生物材料の測定方法の比較とその測定精度ウイスター系ラットの血液と肝臓,牛乳,茶抽出液および分析値の精度を確認するために市販の生物標準試料; Lobster Hepatopancrease(TORTh2;National Research Council Canada),Whole Egg Powder(RM8415;The National Institute of Standard and Technology),牛の肝臓(CRM No. 185;Community Bureau of Reference),豚の腎臓(CRM No. 186;Community Bureau of Reference)を用いた.これらの試料の約0.5g乾燥重量を,硝酸と過塩素酸の混合液(1:1)で灰化(180℃)した.これらの試料は,分析直前に0.1Nの硝酸で適当濃度に希釈して分析に供した. 既知の濃度(0.5,1.0,1.5および2.0ppm)の各元素を超純水(コントロール)および灰化したそれぞれの生物材料の希釈溶液に添加し,それぞれから得られる測定値を比較した.図2は,Liの添加で得られた成績であるが,コントロールと比較すると明かな「ずれ」が生じている.これは,使用した生物試料中に存在する種々の元素の影響である.同様の「ずれ」が,検討した元素中に複数観察された.このような現象は,構成する元素のマトリックスが不明な標本で複数の元素を測定する場合に,その測定精度を下げることになると思われる.したがって,組織ごとに構成元素が異なる生物材料では,灰化した標本自体をベースとし,これに測定しようとする元素の既知濃度を添加して,標本に含有されていた真の元素濃度を,計算から求める標準添加法を採用するのが好ましいと考えられた. そこで,実際にその標準添加法を使用して,市販の4つの標準試薬(TORTh2,RM8415,CRM No. 185および CRM No. 186)中の各元素濃度をICPhAESで分析した.成績は示していないが,得られた分析値はそれぞれの試薬中の元素の推奨値と一致し,分析値と推奨値との間に有意な差は認められなかった. 以上のことから,これらの分析波長と分析方法(標準添加法)が,生物材料中の多元素の分析のためには有用であろうと考える. |
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野鳥における重金属汚染の疫学調査野鳥におけるV汚染の状況 ここでは,野鳥から肝臓と腎臓を摘出して,両臓器試料中の元素濃度を測定した成績からVに関するものを選び,その汚染状況を解析した事例[5, 6]を紹介する. Vは鉱工業および電子工業を含む多くの工業工程で多用されており,生体に毒性を示すことからVを産出する諸外国では労働衛生上の規制物質となっている[7].これまでに知られているVの毒性は,各種のATPaseを抑制することに起因した気管支喘息,腸管運動の亢進などの主として平滑筋に対する作用である[8].この元素は,わが国でも工業的に多用されてはいるが,現在のところ規制の対象とはなっておらず,その汚染の実態も明らかにされていない.
使用した野鳥はカルガモ16羽,マガモ7羽,オナガガモ7羽およびヒドリガモ11羽の合計41羽である.これらの野鳥は日本の5県(宮城,秋田,福島,茨城および石川県)の異なる13地域より1993年度に入手した(環境庁調査捕獲).元素濃度は,ICPhAESを使用して決定した. |
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