5,599事業所であった.そのなかで,開設時期別に事業所数を表3でみていくと,1990年代以降に入ってから2,000事業所以上が開設されている.これは総数の38%を占め,新規に創業する動物病院が近年いかに急増してきているかがわかる.ここから,動物病院は業種として全体に拡大傾向にあることが読み取れる.

2)収入総額
   年間収入総額は獣医業全体で,1989年が809億6,900万円であったが,1994年には1,487億9,400万円,1999年には2,388億4,700万円というデータになっており,1989〜1999年の10年間で約3倍近い伸びを示している.1事業所あたりの年間収入金額に換算してみると,1989年は1,472万円,1994年2,193万円,1999年3,116万円と,10年間でやはり2倍以上の収入増となっている.
 収入総額のうち,収入を得た相手先は個人(一般消費者),企業・団体*1,官公庁と3つに分けると,1994年には90%が個人(一般消費者)であったが,5年後の1999年には97%と増加している.つまり,これは一般消費者が動物病院にとって,より大きな顧客となってきていることの現われである.
3)従業者数
   従業者ベースでみてみると,1989年には獣医業全体で14,967人であったのが,10年後の1999年には29,149人と約2倍に増え,そのうち常用雇用者数で比較すると,1989年には6,181人であったが,1999年には18,107人と大幅な増加となっている.
 従業者の構成については,1989〜1999年の5年おき3時点における獣医業のうち,個人事業所の従業者構成割合を図3に示した.個人事業主の割合は1989年には41%,1999年は39%とほとんど変化はみられない.しかし,個人事業主の家族で,賃金・給与を受けずに事業所の仕事を手伝っている家族従業者の割合は,1989年は17.2%であったが,1994年には8.6%,1999年は6.2%と10年間で大きく減少しており,特に1989年から1994年にかけての期間が著しい.また,正社員・職員の割合も10年間で10%増加している.パート・アルバイトの割合も増えているが,1カ月以内の雇用などの臨時雇用者割合は減少している.1事業所あたりでみると,常用雇用者は1989年では1.1人であったが,1999年には2.4人となっている.かつては,開業獣医師を家族が手伝うという事業スタイルであったのが,常用雇用者,特に正社員の割合が増えており,経営規模が拡大していることがここからもうかがえる.
 次に,従業者規模で事業所数の時系列の動きをみてみる.1989年調査では,従業者規模1〜4人が全体の88%,5〜9人が11%と,従業者10人未満の事業所が全体の99%を占めている.1994年調査時では,10人未満事業所は98%とほぼ変化はないが,内訳をみていくと1〜4人が84%,5〜9人が14%と従業者規模の大きい方へ構成割合の若干のシフトがみられる.1999年調査時には10人未満事業所は95%とさらに減少してきており,1〜4人は73%と,1994年に比べると10%ポイントも減少している.そして,5〜9人が22%へと増加し,10〜19人が4%以上となっている.1事業所の従業者規模も次第に拡大してきているといえるであろう.
 図4に動物病院などの個人診療施設(犬猫対象)での従事者を,総務庁『サービス業基本調査報告』と農林水産省『家畜衛生統計』をもとに,「獣医師」と「それ以外」にわけて,その人数を推計し掲げた.1989年には「獣医師」と「それ以外」では,「獣医師」の方が多く,「それ以外」は獣医師数の9割程度であった.それが1994年調査では逆転し,「それ以外」が「獣医師」の1.3倍となり,1999年には1.8倍となっている.ちなみに,人間の一般診療所従事者数の構成割合は,「医師(若干の歯科医師を含む)」と「それ以外」とでは,「それ以外」が「医師」の5.3倍で,歯科診療所では「歯科医師(若干の医師を含む)」と「それ以外」の構成比は,「それ以外」が2.6倍となっている.これらと比較しても,動物病院では今後さらに獣医師以外の従事者は増える可能性は大きい.
 農林水産省の「獣医系大学卒業者の年度別就職状況」によると,毎年獣医関係大学卒業者は約1,000名前後である.そのうち,個人診療施設(愛玩動物関係)へ就職する者の数は,1989年度では293名であったのが,1998年度では437名となっており,増加傾向がみられる.また『家畜衛生統計』では,個人診療施設(犬猫対象)従事の獣医師は,1990年で5,786名であったのが1998年では8,369名となっている.8年間で2,583名の増加ではあるが,『サービス業基本調査報告』データで示した1989〜1999年の10年間での従業者数約14,000人の増加を補完するほどの数ではない.それらを勘案すると,従業者数の拡大は,獣医師免許を持たない,動物看護士やトリマーといった,他職種の人数増加の影響が大きいと考えられる.それは,これらの職種を養成する専門学校の増加などからもうかがうことができる.また,総務庁『サービス業基本調査報告』の従業者データでの男女の構成割合から観察してみると,1999年調査では男女の割合が調査項目から外れているが,それ以前の2時点ではわけることができ,1989年では男性が50.7%,女性が49.3%とほぼ半数であった.それが,1994年では男性が44.0%,女性が56.0%と女性の割合が高まってきている.それぞれの伸びでも,男性従業者数はこの5年間で1.2倍であったのに対し,女性は1.6倍の伸びを示している.
 1989〜1999年の10年間での従業者総数は,サービス業全体では1.38倍であるのに対し,「獣医業」では1.95倍と明らかに新たな雇用の創出がみられる.
 また,1事業所の1従業員あたりの給与支給額においても,常用雇用者割合の増加を受けて,1999年は1989年の2.4倍となっている.

総務庁『サービス業基本調査報告』より作成
図3 獣医業従業者内訳(個人事業所)

 

総務庁『サービス業基本調査報告』より作成
図4 動物病院従業者数の推移(1989〜1999年)