| しかし,第二次世界大戦後の混乱期を経て,農業や社会構成の変化から獣医師に対する社会的な要請も次第に変ってきた.また,法的な整備も行われ,獣医師法を中心として農林水産分野では家畜伝染病予防法,家畜改良増殖法,農業災害補償法,獣医公衆衛生分野では,と畜場法,食品衛生法,狂犬病予防法,動物愛護法あるいは薬事法などが整備された.さらに最近では医学における感染症の予防および感染症患者の医療に関する法律にも獣医師の責務が明記された.獣医師の社会的な活動分野も農林水産分野,小動物臨床分野,野生動物関係分野,動物愛護関係分野,獣医公衆衛生分野,パラメディカル分野,環境衛生分野,人と動物の関係分野あるいは海外協力関係分野と広範囲にわたり,獣医学教育に対する社会的な要請も,その時代によって次第に広範囲で多岐にわたるようになってきた.さらに,日本の経済復興と科学の進歩発展によって,労役に使用された牛・馬は農機具に転換したが,動物蛋白資源として家畜の生産が急速に進展し,産業動物の診療ならびに予防に対する獣医学術に関する要請が強くなり,産業動物臨床医学が急速に発展した.また,犬や猫その他の愛がん動物が次第に増加し,経済的に豊かになり伴侶動物(コンパニオンアニマル)が増加したことから,小動物臨床医学は欧米の獣医学の導入によって著しい発展を遂げてきた. しかしながら,戦後における獣医学修業年限は,4年制の大学教育に改変されたが,獣医学教育内容の充実は進展しなかった.4年制教育の前期2年間は教養課程の教育で,専門教育は後期の2年間だけであり,改変前の専門学校における専門教育よりも改変後の専門教育時間が減少する結果となった.また,戦前の獣医学における専門教育のうち,臨床教育は陸軍獣医学校が実務的な教育を行っていたこともあって,各専門学校や大学における臨床教育や獣医公衆衛生等の応用獣医学の教育はきわめて貧弱なものであり,家畜の伝染病に関する基礎獣医学の教育が主体であった.この教育体制は戦後における修業年限4年制大学ならびに6年制大学に移行しても依然として変らなかったことに,今日における獣医学教育体制の大きな悩みと問題が生じている. 3)獣医学修業年限の延長 第2次大戦後の抜本的学制改革が行われた際に,GHQから獣医学教育の修業年限は医学・歯学とともに6年制を勧告された.医学・歯学は6年制に移行したが,当時のわが国における家畜頭数や軍人獣医師の廃退による獣医師数の余剰あるいは教育費用等の事情によって,獣医学教育の修業年限は4年制大学へ移行するにとどまった.また,欧米のような狩猟民族とわれわれのような農耕民族との違いあるいは動物に対する宗教的な観念もあり,当時のわが国においては,今日のような獣医師の活動分野の拡大が想定できなかったことが,一挙に修業年限を6年制に移行できなかった大きな理由であった.当時の獣医学関係者が欧米の獣医学事情に精通していたとすれば,GHQの勧告を容易に受け入れ,今日のような獣医学教育の混乱を招くことはなかったであろうと反省される. |