家畜の狂犬病報告数はおよそ1.2%減少し,野生動物の狂犬病報告数も6.9%未満の減少を示している.猫の狂犬病は,6.0%の減少を見せた.この原因は,公衆衛生関連の教育プログラムによる啓発のおかげで猫へのワクチン接種率が高まったことにあるとも考えられるが,狂犬病に感染したアライグマの数が減ったことにあるとするほうがより妥当であろう.ペットに対するワクチンの接種は,そうした動物を介して人が狂犬病に感染するのを防ぐ有効な手段となる.このことは,いくら強調してもやりすぎということはない.人とともに暮らす動物に1例でも狂犬病の症例が見つかると,相当な出費が強いられ,公衆衛生当局は人への感染の可能性を完全になくすべく対処に追われることとなる.家畜に対する広範なワクチン接種は,経済的に実現が困難なばかりか,公衆衛生上の理由で認められてもいない.しかしながら,貴重な家畜や,狂犬病流行地域において人と接触する機会の多い家畜などには,そうした方策も考慮すべきである. 米国の西部では,犬の狂犬病の報告が少ない.このように犬の狂犬病の報告数が減少し続けているのは,公衆衛生のインフラ整備や,野生動物からの飛び火感染による犬の狂犬病の流行を予防するための施策が効を奏した結果といえる. 1998年のウマ科(馬,ロバ,ラバ)の狂犬病82例のうち,44例は5つの州(アイオワ州,ノースダコタ州,オクラホマ州,サウスダコタ州,テキサス州)から報告されている.さまざまな州の衛生担当部局と討論を行った結果,これらの動物の感染した狂犬病ウイルスの型に関する抗原分析や遺伝子鑑定は行われていないことが多いが,検査を行ったもので見た場合,最も可能性の高い感染源がスカンクであることが明らかとなった. また,1998年に1例の人の狂犬病が報告された結果,1990年から1998年のあいだに米国で狂犬病と診断された人の総数は,27人となった.このうち22人は,米国原産の狂犬病ウイルスに感染している.モノクローナル抗体による分析や遺伝子配列の調査によって,これら22人のうち20人が,コウモリ型の狂犬病ウイルスに感染していたことがわかった.したがって,コウモリから人に狂犬病ウイルスが感染するという可能性は,依然として公衆衛生上大きな関心の的となっている.それゆえ,どのような行動がコウモリとの接触の機会を増加させるか,慎重に調査する必要がある. コウモリの狂犬病は,陸生肉食動物に見られる狂犬病とは疫学的に性質を異にしている.コウモリにおける狂犬病の伝播については,肉食動物における伝播と違い,今なお不明な点が多い.経口型ワクチンの使用は,ヨーロッパやカナダ南東部と同様,米国でも陸生動物の狂犬病の抑制に効果を発揮しているが,コウモリの狂犬病の流行を阻止したり,それが人に伝染する危険を減らしたりする効果は期待できない. |