4.北海道で発生したダニ媒介脳炎の疫学調査成績
ss多数存在するアルボウイルス感染症のうちダニ媒介性脳炎の疫学についてさらに詳細に解説する.ダニ媒介フラビウイルスの種類と分布を示す(表2).ダニ脳炎の中で最も重篤に経過するのはロシア春夏脳炎で致死率は30%にも達する[1、5、8].図1にダニ媒介脳炎ウイルスの感染環を示す.病原巣動物となる小型野生哺乳類や鳥類から幼ダニと若ダニは吸血によりウイルスを獲得する.ウイルスは経齢間伝達と経卵巣伝達によりダニの間で維持されている.成ダニ、若ダニの吸血を受け、ヒト、家畜および大中野生哺乳類はウイルスに感染し、その一部は発症する.各ウイルスごとに、また地域ごとに媒介マダニと病原巣動物の種類は異なっている.これまでわが国にはダニ媒介脳炎の存在は知られていなかったが、最近北海道においてダニ媒介脳炎の患者が発見され、さらには原因ウイルスが分離されるなどダニ媒介脳炎ウイルスの流行巣の存在が明らかとなった[6、9、12].以下われわれが実施したダニ媒介脳炎の疫学調査成績を紹介する.
(1)経過と患者発見
患者の発生状況および臨床症状は以下のようであった.北海道渡島支庁管内K町の一酪農家の主婦が、1993年10月27日、39℃代の高熱、吐き気と頭痛を伴って発症し、第2病日には複視が出現し、3日後に入院したが高熱、歩行障害、痙攣発作が現れたため挿管し人工呼吸を必要とした.1994年の2月に退院したがダニ媒介脳炎に高率にみられる後遺症の上肢および頸部の麻痺が2年後においても残った. |