動物の痛みを如何にして知るか
竹内: それでは早速ですが,痛みにはいくつかの種類がありますが,体性痛,あるいは内臓痛,それから連関痛などを動物でどうやってみつけるのかについてお話しいただけませんか?
マシューズ: 痛みには,内科的な疾患による痛みと外科的なものがあります.通 常は,飼い主が訴える食べない,元気がない,嘔吐する,下痢をするなどのいろいろな主訴の中から,病歴や身体検査を通 じて痛みの有無とその場所をみつけるようにします. また,動物の年齢や性別なども,参考になります.例を挙げますと,中年のシュナウザーなら,膵炎を起こしている可能性が,また若いラブラドールであれば,異物を食べた疑いがあるといった具合です.
竹内: 痛みが比較的軽い時にはどんな徴候でつかんでおられるのですか?
マシューズ: 時にはごく微妙な挙動の変化をみつけ出す必要があります.飼い主に,動物の変わった行動の有無を聞くことも重要です.特に呼吸数の上昇は比較的分かりやすい特徴ではないでしょうか.また噛みつくのでそっと触っても振り向いたりする,ちょっとした仕草も重要です.入院動物などでは,誰かがじっくりと観察することですね.
西村: 僕は昨日のマシューズ先生のビデオをみていて,非常に細かく診ておられるな,と思いました.でないとなかなか痛みはみつけられないと思うのです.
山下: 触診に関してですが,跛行の犬では,関節を末端から系統的に伸ばしていきます.いきなり上の方を曲げると下の方まで関節が動くものですから.
マシューズ: 大変重要なポイントだと思います.特に足先を触診する時には他の部分に触らないことが重要です.
西村: ところで,病院に動物がきた時に,痛みを知るのはなかなか難しいことが多いですね.病院にくると全然平気という場合が非常に多いと思うのです.
マシューズ: そうですね,恐らくは,副腎や交感神経系がかなり働いているのではないかと思います.精神的に緊張し,早く病院から逃げ出したいのでしょう.
武部:  僕は1人で開業しているので,痛みの原因がどうしても分からない時には半日だけ入院させて,自分の目でじっくりと観察するようにしています.

マシューズ先生
1980年オンタリオ獣医科大学(カナダ)を卒業後,同学において動物の緊急医療に従事,1993年“American College of Veterinary Emergency & Critical Care”の専門医(Diplomate)の資格を取得,現在オンタリオ獣医科大学Emergency & Critical Care Unitのチーフ.

動物の内臓痛
竹内: 内臓痛の診断法については如何でしょうか?
大橋: 内臓については,腹部の触診時の圧痛の有無をかなり重要視しています.また膵炎ですと,冷たいところを好むなどの稟告を参考にしています.
マシューズ: 内臓痛があると,前足を低くして後\を高くする特徴的な姿勢をとることがあります.「プレイ」つまりお祈りの姿勢です.縮こまるような姿勢をとることもあります.大橋先生同様,触診は大変重要です.

大 橋 文 人 氏
1951年生まれ,1975年東京大学農学部獣医学科を卒業し,修士課程修了後,同大学家畜外科学教室助手,1998年大阪府立大学農学部獣医外科学教室助教授を経て,1998年同教室教授に就任し,現在に至る.