さらに,16羽のカルガモすべての肝臓中のV含量と腎臓中のV含量との間では相関は得られなかったが,16羽中特定の8羽のカルガモでは非常に強い相関関係が得られた(図3中のA地区;相関係数r=0.924).この8羽のすべては,多くの工場が存在する居住区域に隣接した1地域で採集されたものであり,他はいわゆる田園地帯で捕獲されたものである.したがって,野鳥の臓器中のV含量
は,繁殖地・生息地の汚染状況を反映している可能性がある. 以上のことから,野鳥の繁殖地,生息地,食性などと関連させて臓器中のV含量 を詳細に解析することにより,局地の汚染をモニタリングすることが可能であることが示唆された.そして,V濃度が規制されていないわが国においても,その汚染が一部の地域では相当高濃度で起こっていることが明らかとなった.また,汚染が進行している地域では,カルガモで得られたように,すでに有害元素として規制されているCdのような物質がVのような規制されていないその他の元素と複合した汚染状況にあることが明らかとなった. 複数元素による汚染状況
以上,前項で示したようにVによる汚染が,他の元素による汚染と複合して起こっていることは明らかであるため,当研究室では複数の元素の検討も行っている.そこで次に,上記のV汚染とは別 に,複数元素による汚染を検討した例を紹介する. ここで使用した野鳥は,淡水鳥のカルガモ(19羽),ヒドリガモ(15羽),オナガガモ(11羽),マガモ(7羽),コガモ(6羽),ハシビロガモ(2羽),オカヨシガモ(2羽),アメリカオシドリ(1羽)およびシマアジ(1羽)の合計64羽である.これらの腎臓と肝臓中の8元素,すなわちCd,Cr,Cu,Li,Mo,Tl,TiおよびVを,ICPhAESで同時分析して各元素含量 を決定した.ここでは,各元素含量は示さないが,表3に各元素含量 の間で得られたそれぞれの相関係数を臓器別に示した.相関係数0.5以上は,腎臓でCrhLihTiの間に,肝臓でTihCrhLihCdおよびLihTihVの間に認められた.このような複数元素による汚染についての報告は,世界的にみても増加の傾向にあるようであるが,その原因についてはほとんどが不明である.したがって,これらの相関がどのような汚染源と関連しているのか,また,これらの複合的な汚染が生態系にどのような影響を与えているのかなどについて明らかにしてゆく必要性があろう. |
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最 後 に
当研究室では,さらに野鳥(水禽類と猛禽類)の検体についての分析成績を集積し,解析を進めております.諸先生方のご協力をいただければ幸いに存じます. |
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