当該農場の経営再開
 明るい話題として,11月16日,当該農場に県内酪農家有志の協力により乳用牛31頭が導入され,酪農経営が再開された.
 その後,預託されていた育成牧場からの下牧を待って1頭提供されており,合計32頭の牛が導入された.
 導入牛については,当該農場から二度とBSEを発生させないことを命題に,飼養経歴が明らかで,乳房炎検査や,結核,ブルセラ,ヨーネ病検査が終了していることおよび肉骨粉等の給与がないことを条件に選定された.
 写真は平成13年末に撮影したものであり,導入された牛も落ち着き,当初ミルキングパーラーにとまどった牛も慣れ,搾乳作業も発生以前と同様の状態に戻っており,子牛も数頭生産され順調な経営が続けられている.
 BSE発生以来,日本中から注目されてきた当該農場が畜主の強い意志と多くの支援により経営再開できたことは,わが国の畜産農家に勇気を与えたものと考えている.
 その後,食肉処理場におけるBSE検査により,北海道および群馬県で生産された乳用牛で2例目,3例目の感染牛が確認された.
図2 再導入された牛群 図3 生産された牛
 
 感染源および感染経路の調査
 国は本県および北海道の発生事例をもとに,感染源および感染経路の調査を中間報告でまとめている.
 BSEは異常プリオンに汚染された肉骨粉等を摂取することにより感染することから,当該牛に給与された飼料の調査が主体となっている.
 本県の調査結果では平成10年以降,濃厚飼料・粗飼料および飼料添加剤など10種類が給与されていたが,肉骨粉等は原料として使用されておらず,また,粗飼料等,倉庫での保管時および配合飼料輸送車での肉骨粉等の混入の可能性がないことが判明している.また,肥料やペット用飼料および投与医薬品の関与も否定されている.
 当該農場に関する調査では,給与飼料等に肉骨粉等は含まれていなかったことが判明しており,当該農場での感染は想定されない.
 また,北海道の農場においても本県と同様,肉骨粉等が当該牛に給与されていないことが判明している.
 しかし,配合飼料の製造工程において,豚・鶏用飼料と牛用飼料が同一ラインで製造されていたことから,その混入が完全には否定できないことなど調査中の事項がある.
 中間報告では「現在までのところ,感染源および感染経路の解明にはいたっていない.」という結論となっている.
 表7にこれまでに確認された3例のBSE感染牛で共通する点を示す.
 第1点目は3頭とも生年月日が近いことから,同一時期に感染に至る感作を受けたものと推測される.
 第2点目は給与されていた代用乳が,同一工場で生産されており,豚由来の血漿蛋白等を原料として使用していたことがあげられる.
 第3点目はそれぞれ異なる工場で生産された配合飼料を給与していたが,豚・鶏用飼料と同一ラインで製造されていたことが調査から判明している.
 今後,これらの調査結果等をもとに,早期に感染源が特定され,感染経路が究明されることが望まれる.


 風評被害と支援対策
 BSE確認以前の平成13年の枝肉価格は前年並みかそれを上回って推移してきた.BSE発生以降,牛肉価格は低迷し,平成13年12月の価格は黒毛和牛(A-4)が前年比73.2%となっている.特に乳用肥育去勢(B-2)は前年843円が13年は240円で前年比28.5%に,乳廃用牛の価格を反映する乳用雌牛(C-1)は同じく318円が62円の前年比19.5%と暴落している.
 市場価格が示すように,継続した感染牛の確認は消費者の牛肉離れに拍車をかけ,牛枝肉価格の暴落を招き,肉牛農家を窮地に追い込んでいる.
 また,乳廃牛の食肉処理場における受け入れ体制が十分でないこと,逆に検査により感染牛が発見された場合の防疫措置や風評被害を恐れるため食肉処理場出荷を控えていることから,廃用牛の更新が進まないことも酪農家の大きな問題となっている.
 これらの状況に対応するため,さまざまな支援策がとられている.
 千葉県では独自の事業として「肉骨粉等を家畜に使用しない運動」による飼料安全検査にいち早く取り組み,安全性の確認を行い,消費者の信頼回復に努めるとともに「牛海綿状脳症の風評等被害緊急対策資金」の創設により生産者支援を行っている.
 国のおもな経営支援対策として,「農業近代化資金」「大家畜経営維持資金」を始めとした資金制度の整備および新マル緊と呼ばれる「肉用牛経営安定対策事業」,「BSE対応肉用牛肥育経営特別対策事業」等により対策が進められており,さらに患畜飼養農家において疑似患畜等の処分に伴う乳牛の導入を支援するために,導入牛1頭あたり最大5万円が助成されることとなった.
 また,10月18日から開始された食肉処理場におけるBSEスクリーニング検査のため,出荷調整を行った生産者に対する支援制度も創設された.
 さらに,伝染病発生時に迅速な防疫対策を講じるための「家畜防疫識別システム緊急整備事業」により,本年度末までには国内に飼養される牛すべてに耳標が装着されることとされている.
 千葉県の取り組みとしては,県内食肉処理場で発生する残渣物および死亡牛を肉骨粉として処理した後に焼却する千葉県独自のシステムを,昨年末から実施している.
 これにより,BSE発生当時に生じた死亡牛の処理問題および食肉処理場の休業問題にまで発展した残渣物の処理は,その後円滑な対応が図られている.