6.免疫とワクチン

  1)感染免疫
  口蹄疫ウイルスのひとつのタイプに感染耐過した動物は,そのタイプに対して感染防御するが異なるタイプに対しては感染防御しない.牛の実験では,感染耐過すると中和抗体と感染防御能は4.5年〜5.5年間持続する.感染防御能はおもに液性免疫に依存し,その免疫応答もタイプやサブタイプに特異的である.牛ではIgMは感染後3〜5日で検出され,5〜10日でピークに達するが,長期間は持続しない.IgG1とIgG2は,IgMより4日遅れて出現し,感染後15〜20日で最高値に達する.中和抗体の長期間の持続はおもにIgGによるものである.粘膜上の感染免疫もおもに牛で調べられている.粘膜上の中和抗体の主体はIgMとIgAで,感染後7日で咽頭液に検出される.感染後20〜60日でも咽頭液に中和活性を持つIgAが検出されるが,これは局所で産生されたものと考えられている.キャリアー化した反芻獣の中和抗体価は,血清と咽頭液のいずれにおいても,キャリアー化していない個体のそれより高く長期間持続する.これは持続感染したウイルスの免疫刺激が継続するためと考えられている.感染後の細胞性免疫の関与は最近研究が開始されたばかりで体系的な解明はなされていない[30].
  めん羊では,中和抗体は感染後60時間で出現し,その力価は10日後に最高値に達する.その後抗体価は低下し始めるが,実験成績によると147日後まで中和抗体は存続している.しかし,中和抗体を持ちながらも,めん羊は最高9カ月,山羊は1カ月までキャリアーとなってウイルスが回収できる[30].
  豚では,血清中和抗体価は感染7〜10日後にピークに達したのち,28日までに急激に低下し,4カ月後には消失する.感染耐過豚に3〜6カ月後攻撃接種すると,その半数が感染防御せず発病するという.鼻腔粘膜上の中和抗体も血清中のそれと同様の経過をたどり,ウイルス感染後50日ほど持続するに過ぎない[30].このように,豚は牛に比較して感染抗体の持続期間が短い.豚がキャリアー化しないこととの関係で興味深い.
  2)ワクチン免疫
  口蹄疫ウイルスの感染と同様にワクチン接種による免疫応答にも,多様な変動要因が関与している(Table 8)[30].
  このため,口蹄疫ワクチンによる宿主の免疫応答を一律に論じるのはきわめて困難である.また,口蹄疫ワクチンの免疫に関する研究は従来牛を対象に実施されたものが多く,豚やめん山羊を対象とした研究は乏しい.しかし,近年牛以外の家畜のワクチン免疫に関する研究も盛んに行われるようになっている.