術後痛の軽減には麻酔前投薬も重要 |
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そこで伝達を何らかの方法で阻止しなければなりません.その一つの方法が麻酔前投薬ですが,オピオイドの前投薬では修飾は阻止できても伝達を阻止できません.しかし局所麻酔を使えば,伝達を阻止することができます.ですから硬膜外にモルヒネを投与すると,修飾も伝達も阻止できて具合がよいのですが,硬膜外の投与がなかなか難しいため,カナダの開業医ではあまり使われておりません.現実には多くの先生方が,ブトルファノール,モルヒネ,オキシモルホンなどを麻酔前投薬として使っております.
また,オピオイドを術中に使いますと,吸入麻酔の量や血圧の下降を抑え,痛みを伴う手術では,脊髄で起こる修飾も阻止することが期待できます. |
竹内: |
前投薬として,アルファ2作動薬等についてはどのようにお考えでしょうか? |
マシューズ: |
私どもの大学ではアルファ2作動薬は使っていません.キシラジンは血圧を下降させる可能性があり,若い動物での死亡率が結構高いといわれています. |
竹内: |
日本では恐らく臨床家の多くが,麻酔前投薬としてキシラジン,最近ではメデトミジンを使っていると思うのですが,どなたかコメントはありませんか? |
大橋: |
よく使いますが,両方ともそれほど危険性を持っているとは思っていないのです.もちろん,心臓の悪い症例,あるいは肺高血圧状態,フィラリア症などには使わないようにしていますが. |
マシューズ: |
そうですね.メデトミジンの方がキシラジンよりも安全性が高いといわれています.カナダではまだ市販されていないのですが,アメリカでもかなり広く使われています.適正に使えば,安全であると思います.アルファ2作動薬のいい点は,拮抗薬がある点と修飾を抑制するという点で,術後の疼痛も抑えてくれるはずです. |
西村: |
僕自身は基本的にアルファ2を麻酔前投薬としては使わずに,アセプロマジンとブトルファノールとか,アセプロマジンとモルヒネとか,ミダゾラムとモルヒネとか,あるいはモルヒネ単独などを,動物の状態に合わせて使い分けています.ただすごく攻撃的な大きな犬では,メデトミジンを使うことがあります.メデトミジンは鎮静薬としてはすごくよい薬ですが,麻酔の一部として使った時には,やはりトラブルが多いような気がするのです. |
マシューズ: |
ケタミンは使ってらっしゃいますか? |
西村: |
猫には使いますが,犬ではあまり使っていません. |
竹内: |
ケタミンの鎮痛作用はどう思われますか? |
マシューズ: |
私どもは,老齢の動物にケタミンとジアゼパムを併用しています.ケタミンにはよい鎮痛効果 もあります.特に体性痛には.ケタミンは(興奮性の神経伝達物質の一つである)NMDAの拮抗薬としても働きます.私どもは痛がっていてどうも手が付けられない外傷例を処置するためや骨格系の痛みを持っている場合によく使いますね.なお,ケタミンを使う場合には必ずベンゾジアゼピン系の薬剤を併用するようにしております. |
山下: |
僕らの病院では,ルーチンにメデトミジン5μg/ kgを投与した後にケタミンを使っています.場合によってはブトルファノールを加えて嘔吐を止めています.ちょっとリスクの高いものでは,ミダゾラムとブトルファノールにケタミンというパターンでやっています.ただし頭部と眼科の手術では,ケタミンを使わずにチオペンタールで麻酔導入しています.ケタミンでは脳圧や眼内圧が上がるといわれているからです. |
武部: |
僕は1人で診療していますから,麻酔として汎用しているのはメデトミジンプラスケタミンで,素晴らしい組合せの薬だと思っております. |
竹内: |
術後痛の予防と軽減という観点から,麻酔前投薬として非ステロイド性鎮痛消炎剤(NSAIDs)の中の鎮痛作用の強いもの,たとえば近年欧米で広く使われているケトプロフェンとかカルプロフェンを使うことについてはどういうふうにお考えですか? |
マシューズ: |
術後痛を抑えるためには,私どもは術前にオピオイドを投与しますが,術後にはNSAIDsを使うようにしております.たとえば,十字靭帯の手術ですと,術前にオピオイドを前投薬として使い,手術後麻酔が醒めてきた時点でケトプロフェンを投与します.カナダではカルプロフェンはまだ承認されていないのです. |