4.獣 医 師 数
 
1)職域別ペット診療従事の獣医師数
   次に,動物病院に従事する獣医師,特に犬猫等ペットを対象とする獣医師を中心に現状をみていく.まず,表4で最近の獣医師資格をもつ届出者数を従事する職域別に掲げた.犬猫8,369人うち,1,692人が女性獣医師で20%の割合を占めている.
 さらに長期の獣医師数の推移をみてみる.1958〜1998年までの40年間について表5のとおり,10年単位でみていくと,1958年には約17,000人が獣医事に従事,1998年には約26,000人へ増加している.またそのうち,対象を産業動物,犬猫,その他と3つに分類し,いわゆるペットである犬猫を対象としている獣医師数を追ってみると(1958年は内訳が不明なため除く),1968年には1,887人であったが,1998年には8,369人と総数の増加以上に増えていることがわかる.割合でみても獣医事に従事している総数に対して,1968年には9.8%と1割に満たなかったが,1998年には32.3%と全体の約3割を占めるまでになっている.
 最近の動きを1996〜1998年の短期間でみていくと,ペットを対象とする個人診療施設の獣医師は全国で7,617人から8,369人へと約10%増加している.都道府県別では,東京都が15%増,大阪府は25%増となっている.
 図5には,最近の獣医系大学新卒者の職域選択の傾向を示している.1988年度には個人診療施設(愛玩動物)への就職割合は約25%であったが,1999年度には41.9%と,他と比べ大きく上昇していることがわかる.


資料:農林水産省「獣医系大学卒業者の年度別就職状況」
図5 獣医系大学卒業者の就職状況(1988〜1999年)

2)都道府県別ペット診療従事の獣医師数
   地域的な分布について,1998年の都道府県別獣医師数を図6に示した.獣医師数全体では北海道がトップだが,個人診療施設(犬猫対象)の従事者数のみでみると,東京都が1,073人(63.5%),神奈川県674人(49.3%),愛知県469人(49.0%)という順になっていて,都市圏での個人診療施設(犬猫対象)の従事者割合は大きい.
 1998年の都道府県のペットを診療対象とする個人診療施設の獣医師数と,動物のうち,唯一実数データの得られる厚生労働省『畜犬登録頭数等調査』データとを使い,都道府県別の獣医師の充足状況を算出してみた.ただし,これはあくまでも登録頭数であるので,登録率の地域差は反映できず,また実際に飼育されている犬の数はこれ以上の数値であると考えられる.全国平均では,獣医師1人に対して651頭の犬が登録されている計算となる.最も充足しているといえるのは,ペット診療に従事する獣医師数の最も多い東京都で,獣医師1人あたり279頭であった.神奈川県の467頭がそれに次いでいる.反対に最も獣医師が不足していると思われる府県は,青森県の1人あたり1,494頭である.それに続くのは佐賀県の1,404頭である.また,地域別にもう少し大きな範囲で捉えた場合,東北地域が1人あたり1,072頭で,最も不足している地域といえるであろう.
 都市部からペットを診療対象とする獣医師は充足していく傾向があるが,データからは地方ではまだまだ潜在需要が大きいことがわかる.

資料:農林水産省『家畜衛生統計』
図6 都道府県別獣医師数(1998年)

 

5.終 わ り に
 
 以上,ペット産業全体の動向,またなかでも大きなシェアを持つペットフード産業の市場規模,そして動物病院,獣医師の現状についてさまざまなデータを示してきた.1990年代に入って産業全体,ペットフード産業,獣医業とそれぞれ共通していえることは,市場として捉えた場合,急速に進展しているということである.しかし,ペット産業全体,またペットフード産業は1990年代後半になると,成長の伸びは前半に比較し緩やかになってきている.それに対し,動物病院は事業所数,収入総額,従業者数などの伸びは後半になっていっても著しく拡大傾向がみられる.また,それに伴うように,ペットを診療対象とする獣医師の割合も高まってきている.この動きから,今後ペット産業全体での動物病院の占める産業としてのシェアは,より大きくなっていくであろう.
 ペットが人々の生活において,ますます密接な存在になるにつれ,動物病院に対する社会的な要請もさらに高まっていくことが予想される.また,サービス業のひとつとして捉えた場合にも,雇用規模も拡大している現在,労働市場としてさらに発展していく際に,データでもって自らの状況を把握していく必要がある.しかし,現状ではペット産業全体にいえることであるが,基礎的な集計データが非常に少ない.たとえば,動物病院従業者数の内訳についても,獣医師数は届け出によりデータを得ることは可能でも,非獣医師については動物看護士かトリマーかといった職域分類も不明である.同じ医療分野における医,歯科診療における統計と比較しても未整備な点は否めないであろう.獣医業全体が従来以上のさまざまな観点からのニーズに応えていくためにも,基礎的データを業界自らが調査,整備構築し,獣医事従事者は自己の社会的役割をより認識することが一層望まれる.

 

参 考 資 料
[1] 厚生労働省『畜犬登録頭数等調査』
[2] 厚生労働省『医療施設(静態・動態)調査・病院報告』
[3] 厚生労働省『国民生活基礎調査』
[4] 財務省『貿易統計』
[5] サンケイ新聞メディックス『ペットビジネスマーケティング名鑑』
[6] 総務庁『サービス業基本調査報告』
[7] 総理府『動物保護に関する世論調査』,『動物愛護に関する世論調査』
[8] 内閣府『国民経済計算』
[9] 日本貿易振興会『アグロトレードハンドブック』
[10] 農林水産省『家畜衛生統計』
[11] 農林水産省『獣医系大学卒業者の年度別就職状況』
[12] 農林水産省『ペットフードの生産状況報告』,『ペットフード産業実態調査』