非オピオイド系の非ステロイド性 消炎鎮痛薬(NSAIDs)の使い方
        
竹内: 激しい痛みを伴ういろいろな例が出揃ったところで,それらをコントロールするための鎮痛薬に話題を移しましょう.もちろん疼痛の制御には,理学療法など,薬物によらない方法も重要ですが,時間ならびに掲載紙面 の都合上,今日は鎮痛薬に絞らせていただきます. まず最初は麻薬でない薬を使って痛みをコントロールするやり方で,それぞれお得意のものをご披露いただけたらと思います.それでは今度は日本側から参りましょうか.
大橋: 整形外科領域を含めて入院している場合ですと,注射薬でフルニキシンメグルミン,通 院用としてアミノプロフェン(ミナルフェン)とロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)です.
西村: 僕も,大橋先生と同じアミノプロフェンを使っています.でも脊椎疾患の場合には手術になることが多いので普通 は使っていません.
竹内: 今使われたロキソプロフェンナトリウム,あるいはアミノプロフェン,これは1週間くらい使っても,消化器障害はあまり起こりませんか?
西村: 基本的にはあまり起こらないですね.
竹内: わりに使いやすいということですね.他の先生方はいかがですか?
山下: 外来ではアスピリン・ダイアルミネート(バファリン)をまず出して,それでもまだ痛い場合には,痛みの強い時だけジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)の座薬を使ってもらいます.入院の場合は,メデトミジンとジクロフェナクナトリウムを使い,不十分ならブトルファノールを加えますが,非ステロイド系がメインになってきています.
武部: 僕は,断脚の場合の痛みや,結石で尿道切開後の排尿時の痛みを抑える時には,メデトミジンを少量 使っています.果たして有効かどうか…….
竹内: さて,マシューズ先生はどのようにしていらっしゃいますか?
マシューズ: 私が実際にみている症例は,大きく分けて2つのカテゴリーに分類できます.一つは一般 入院室にいるものですが,大体はルーチンな手術を受けた動物なので,中等度の痛みを訴えているものが多いと思います.この場合には,NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)を使います.具体的にはケトプロフェンをよく使っております.もう一つはICUに入っている動物でして,強い痛みを訴えていることが多いのです.こういった場合には,オピオイドだけを使うこともありますが,不十分な場合にはケトプロフェンを併用します.
竹内: 動物用のメロキシカムは使っておられますか?
マシューズ: はい.これは獣医用の薬剤で,最近カナダで承認されました.ケトプロフェンの代わりにこれを使う場合もあります.ただこの薬剤は,承認されたばかりの新しい薬剤なので,効果 についてはまだ情報が足りないと思っています.
竹内: お話に出たケトプロフェンやメロキシカムは,使ってみたい薬ではあるものの,まだ日本では動物薬として発売されておりませんので,麻薬であるオピオイドを使う話がでてきたところで,オピオイドにまで話を拡げたいと思います.オピオイドを使っておられる西村先生のところも,NSAIDsにオピオイドを併用することはよくあるのですか?

山下 和人氏
1965年生まれ、1989年鳥取大学農学部獣医学科を卒業し、修士課程修了後、1992年酪農学園大学外科学教室助手を経て、1995年同教室講師に就任し、現在に至る

動物の疼痛制御に用いるオピオイドの効用    
              
西村: 入院している場合や術後の管理以外,特に外来では全然使っておりません.
竹内: 今のところオピオイドは主として,後程の話題である術後痛の管理に使っていらっしゃるようですね.マシューズ先生,ケトプロフェンなどのNSAIDsとオピオイドを併用する場合の利点についてもう少し説明していただけますか.
マシューズ: オピオイドには鎮痛効果だけではなく,鎮静効果も若干ありますので,オピオイドを併用すると快適に寝てくれます. またこのコンビネーションは,術後痛のコントロール以外の重度の疼痛,たとえばガンによる痛みにも使うときがあります.
竹内: オピオイドは大変有用だということはよく分かりますが,どこの国でも規制がありますね.カナダでは獣医師はどのような手続きが必要なのでしょう.
マシューズ: まず薬局に電話で注文し,薬がきたら,必ずノートに記入するとともに,鍵のかかる二重ドアに保管し,使ったらその量 を必ず記録して,カルテと一致させるとともに,使用獣医師と誰かもう1人のサインが必要です.獣医師であれば,名前をサインして飼主に処方箋を渡すだけで,薬局でオピオイドを買うこともできます.ただ,薬屋さんが電話でそういう先生が本当にいるかどうかを確認することはあるようです.
竹内: 獣医師の資格だけでオピオイドを処方することができるとなると,カナダでは使う人が多いと思いますが,そしてアメリカではどうなんでしょう?
マシューズ: カナダでは,開業獣医師の60%位が病院にオピオイドを保管しております.残りの40%の人達は随分前に卒業された先生方かもしれません.アメリカでも統計的にみまして大体同じような数字だと思います.また薬の管理や免許等もやはり同じような状況ですね.なおアメリカのある州では,ブトルファノールやケタミンが「コントロールドラッグ」として規制を受ける薬剤とされています.
竹内: この辺の事情は日本と大分違うわけですね.そこで日本で獣医師がオピオイドを使う場合に必要な手続きについて西村先生から少しご披露いただけますか?
西村: 簡単に話します.オピオイドを使うためには麻薬使用者という免許を取らなくてはいけないのです.これは医師,歯科医師,獣医師であれば,基本的には都道府県に申請しただけでもらえます.申請自体そんなに難しいことではありません.あとは,金庫での保管,薬局から買ったときと使った記録の保存,カルテへの記載などの義務があります.
  免許を必要とする以外はカナダと同じです.検査はいつ入るか分かりませんが,1〜2年に1回程度のような気がします.
竹内: それほどややこしい申請ではないようですから,多くの獣医師にとってオピオイドを使うことは,決して難しいことではなさそうですね.
西村: そうですね,使った経験からいえば非常に簡単でした.申請書は郵便でも多分大丈夫だったと思います.2年に1回更新しますが,記録を残すことに注意していれば大した手間ではありません.
竹内: そうですか,ありがとういございました.多くの方々があまり手続きを嫌わないでオピオイドを使われるようになると,痛みのコントロールがより容易になることでしょう.