南アメリカではO,AとCタイプによる発生がある.ウルグアイとチリがOIEにより清浄国に承認されたほか,アルゼンチン,パラグアイ,ブラジル南部では1995年以降ほとんど発生がない状態が続いている.これらの地域は畜産業の潜在能力が高く,口蹄疫の撲滅によって将来畜産物の国際流通に大きな影響を及ぼす可能性がある[6].また,Aタイプについては,1996〜1997年にかけてイラン,タイ,マレーシア,西アフリカおよびエリトリアにおいて,従来のものに比較して,抗原ならびに遺伝学的性状が著しく異なるAタイプの出現がみられ,既存のワクチンが効かない可能性も指摘されている(Dr. Kitching,私信,1998年).このため,欧州連合は1998年夏までに欧州側トルコ地域に新分離株を用いた緊急ワクチン接種を実施し対欧州ワクチンバリアを設定している(1998年口蹄疫防疫欧州委員会議事録).以上のように,世界における最近の口蹄疫発生動向をみると,新しいウイルス株が出現して発生が継続している地域もあるが,一方において周辺国や国際機関との協力で清浄化が進みつつある地域もある.
  わが国で口蹄疫であることが確認されているのは,1900〜1902年の間の発生事例である.当時,茨城,東京,埼玉,千葉,石川,岐阜,兵庫,福島,新潟などの各地で国内発生があり,合計3,532頭の発病牛があったことが記録されている[86].また,1919〜1933年の間には,横浜,神戸,長崎,大阪,門司,敦賀などの動物検疫所内で,中国大陸や朝鮮半島から輸入された牛に口蹄疫が摘発された事例があるが,いずれも国内伝播は阻止されている.このように,わが国では今世紀初頭に国内発生を経験したのち現在まで本病の発生を認めていない(Table 2).