こういった時あたかも,今回の口蹄疫発生の原因の一つとして,輸入稲藁の存在が疑われていると申しますか,懸念されております.そしてそれを契機にいたしまして,国産稲藁の,ひいては国産自給飼料全般 の本格的活用に対する認識と関心が深まってきております.このように,今まではあまり関係がない,あまり詳しく考えることのなかった衛生問題と自給飼料問題が根っこで深く関わっているということを目の当たりにしましたことは,私にとって一つの新鮮なヒントを与えてくれました.日本の行政も団体組織も,そのほとんどが縦割りの形で世の中が動いていると認識しております.畜産行政も,とかく改良は改良,衛生は衛生,自給飼料は自給飼料という縦割りの感覚が強いわけで,それらの横割りの関係を見ながら連携や調整を図るという点がおろそかになるきらいがあるような気がいたします.決して行政の悪口を申し上げるわけではございませんが,私はそのように考えている次第です.
  一つの畜産農家の経営の中を見ましても,その経営を形成する要素というものは,すべてがこういったいろいろな事柄が一体となって絡み合って包含されているわけですので,農家に対する指導や支援も,その実態に即した柔軟かつ包括的なものでなければならないのではないかと思います.
  一つの例を情報問題に取って申し上げますと,いま情報化が進む中にありまして,私は将来の行政サービスというものは,農家に対する適切な情報提供により大きなウエイトが置かれるようになるのではないかと思っております.私どもはいま,畜産農家に対するよりよい情報作りの方法,中身を模索しているわけですが,個別 農家ごとに経営情報とか改良情報とか衛生情報,飼料情報といったものを集積いたしまして,これらを総合的に分析して,各農家の個別 経営改善に役立てることができないかと考えております.
  このようなことを実現するためには,各部門ごとの連携の強化がどうしても必要であります.畜産関係の行政や団体の各レベルで,畜産技術者,獣医技術者および農業技術者がさらなる一体感をもって連携を強化しながら,21世紀に向けての畜産づくりをしていきたいものだと念じている次第です.
  以上,主としてこれは産業動物に焦点を当てたお話を申し上げましたが,最後に愛玩動物についても一言申し上げたいと存じます.愛玩動物につきましても,コンパニオンアニマルとしての役割の重要性が増してきております.最近の殺伐としたニュースを耳にするたびに,あるいは老人ホームとの生活ぶりをみるにつけ,この分野の拡充の必要性を感ずる次第です.動物を通 じた生命の大切さ,それを慈しむ心を知っていたならば,あのような事件はある程度防げたのではないか.あるいは,愛玩動物にもっと接触することによって,老人や寂しく療養を続ける人たちに安らぎを覚えてもらおうではないかと考えるにつけ,愛玩動物分野というものも今後ますます重要性が増してくるのではないかと思われます.
  産業動物,愛玩動物の違いはあれ,いずれにいたしましても産業動物は日本の良質なたんぱく源を供給するという食文化の向上に役立つわけでありますし,愛玩動物につきましては心の潤いを与えるという精神文化の向上に役立つということであります.私はこういった文明に対する貢献についてのお仕事に携わっているという自覚と自負をお持ちくださいまして,獣医師の皆様が今後一層元気にご活躍くださるようにお祈りする次第です.最後に,社団法人日本獣医師会のますますのご発展を心から祈念いたしまして,ご挨拶とさせていただきたいと思います.ありがとうございました.
〔社団法人日本獣医学会 土井邦雄理事長〕
 本日は,日本獣医師会総会にお招きいただき,五十嵐会長をはじめ関係各位 に厚く御礼申し上げます.私は実は昨年までの4年間,農水省の獣医審議会の一員といたしまして委員の先生方と一緒に,獣医師のスタートラインである国家試験の体系の再編に取り組んでまいりましたけれども,その間,大学関係者はもとより,日本獣医師会から貴重なご助言をいただきましたことを感謝申し上げます.この春からは日本獣医学会のまとめ役を仰せつかっておりますが,有能かつ多弁な前任者と違いまして,私は無口でございます.よろしくお願いいたします.
  ところで,日本におきましては獣医療の対象が伴侶動物に大きく傾いておりまして,伴侶動物医療というものは獣医倫理および動物福祉の問題と相俟って,今後ますます重要性が増していくものと思われます.一方,産業動物に関しましては伝染病等に対する危機分析,危機管理というものが非常に重要であろうと思いますし,つい最近約1世紀ぶりに日本で発生いたしました口蹄疫は,改めてそのことを示しているものと思います.獣医系大学におきましては,このような点を考慮に入れて,より専門性の高い臨床獣医学および公衆衛生学教育の実施を目指して教育制度の改革に取り組んでおられますし,先ほど五十嵐会長からお話がありましたように,日本獣医師会においては生涯研修や卒後教育の実施に向けての努力がなされているということを伺っております.われわれ日本獣医学会といたしましても,そのような制度の運営にはぜひ何らかの形でご協力させていただければと,心から願っております.
  獣医師会と獣医学会というのはそれぞれに独自の領域を持ちながらも,獣医学という共通 の基盤に立っております.したがいまして,いま日本の獣医学教育は将来どのような方向に歩んでいくのか,進んでいくのかという非常に重要な岐路に立たされている時ですから,われわれ日本獣医学会はぜひとも獣医師会の皆様と一緒になって,その方向がよい方向にいくようにいろいろな意味での提言をしていくべきであろうと,そのように考えているわけです.
  先ほど会長のほうからお話がありましたように,5月に両方の組織の役員が集まりまして,非常に忌憚のない意見を交わしながらも和やかな懇親の場を持てましたことを,非常にうれしく思っております.今後,ともに,たとえば両方の会の共通 の話題に関わるようなものにつきましてシンポジウムを共催するとか,そういったことを通 じてスローアンドステディに両者の相互関係を深めてまいりまして,将来ともに二つの会が緊密な友好関係が保てるよう祈念いたしております.
  最後に,来年の春にわれわれの学会の総会がございますが,その席にはぜひ五十嵐会長においでいただきまして一言ご挨拶を賜りたい.そのことを会長にお願いいたしまして,簡単ですが,ご挨拶に代えさせていただきます.どうもありがとうございました.