3)遺伝子と蛋白質
  ウイルス核酸は約8,500塩基(分子量2.9×106ダルトン)の感染性を有する陽極性の単鎖RNAで,その基本構造は5'VPg(virion protein genome-linked)―5'非翻訳領域―ポリ蛋白質領域―3'非翻訳領域―ポリ(A)3'となる(Fig. 1).5'非翻訳領域は1,200塩基で,他のピコルナウイルス科のウイルスに比較して長く,しかもポリ(C)配列が存在する.ポリ(C)配列の長さは分離株ごとに一定しており,ウイルス株の同定に有用である.ウイルスRNAには1個の巨大な読みとり枠(open reading frame)が存在し,感染細胞の翻訳機構を利用し,1本のポリ蛋白質が合成される.ついで,ポリ蛋白質はウイルス遺伝子にコードされる蛋白質分解酵素によって段階的に自から切断され,機能を持ったウイルス特異蛋白質となる[100].ポリ蛋白質の構成はピコルナウイルスの統一命名法であるL434方式で示される[100, 112].すなわち,Lはリーダー蛋白質に,キャプシド蛋白質のP1,非構造蛋白質のP2およびP3は,最終的にそれぞれ4,3および4種類の蛋白質に解裂区分されることによる.各ウイルス蛋白質はN末端から順にA,B,CおよびDと大文字アルファベットで呼ばれる(Fig. 1).キャプシド蛋白質P1の最終産物1Aと1B(前駆体VP0を経て解裂),1Cおよび1Dは,それぞれVP4とVP2,VP3およびVP1に相当する.VP1,VP2およびVP3の分子量は23.3〜24.7×103ダルトンとほぼ同じであるのに対し,VP4の分子量は8.5×103ダルトンと小さい.一方,非構造蛋白質のP2およびP3は,最終的にそれぞれ2A,2Bと2Cおよび3A,3B,3C(3ABC前駆体を経る)と3Dの非構造蛋白に解裂する.これらの蛋白質はウイルス増殖に関与し,3CはLとともにプロテアーゼ活性を持つこと,2Aは機能は明らかではないが他のピコルナウイルスよりサイズが小さく,2BにはB細胞抗原決定基が存在すること,3DはVIA抗原でRNA依存RNAポリメラーゼであることなどが判明している.
  4)抗原性状
  口蹄疫ウイルスの感染と免疫に関与する主要な抗原決定基はVP1分子上にある.このことは,感染性ウイルス粒子のトリプシン処理で感受性細胞への吸着や感染性が低下し,SDS-PAGEでウイルス蛋白を調べるとVP1のみがトリプシンのため2つの成分に分裂するが他のVPは影響を受けていないこと,単離したVP1のみが実験動物で中和抗体の産生と感染防御効果を持つことからも明らかである[7, 68].さらに,VP1分子上でβ鎖G-Hループに存在するアミノ酸配列141〜160番目に主要抗原決定基が,また同200〜213番目にも抗原決定基が存在する[30, 100].また,これら抗原決定基の145〜147番目と203〜213番目に存在するArg-Gly-Asp配列(RGD配列)は,宿主細胞のレセプターとの結合に関係している[79].