分離ウイルスの同定のため単クローン性抗体(ウィーン大学、FX Heinz博士より分与)を用いた蛍光抗体法を実施した(表7).分離株 Oshima 5-10、5-11、3h6およびダニ分離株OhIh1、OhIh2はほとんどのフラビウイルスに反応する6E2、ダニ媒介脳炎群ウイルスに反応する2E7、ダニ媒介脳炎ウイルスに型特異的な7G7にともに高い抗体価を示した.このことから分離されたウイルス株はダニ媒介脳炎ウイルスと同定された.


4)分離ウイルス株の性状解析

 犬の血液から分離されたダニ媒介脳炎ウイルスのE蛋白遺伝子の塩基配列を決定した.分離ウイルスとロシア春夏脳炎ウイルス(Sofjin株)を比較すると、塩基配列では95.7%、アミノ酸配列では99.0%の相同性を示した(表8)[9].このことから患者発生地区で分離されたダニ媒介脳炎ウイルスは、ロシア春夏脳炎型(極東型)と同定された.
  さらに本株の病原性をマウスモデルにおいて比較した.すなわち北海道分離株(Os-ima)、極東ロシア株(Sofjin)、中央ヨーロッパ株(Hoc-osterwitz)および弱毒のLangat株(マレーシアのマダニから分離)をマウス(ICR、オス8週齢)の皮下(10,000FFUと1,000 FFU)および脳内(10FFU)に接種した(図2、3).Os-ima株の神経侵襲毒力はLangat株より強く、Sofjin株とHoc-osterwitz株より弱かった.神経毒力はSofjin>Os-ima=Hoc-osterwitz>Langatの順であった.この成績から北海道分離株はダニ媒介脳炎ウイルスに共通 の毒力を保持していることが判明した[2].