7.防   疫

  1)国際的な防疫体制
  口蹄疫は国境を越えて蔓延し,発生国に社会・経済的規模の被害を及ぼす恐れのある伝染病である.そのため,現在国連FAOやOIEなどの国際機関が中心になって,口蹄疫の防疫活動が世界各地域で展開されている.特に,OIEは,畜産物の国際流通における本病の重要性から,口蹄疫をはじめとする重要な家畜伝染病に関する国際衛生規則(国際家畜衛生コード)を定めている[85].国際協調と規制緩和を目標に発足した世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生措置)が発効してからは,この規則は畜産物の国際流通に特別大きな意味を持つようになっている[116, 120].この規則のうち口蹄疫に関しては,国や地域にあてはめられる口蹄疫清浄度区分とその基準,境界措置および清浄化への条件などが詳細に規定されており,その規定に従って畜産物の貿易が行われる.万一,清浄国で口蹄疫が発生した際にも,ふたたび清浄国に復帰するまでには,ワクチン接種や殺処分方式の有無,ワクチン接種動物の淘汰,広域サーベイランス体制の実施など,採用した防疫手法によって異なる条件を守る義務が加盟国に課せられている.また,各国は発生時の防疫の理論と実践および問題点を検討し,独自の防疫マニュアルを準備している[5, 52, 92-94].
  2)日本の防疫
わが国はOIEの口蹄疫清浄度区分でも最も高い清浄度に位置付けられている.このため,国際家畜衛生規則による輸入相手国の口蹄疫清浄度に応じて,農畜産物に輸入禁止,条件輸入などの制限措置を講じ,その清浄度を維持している.また,同時に関連法規に基づいて厳重な検疫体制が敷かれている.しかし,万一わが国で口蹄疫が発生した場合には,「家畜伝染病予防法」(法律第166号,昭和26年5月31日)ならびに「海外悪性伝染病防疫要領」などの関連法規に基づき,移動制限と殺処分方式を基本とする防疫措置がとられる.病性決定までの措置や決定後の措置などもこの防疫要領に定められている.
  それによると,患畜および疑似患畜はすべて殺処分と埋却あるいは焼却する.疑似患畜には,患畜と同居する感受性動物のすべてと,口蹄疫の伝播において発生農場と関係のある飼養施設の感受性動物すべてが対象になる.口蹄疫の伝播はきわめて早いので,発生した場合に最も重要なことは,可能な限り早期に発見して,発生農場の家畜を移動禁止とし,病性が決定したら早急に殺処分して,蔓延防止を図る.汚染飼料,畜舎および汚染の可能性のあるすべての器具,資材も消毒または焼却する.発生時に防疫資材として使用する消毒液には,安価で大量に調達できる確実な消毒液が望ましく,2%苛性ソーダや4%炭酸ソーダ(いずれも工業用で可)などが適している.一方,蔓延防止のために発生地を中心にした段階的な移動制限措置がとられる.患畜と疑似患畜の所在する発生地では,48時間を越えない範囲で通行遮断が実施できることになっている.また,発生地から半径20km以内を汚染地とし,最終発生例の措置後3週間までの範囲で牛や豚など感受性家畜の移動を禁止,家畜市場や食肉センター等を閉鎖する.さらに,発生地から半径50km以内を警戒地域とし,初発後3週間以内の範囲で牛,豚,めん山羊などの感受性家畜の域外への移動を禁止する.こうした蔓延防止措置はきわめて重要かつ有効であるが,その実施に当たっては綿密な追跡調査の結果に基づいて実施される必要がある.