4.病理発生と病変

  1)病理発生
牛での観察をもとに,口蹄疫ウイルスの伝播はウイルス粒子を含むエアロゾルの吸引によって起こるとされている[109].しかし,牛の感染試験では,舌上皮内,筋肉内,気管内,眼結膜上,皮下,静脈内,鼻腔内,子宮内,乳腺内,経口のいずれの経路からでも感染が成立する[115].また,牛では,ウイルスの呼吸器深部への到達は,ウイルスを含むエアロゾルの大きさに関係し,平均3〜6ミクロンのエアロゾル粒子が最も到達しやすいといわれる.しかし,豚では野外例の観察から初感染は経口感染によるとの指摘もある[113, 117].精液にもウイルスが含まれるため,汚染精液を介して人工授精や交配で感染が成立する[23, 74, 80].
  感染後のウイルス排出を牛,豚およびめん羊で比較したBurrowsの報告によると(Table 3),感染家畜のウイルスは,いずれも水疱形成の相当以前から検出されるが,咽頭部からの検出が最も早期で,血液,乳汁,直腸,膣からの検出時期より早い[19, 21].このことから,ウイルスは体内で最初に咽頭部で増殖し,次いで血流に乗ってその他の組織,器官に到達するものと考えられている.血流を介してウイルスが到達した後のウイルス増殖部位は,リンパ節,消化管,筋肉,特に心筋,乳腺,皮膚,口腔粘膜上皮,膵臓,脳下垂体などである.このうち筋肉では肉眼的にも組織学的にも病変が認められ,特に若齢獣は心筋炎を起こして水疱形成前に高率に突然死する.牛では,ウイルス血症は最初の水疱が形成される1日前または形成当日から3〜5日間継続する[21].こうした急性期の感染牛の組織内ウイルス量はきわめて大量で,その最高値は心筋で1010ID50/g,リンパ節で108.2ID50/g,血液で105.6ID50/gとなる[72].豚の場合,感染ウイルスは最初咽頭から肺にかけての呼吸器で大量に増殖し,牛や羊の数百倍から数千倍のウイルスを排出する.その後,ウイルスは肺と付属リンパ節のマクロファージによって皮膚,粘膜および心筋に到達して増殖する[58].さらに,ウイルス血症が3〜5日持続し,鼻,口,蹄などに水疱を形成する.豚では水疱形成はストレスや機械的刺激も誘因になる.
  2)病   変
  水疱病変を肉眼的に見ると,水疱は最初境界明瞭で次第に水疱液が貯留する.組織学的にみると,水疱は角質細胞の水腫と壊死を伴って有棘層に形成され,やがて上皮細胞は基底層から剥離する.水疱形成が不十分な場合には,角質層を通して乾燥する.基底層に病変が認められることはない.細菌の二次感染がなければ,上皮は数週間で修復される.しかし,蹄部の水疱は二次感染を起こしやすく,蹄冠の剥離が生じると回復に長時間を要する.幼若豚の心筋病変では,好中球の浸潤を伴う心筋の変性壊死がみられ,虎斑心と呼ばれる特徴的な変性壊死病変を形成する[58, 115, 118].