5)培 養
  口蹄疫ウイルスの培養には,牛,豚,めん羊,山羊など偶蹄類家畜の腎臓や甲状腺由来の初代培養細胞と種々の株化細胞が用いられる.初代培養細胞も継代を進めると感受性が低下する.株化細胞では,豚腎由来のIBRS2細胞,ハムスター腎由来のBHK21細胞,牛腎由来のMDBK細胞などが感受性が高い[62].培養細胞の感受性はウイルス株やその継代歴によっても異なっている.ウイルス分離には子牛甲状腺の初代培養細胞が好んで使用されている[107].しかし,近年特定宿主に親和性が高いウイルス株が出現するようになって,こうしたウイルス株の分離や増殖にはその宿主動物に由来する培養細胞を用いる必要も生じてきている[42].豚に親和性が高かった1997年の台湾株は牛甲状腺初代細胞より豚腎由来のIBRS2細胞でよく増殖し,その差は感染価で102.4TCID50/mlであったという[42].なお,2〜7日齢の哺乳マウスもウイルス分離に用いることができるが,ウイルス分離には時間を要する[57].

2.疫   学

  1)最近の発生
  1992〜1996年における口蹄疫ウイルスの流行地域をTable 1に示す.
  この間の各タイプの発生件数は,Oが最も多く全体の約半数を占め(49%),A(25%),Asia1(10%),C(6.5%),SAT2(5.8%),SAT1,SAT3(1.7%)の順となる[62].従来,O,AとCタイプはヨーロッパ型,SAT1〜2タイプはアフリカ型,Asia1タイプはアジア型と通称されてきたように,各タイプの発生には現在も地域的な特徴がある.また,AやOタイプでは,従来のサブタイプでみると固有の地域分布がみられる.
各地域における最近の発生概要は以下の通りである[62].ヨーロッパでは欧州連合の発足に伴って,1992年1月から域内のワクチン接種を全面的に中止している.その後,1993〜1995年の間にブルガリア,イタリア,ギリシャ,ロシアなどにOタイプを中心に散発的な発生があった.ヨーロッパにおける最近のOタイプには,1995年のロシアのものを除いて,株間に近縁関係が認められている.ロシアにはAタイプの発生もみられている.中東とアジアではO,AおよびAsia1タイプの流行がみられるほか,フィリピンにはCタイプの発生がある.また,近年フィリピンや香港で分離されているOタイプは,1995年のロシア,1997年の台湾とベトナムで分離されたOタイプの流行株と遺伝学的に近縁で,いずれも豚に親和性が高いという特徴がある.しかし,東南アジアでは同じOタイプでも,従来から流行しているものと,最近流行地域が拡大する様相がみられる台湾の流行株と同じものが混在している地域もあって,東南アジアの口蹄疫撲滅計画の推進上問題になっている.アフリカではAsia1を除くすべてのタイプの発生があるが,南アフリカ,ボツワナ,モロッコなど最近では発生がみられなくなった国も少なくない.がみられなくなった国も少なくない.しかし,アフリカでは野生動物を含めた発生の実態はよく分かっていない.