BSE問題に関する調査検討委員会報告(要約)
 
第I部 BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証
 
1 英国におけるBSE発生を踏まえた対応(1986〜1995年)
   英国でBSEの発生が1986年に確認され,88年に国際獣疫事務局(OIE)総会で新疾病として発生報告.英国では88年に肉骨粉の反すう動物への使用禁止,89年11月に脳,脊髄などの特定臓器の食用禁止措置,ついで90年9月に特定臓器を動物の飼料に使用することも禁止.
 EUとしての肉骨粉使用禁止措置が加盟国全体で実施されたのは94年.
 92年にはOIEの国際動物衛生規約にBSEの章が設定.
 このような国際的情勢の変化に対して,農林水産省は[1]BSE発生国からの生きた牛の輸入停止,[2]BSE発生国から輸入する肉骨粉への加熱処理条件の義務づけなどを措置.しかし,加熱処理条件の実態について,現地調査等積極的な対応がとられる必要があった.
 
2 BSEの人への伝達の可能性に関する英国政府諮問機関の発表,EU委員会の決定およびWHO専門家会議の勧告を踏まえた対応(1996〜1997年)
 
(1) 1996年4月における肉骨粉等の牛への給与に関する農林水産省の行政指導の評価
   96年4月にWHO専門家会議開催.4月3日に会議のプレスリリース発表.
96年4月8日に農林水産省で「海綿状脳症に関する検討会」開催.この検討会の意見を受けて,農林水産省は肉骨粉の使用禁止について行政指導.当時,米国やオーストラリアが自主的禁止措置をとったことも参考になったもようだが,両国が法的禁止措置を取った後もこの問題は取り上げられず,結局,法的規制について農業資材審議会飼料分科会に諮問されたのは2001年3月になってからであり,行政対応上に問題があったと認識せざるを得ない.
 農林水産省は,国際的動向を把握する機会はあるにもかかわらず,適切な対応をすることを怠ったといえる.その背景には,行政指導で実効が確保されると考えていたことに加え,97年の家畜伝染病予防法改正時の衆・参農水委の「今後とも指導すること」との附帯決議が全会一致でなされた経緯もあり,法的規制を行わなかったものと考えられる.
 
(2)以上の時期における厚生省の関与についての評価
   厚生省は96年4月11日,食品衛生調査会を開催し,食品衛生上の対策の検討を行い,農林水産省に対し,肉骨粉給与の禁止を含むWHO専門家会議の勧告について,適切な対応がなされるよう要請した.
 BSE問題がヒトの健康問題として浮上してきた以上,BSE拡散防止の観点から,農林水産省に対して,より明確に意見を述べるべきであった.縦割り行政で相手に干渉しないという悪い側面が反映したといえる.
 
3 EUのBSEステータス評価に関する対応(1998〜2001年)
 
(1)EUのBSEステータス評価に関する農林水産省の対応とその評価
   EUのBSE発生リスクの評価手法は,客観的で透明性のあるもの.一方,日本がOIE基準で自らの評価を行うには,まず手法を開発しなければならない.そのような問題があるのに,EUの評価中断を要請した論拠は明らかでないが,BSE発生リスクがあるという結論が風評被害を引き起こすことを恐れたためではないかと推測される.
 EUの報告書案の勧告は率直に受け入れるべき内容であるが,勧告のうち,肉骨粉の給餌禁止および特定危険部位の排除は,BSE発生後に実施.
 報告書案の内容が国民に予め知らされ,対策が取られていれば,当面の風評被害は起きても,発生時に起きた大きな社会混乱は防げた可能性が高いとみなせる.
 
(2)EUのステータス評価に関する厚生労働省の関与についての評価
   ステータス評価の取り下げの際,厚生労働省は書簡が農林水産審議官名であったこと,肉骨粉にかかわる評価が主な論点であったこと,短時間の協議であったことから意見は出していない.
 97年に行政改革会議に指摘された食品行政についての両省の緊密な連携確保が実際に機能すれば,ステータス評価についても厚生労働省からの意見提示があってしかるべきと考えられるが,このような状況を踏まえるとやむを得なかったのではないかと考えられる.
 
4 変異型CJD感染防止のためにとられた一連の対策の評価(1996〜2001年)
 
(1)1996年の変異型CJD確認の際の厚生省の対応と評価
   96年4月のWHO専門家会議の報告を受けて,厚生省は変異型CJD患者のサーベイランスを目的とした緊急調査研究班を設置.医薬品等については4月17日に英国産牛等由来原料の禁止を実施.食品は26日にと畜場での臨床検査にBSEを追加.
 これらの一連の措置はWHO専門家会議報告書の勧告に沿ったものとみなせる.
 
(2)厚生労働省における血液および臓器に対する安全対策
   99年に血液の理論的危険性が問題になったことを受けて,厚生省は英国長期滞在者の献血禁止を2000年1月に実施.2001年3月および11月には献血禁止対象国の拡大等を実施.臓器提供にも献血に準じた規制を実施.
 これらは科学的には未知の理論的危険性に対する予防措置として評価できる.
 
(3)医薬品,医薬部外品,化粧品,医療用具に対する安全対策
   ヨーロッパでのBSEの広がりに対応して,厚生省は発生国,発生リスクの高い国を原産国とする牛等由来原料の使用禁止等を2000年12月に実施.
 実施当時は日本でのBSE発生前であり,しかもEUや米国よりも厳しい措置であったため,コストを度外視した厳しいものとの意見も出された.しかし,理論的リスクに対する予防原則に従った措置として評価できる.