3.臨 床 症 状

  1)牛の症状
  牛の潜伏期は平均約6日であるが,前述したように潜伏期間は感染ウイルス量によって異なる.この潜伏期をおいて通常,発熱,流涎,跛行などの症状がみられる.乳牛では発病前から泌乳量が減少するので,最初は乳量の減少で異常に気付くことが多い.水疱は,舌,歯齦,口腔粘膜,鼻孔粘膜,蹄間部,乳房,乳頭などにみられる.蹄部の水疱は細菌の2次感染を受けやすく,趾間腐爛と間違えやすい.こうした水疱も短期間のうちに上皮が剥離し,潰瘍やび爛に移行する.幼牛は心筋炎により高い死亡率を示すが,一般の牛の死亡率は低い.しかし,乳牛,肉牛のいずれも運動障害と採食困難に陥り,産業動物としての生産性は著しく低下し,廃用になるものも多い.新生子牛は心筋炎で死亡する.また,めん山羊にも水疱が同部位に形成されるが,症状は牛ほど明瞭ではない[58, 115].
  2)豚の症状
  豚の潜伏期も感染ウイルス量によって異なる.豚では,最初に発熱(40.5以上),食欲不振および嗜眠がみられる.さらに,鼻鏡や鼻腔の皮膚粘膜,舌,口唇,歯齦,咽頭,口蓋などの粘膜と蹄部に水疱が出現する.豚では蹄部,特に蹄冠部,趾間,副蹄の水疱形成が顕著である.このため跛行によって異常に気付くことが多い.また,起立しようとして犬座姿勢をとる.母豚には乳頭にも水疱がみられる.水疱は初期には小さいが次第に拡大し透明感のある多量の水疱液を満たす.その後,6〜24時間で水疱は自壊し,び爛,仮皮形成を経て,細菌の2次感染がなければ7〜14日の経過で回復する.しかし,水疱形成が重度に及ぶと,出血を伴って蹄冠が脱落することも多い.台湾の事例では蹄部の水疱形成が顕著で,落蹄も多数みられ,そのための疼痛から跛行,歩行および起立不能などを起こしている.また,舌や口腔粘膜の水疱も顕著で,重症例では採食,採水障害を起こし,こうした運動障害は,豚の体重減少,脱水,衰弱などを招き,生産性は著しく低下する.また,事例は少ないが妊娠豚は流産することがある.清浄国などで免疫をまったく持たない場合の感染率は100%に近い.致死率は,通常5%未満であるが,新生豚では心筋炎を起こしやすく,その致死率は50%以上に及ぶ[58, 115, 118].
  3)類症鑑別
  口蹄疫とよく似た伝染病として,豚では豚水疱病,水疱性口炎,水疱疹および豚痘などのウイルス病がある.また,牛では,牛伝染性鼻気管炎,牛ウイルス性下痢・粘膜病,ブルータング,趾間腐爛などの類似疾病も一見口蹄疫に似た症状を示すので注意する必要がある.なお,豚水疱病や水疱性口炎は口蹄疫と同様にわが国には発生がなく,いずれも臨床的に口蹄疫と区別ができない.これらの水疱性疾病が発見された場合には,口蹄疫を想定した対応が必要で,最終的には後述する実験室内検査を実施する必要がある.