口蹄疫ワクチン接種後の免疫グロブリンの消長をみると,牛では,ワクチン接種後2〜4日でIgMが出現し80日間以上持続する.ワクチンで誘導されたIgMの力価には明瞭なピークはみられないが,感染免疫のそれより高力価である.IgM抗体は中和試験でもタイプ間に交差がみられる.IgG1は接種後4日から検出され少なくとも40日間は持続する.一方,IgG2はワクチン接種後9日から検出され,35日後にピークとなる.しかし,個別のアイソタイプの力価や産生比率はワクチン製剤に用いるアジュバントの種類によって異なる.口蹄疫ウイルスの感染では,免疫グロブリンのアイソタイプのうち,少なくともIgG1とIgG2との間に抗原特異性や力価および親和性などの点で差異はない.しかし,通常の不活化ワクチンでは,IgG1が,またペプチドワクチンではIgG2が,より効果的に誘導され,その免疫効果を比較するとIgG1が牛の免疫により有効と考えられている.ワクチンの種類や移行抗体の有無によっても異なるが,通常牛では,1回のワクチン接種で感染防御能は接種後21〜28日でピークとなり,その効果は数カ月程度持続する.最近の報告では油性ワクチンによる牛と豚の免疫で,未だ中和抗体が検出されない接種後数日からすでに感染防御効果が認められている[30, 34, 38].
  ワクチンによる粘膜局所の免疫の誘導をみると,牛では分泌型IgAの誘導はアジュバントの種類と接種頻度に依存し,通常の水性ワクチンを1〜2回接種したのみでは,血清IgG1の局所への移行はみられても,分泌型IgAの産生能は誘導できない.豚では,油性ワクチン(油中水型または水中油中水型)で免疫すると接種後3〜7日で鼻汁に中和抗体が検出される.しかし,追加免疫すると血清中和抗体価はその都度上昇するが,局所の中和抗体価は追加免疫に対しても大きく変動しない.豚における局所の感染防御能と血清中和抗体との関係は,牛におけるものほどには判明していない[30].
  ワクチン接種後の細胞性免疫の誘導もおもに牛で調べられている.末梢血リンパ球増殖反応はワクチンを数回以上接種した場合に認められ,口蹄疫ウイルス特異T細胞の免疫記憶は比較的長期間持続する.しかし,牛のT細胞の反応にはウイルスのタイプ間に交差反応がみらる.これはキャプシド蛋白質分子上のタイプ共通抗原決定基に依存する反応と考えられ,合成ペプチドを用いたT細胞抗原決定基の解析で明らかにされている.すなわち,種々の合成ペプチドで免疫した結果,牛のT細胞は主要キャプシド蛋白VP1のアミノ酸配列141〜156番目と同じく200〜213番目を認識し,前者の領域はタイプ特異反応がみられるのに対して,後者の領域はタイプ特異反応を示さない[30].一方,豚のT細胞の応答は牛のそれほどには調べられていない.Cタイプワクチンを接種した近交系豚において,ウイルス粒子や単離キャプシド蛋白質でタイプに非特異的なT細胞の免疫が誘導されたという報告があるに過ぎない.また,豚に2回ワクチン接種するとT細胞の免疫記憶は約1年間持続するが,T細胞増殖反応の誘導には牛の場合に比較してより多量の抗原が必要であるという[30].