口蹄疫ウイルスの特徴のひとつは抗原性状に多様性が認められることで,多数のタイプとサブタイプが存在する.口蹄疫ウイルスのタイプとサブタイプは,宿主における感染防御能が相互にまったく欠如する(タイプ)か,あるいは感染防御能が部分的なもの(サブタイプ)か,というワクチンの有効性に関係する現実的な問題から生じている[68].146S完全粒子と75S中空粒子はいずれもタイプ特異的な抗原性状を示すが,12SサブユニットとVIA抗原にタイプ特異性はなく,タイプ間で交差反応が認められる.特に,146S完全粒子は感染防御能を誘導する口蹄疫ワクチンの主要な免疫源である[31].また,合成ペプチドを用いた研究によると,タイプ特異性はVP1分子上のアミノ酸配列141〜158番目の抗原決定基が重要とされている[30].前述したように,口蹄疫ウイルスのタイプには,O,A,C,SAT1,SAT2,SAT3およびAsia1の7種類があるが,同一タイプであっても株間には著しい抗原性状の多様性が認められ,1977年までに合計66種類のサブタイプが確認されている(Table 1).なお,後述する理由によって1989年以降は野外株のサブタイプ分類は実施されていない.
  口蹄疫ウイルスにみられる著しい抗原の多様性は,宿主の免疫圧力よる選択的抗原変異に起因すると考えられている.口蹄疫ウイルスは8,500塩基からなるRNAウイルスであるので,10,000回の複製に1回発生するというRNAウイルス核酸の推定塩基置換頻度から換算すると,1回のウイルス感染でおおよそ1個の塩基の置換が生じることになる.しかし,モノクローナル抗体で抗原解析した成績によると,口蹄疫ウイルスには4種類の重複しない抗原決定基が存在し,そのうち1種類でも中和抗体が結合すると中和される.このため,宿主の免疫圧力を回避するための抗原変異は4種類の抗原決定基のすべてに変異が起きる必要があることになる[66].このことから,口蹄疫ウイルスの感染防御に影響する抗原変異の頻度そのものは,上記の推定値よりは低いものと推測されている[61].


1)国際獣疫事務局年報(O.I.E. Bulletin)より,1992〜1996年
2)現在はサブタイプの分類は実施されていない