ワクチンによる免疫の持続期間は,ワクチンの抗原量(146S含有量),質(株固有の免疫原性の強弱),およびアジュバントなど,ワクチン製剤ごとに異なる(Table 8).一般に,免疫の持続という観点から見ると油性ワクチンが優れているが,水性(アルミゲル)ワクチンに比較して,その種類が多く持続期間は一様ではない.また,抗原量を増加させれば長い免疫持続期間が得られるというものではない.高い親和性を持つ抗体を得るためには高品質の抗原を至適量で免疫する必要があり,それにはアジュバントの種類や追加免疫の間隔が適切であることも重要な要素になる[30].

移行抗体の持続期間は動物種や母獣の免疫状況により大きく左右されるが,FlachselとHubikによると[47],ワクチン免疫した母豚から生まれた子豚の感染防御率は,生後1カ月,2カ月および3カ月でそれぞれ90%,50%および8%で,生後2〜3カ月で急激に感染防御能が低下している.またAhlとWittmannは[1],子牛の移行抗体による感染防御能は生後4カ月で約10%と見積もっている.しかし,ワクチン免疫あるいは感染免疫のいずれによるものでも,移行抗体の存在はワクチンによる免疫賦与の障害になる[63].また,その障害の受け方は,ワクチン製剤ごとに異なっている[30].
  3)ワクチン株の選択
  口蹄疫が発生しワクチンを使用する必要が生じた場合は無論のことであるが,ワクチンを使用していない清浄国においても不測の事態を想定したワクチンの備蓄や,後述するワクチンバンクへの加盟といった対策がとられる.その際,野外株とワクチン株との抗原性状の関係がワクチンの効果にきわめて重要になる.このため,予測される流行株あるいは発生時の分離株の抗原性状が,ワクチン株との関係で前述したr1値をもとに解析される.実際の手法はワクチン製造会社により異なるが,現在口蹄疫WRLが世界の分離株について解析情報を提供している方法は概略以下の通りである[46].すなわち,最初に間接エライザ・サンドイッチ法で多数の抗ワクチン株モルモット血清に対する分離株の反応性を調べ,至適ワクチン株の絞り込みを行う.次いで液相競合エライザ・サンドイッチ法でワクチン株免疫牛血清(接種後21日)を用いて,前述のr1値を算出し最適ワクチン株を選択するというものである.この方法は,迅速で実験室内検査で実施できる簡便な方法であるが,単純にワクチン株と流行株との抗原相関度を示すものであって,ワクチン抗原の安定性,量,質,さらに宿主への免疫原性などで評価されるワクチン製剤の総合的な能力を示すものではない.