| (3)獣医学に対する社会的要請 わが国の社会的成熟と経済の発展に伴って,獣医学に対する社会的な要請は欧米諸国と同様に産業動物分野,小動物分野,野生動物分野,獣医公衆衛生分野,環境衛生分野,人と動物の関係分野,動物愛護関係分野あるいは動物介助療法(アニマルセラピー)等で,獣医学に対して多岐にわたって多様な要請がなされている.特に動物の疾病に関しては,動物の種別ごとに個体の診療各科にわたって専門的で高度な動物医療が要請されている.しかし,現在の獣医学教育では,これらの要請に応えられるだけの教育体制が整備されていないため,実務教育がきわめて貧弱であることから獣医師の技術的または学術的な未熟に対する社会的な批判が強い. また,基礎獣医学や野生動物学では,地球的または国際的な視野で人と動物の共生を図るために国際的な学術交流が求められている. 一方,このように多面的で多様性のある社会的要請に対する獣医学の将来性に大きな魅力と関心が高まり,獣医学専攻を目指す入学志願者が増加し,国・公・私立を問わず10数倍の入学率が長期にわたって続いている.このように優れた人材を多数受け入れている大学の獣医学科では,これらの人材育成に対する責任はきわめて重いことを痛感していると同時に,社会的な要請と国際的に対応できるような教育が強く求められていることも深く認識している. (4)欧米の獣医学教育 わが国は戦後に急速な経済復興を遂げて先進国となったが,獣医学の教育内容に関しては欧米諸国の獣医学教育レベルに到底及ばないのが現状である.欧米諸国におけるおもな国の獣医系大学の数はアメリカ27校,カナダ校4校,イギリス6校,フランス4校,ドイツ6校,イタリア10校,スウェーデン,ノルウェイ各1校,オーストラリア5校,韓国10校,タイ3校,マレーシア1校等であるのに対し,わが国では16校となっており,諸外国に比較して獣医系大学が圧倒的に多い.欧米諸国の獣医学修業年限は,各国の事情によって多少異なるがおおむね6〜7年で,そのうち専門教育は4〜5年であり,臨床や応用獣医学の実務教育が中心となっている.そして動物医学として多分野にわたり高度で学術的な専門教育が行われている.実務教育の内容は,卒前教育によって実社会でただちに役立つ獣医師としての専門教育である.また,卒後教育としてインターン制度,レジデント制度,専門医制度が確立している.しかし,欧米諸国においても各大学の教育内容に格差があることから,EU諸国は獣医学教育基準の統一について10数年前から検討し,1998年にその統一が実現した.これに伴ってわが国の獣医学教育も実務教育の充実を図り,早急に欧米の獣医学教育水準に引き上げなければ,欧米諸国の獣医学教育に立ちおくれるだけでなく,家畜やその他の動物あるいは畜産物等の輸出入検疫,動物の新興・再興伝染病の防御,動物性輸入食品の安全性確保あるいは学術情報の交流等において,国際的に重大な支障を来すおそれがある.また,動物愛護に関する教育レベルが低いことは,先進国を自認するわが国の社会文化の程度が問われることになる. |